高校の下級生に恋をした満男は彼女に会うため佐賀まで家出。
現地で出会った寅次郎が恋の指南役を買って出るが……。
シリーズ第42作。
男はつらいよ
ぼくの伯父さん
1989
日本
108分
カラー
<<解説>>
国民的美少女・後藤久美子をマドンナに迎えた連作の第一編。と、同時に満男を主人公にしたミニシリーズの始まりとなった。以降、最終作まで、満男は物語の中心人物となり、彼の恋もかかせないものとなっていく。寅次郎はというと、自身も恋もするが、それ以上に満男に助言を与える役割が多くなっていく。ゴクミの芝居はまだたどたどしいが、満男のロマンスに初々しさと説得力を与えている。ちなみに、彼女の出演は当初は三作の予定だったが、第45作、最終作も加えた計5作に出演することになった。寅次郎のマドンナに相当する人妻に檀ふみ。ゲストには、夏木マリ、尾藤イサオ、今福将雄を迎える。レギュラーの笹野、イッセーが意表をつく役で登場しているのも見逃せない。舞台は佐賀。挿入歌に徳永英明。
近年の数作で入念な下準備や実験を積み重ね、いよいよ満男青春篇のスタートである。本作はのその幕開けに相応しく、旅先の寅次郎のことを想う満男のモノローグから始まっている。満男はこれまでにも何度か寅次郎への理解を示してきたが、ここで改めて、人に媚びない彼に対して肯定的な評価を示し、その生き方に敬愛を現す。このモノローグが暗示しているように、長いシリーズの中で寅次郎が示した生き方から、満男が人生を実践的に学んでいくといのが、満男シリーズのテーマのひとつと言えるかもしれない。
前作で予備校生になった満男。同年の話である本作では、当然、まだ予備校生の身である。前作までの満男は、反抗期とは無縁そうな温厚な性格だったが、本作では一変し、両親に酷いことを言って怒らせるほど反抗的になっている。反抗的とは言っても、前作までの満男が出来すぎていただけであり、本作でよりリアルな若者像に近づいたと言えよう。前半は、反抗期の子供とそれをどう扱って良いか分からない親の対立という、どこの家庭にも問題を中心に描いていく。言うまでもなく、「男はつらいよ」にはホームドラマの一面がある。ただし、寅次郎が中心に活躍していた前作までは、家族にひとり変人がいた場合に巻き起こる騒動を描いた一種のファンタジーだった。しかし、ごく普通の少年である満男が主人公になった結果、より現実的な問題について考えさせる実用的なドラマへと変貌を遂げている。
物語は満男の家出騒動が中心となっていて、旅先で満男と偶然に出会った寅次郎がその騒動に巻き込まれるという展開になってくる。ここで、シリーズではじめて満男の恋が描かれる。彼は高校時代の下級生へ淡い恋心を抱いていて、彼女に会うことが家出の動機となっているのである。マドンナに会いたい一心で、東京から名古屋、さらに佐賀までバイクを走らせてしまう。彼を駆り立てる若さと、若さゆえの愚かさがまぶしい。また、深刻な家庭の問題を抱えるマドンナに対して、何もしてやれない満男の無力も、青春映画として十分な切なさだ。ただし、寅次郎との血は争えないようで、彼と同じく満男も恋に関しては実に不器用なのである。寅次郎を彷彿とさせる満男の情けない姿は、彼の成長を見守ってきた観客にとっては、単なる青春映画を越えた醍醐味があるだろう。
寅次郎の背中を見て育った満男の成長をクローズアップして描くことは、大河ドラマとしては必然的だ。しかし、満男を主人公にするようになった経緯には、寅次郎を演じる渥美清の健康への配慮もあっただろう。本作以降、寅次郎の活躍が急速に減っていくことへの寂しさは否定できない。しかし、寅次郎が活動的ではなくなった分、彼と満男との掛け合いの面白さが出てくるようになった。本作では、寅次郎が満男の悩みを聞くため、彼に食事をおごる場面がハイライトになっている。寅次郎が満男に酒の飲み方を教えるくだりも愉快だが、第34作『寅次郎真実一路』での博の言葉を間接的に満男に伝える場面も感動的だ。身内に心配ばかりかけている寅次郎も、満男と関わるうちに、いつのまにか頼れる伯父に“成長”しているのが可笑しい。
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