魔法のチケットを手に入れた映画好きの少年が、
映画の中のヒーローと大冒険を繰り広げるファンタジー・アクション。
ラスト・アクション・ヒーロー
LAST ACTION HERO
1993
アメリカ
130分
カラー
<<解説>>
映画の世界に行ってヒーローやヒロインと会ってみたい。映画好きなら一度は思い描いたことがあるはずの夢を、最高のキャストと最高のスタッフで鮮やかに描き出した90年代最高の余興映画。魔法のチケットで映画の世界に飛び込んだ少年が、そこで出会った劇中のヒーローと一緒に悪玉と対決。ところが、悪玉は少年から奪った魔法のチケットを使い、現実世界に飛び出してしまう。映画の中から現実へ。そしてまた、現実から映画の中へ。映画と現実の間を股にかけた大冒険が、二転三転するハチャメチャな展開の中に描かれていく。
映画の中の憧れのアクション・ヒーローに扮するのは、当時最高の人気を誇ったスターのシュワルツェネッガー。彼のイメージそのまんまの破天荒なヒーローと、それを演じるシュワルツェネッガー自身を二役で演じる。監督は『ダイハード』のジョン・マクティアナン。90年代のアクション映画は、ある意味、彼のせいで無闇に派手になってしまったとも言えるが、本作では、それをさらにオーバーにパロったド派手なアクション・シーンの連続で畳み掛ける。映画は劇中劇「ジャック・スレイター3」のクライマックスからはじまるのだが、「まったく。今日はクリスマスだというのに」とい台詞からはじめるセルフ・パロディにもニヤリだ。
映画と現実を股にかけた活劇を描くだけでなく、映画と現実の間のカルチャー・ギャップも期待通りに見せてくれる。というより、それが本作の最大の見所といってもいいかもしれない。映画の中ではありえないくらいの大活躍をしていたヒーロー・ジャックも、現実にやってくればその世界の自然法則に従うことになる。映画の中のつもりで滅茶苦茶に行動すれば、その見返りを受けるのはジャック自身。何をやっても思い通りにいかず、自信を失うジャックの姿がちょっぴり切ない。現実世界に舞台を移して繰り広げられるクライマックスでもジャックは苦心し、ヒーロー・アクション映画として気持ちの良いものではない。しかし、それは、人生が映画のようには上手く運ばないことを教える教育的なオチとも言える。
カルチャー・ギャップの中でも、社会風刺に関するものが特に面白い。少年にチケットをあげた映写技師は、自分が作り物だと知って落ち込んでしまったジャックを勇気づけようと、映画は夢にあふれている一方で、現実はまったくひどい世界であることを強調。ところが、本当に現実がひどいことに気がついていたのは、意外にも、映画の世界から飛び出した悪玉ベネディクトだった。彼、ニューヨークの街でスニーカー狩りを目撃した時、たかが靴のために人が傷つけられたことに驚く。しかも、こんな大事件がおきているのに周囲の人は無関心で、悲鳴も起こらないのだ。悪人には悪人の仁義というものがあるはずだ。クライマックスでベネディクトは、彼なりに理想の悪役を演じてみせようとしたのかもしれない。
カルチャー・ギャップ・ネタの一部として、この手の映画のお約束である映画パロディも満載だ。パロディの中には、かなりマニアックなネタも隠されているようだ。しかし、市内局番がことごとく“555”だったりとか、月の前を自転車を横切ったりとか、シュワが例の決め台詞を吐いたりとか、普通の映画ファンなら常識と言える程度のものさえ理解できれば、十分楽しめるのでご安心を。また、パロディに加えて、超豪華なカメオ出演も話題になったが、瞬きをしている間に見逃さないように注意(シャローン・ストーンがどこに出てきたか、一回観ただけで分かる?)。
とにかく、笑っちゃうらいに楽しい映画だが、パロディのためのパロディは二流以下と見られたのか、テレビ放映で頻繁にかかりながらも、あまり高い評価をされない不遇の作品でもある。来るべくパート2への伏線も残していたと思われるのだが……。
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