<<ストーリー>>

いつになく暗い顔の社長。どうも、会社の経営がいよいよ深刻な状況になってきたらしい。社長が最後の頼りとなる得意先に出かけようとした時、寅次郎が“とらや”に帰ってきた。寅次郎はいつになくご機嫌で、社長の顔を見るなり、夢の中の竜宮城で踊っていたタコにそっくりだ、と言って、笑った。人の気も知らない寅次郎の能天気さに、頭に来た社長。すごい剣幕で寅次郎を突き飛ばすと、怒りながら得意先に出かけてった。さすがの寅次郎も、社長がただならぬ様子だったことに気付き、心配するのだった。
社長は出かけたっきり、夜になってもいっこう帰ってくる気配がなかった。電話の連絡もないので、さくらたちは社長を気にかけていたが、いちばん慌てていたのは、昼間の一件を気にしていた寅次郎だった。もしや江戸川に身を投げたのでは、と先走った寅次郎は、何も行動を起こそうとしないさくらたちを非難しながら、源公と一緒に社長を探しに出かけた。寅次郎が出かけてからしばらくして、社長が帰ってきた。得意先との商談が上手く行ったのに安心して、飲み歩いていたというのだ。平謝りの社長だったが、そこへ、寅次郎が帰ってきたから大変なことに。結局、翌朝早く、寅次郎は旅に出てしまった。社長が、つねに寅次郎の様子を尋ねると、出掛けに「社長は心配してくれる人がいるから幸せだ」と言ったらしい。
瀬戸内海のある島にやってきた寅次郎は、一人で墓参りをしている女性に声をかけた。それは艶やかな女性だったが、質素な佇まいをしていた。寅次郎は、未亡人か何かだと早合点するが、墓は女性の祖母のものだった。女性は浜田ふみと名乗った。亡くなった祖母は、親が離婚した後、一人っ子であったふみを一人で育ててくれたのだという。ふみは祖母から自立した後、大阪で暮していた。寅次郎は、ふみが工場や郵便局などの真面目なところで働いているのだと考えた。だが、ふみは自分の職業について答えることなく、連絡線で島を離れる寅次郎と、船着場で別れたのだった。
瀬戸内海を出てから寅次郎は、大阪で長逗留をしていた。だが、寅次郎得意の啖呵バイは大阪では通用せず、商売も諦めかけていた。石切参道で商売をしていた寅次郎は、前の店でおみくじを引く三人組の芸者に目を止めた。振り返った一人の芸者を見て、寅次郎はハッとした。驚いたのは相手も同じ。その女性は瀬戸内海で出会ったふみだった。彼女は、自分が水商売であることを気にし、そのことを寅次郎に言い出せずにいたのだ。寅次郎は、ふみとその姉芸者たちとすっかり打ち解ると、一日中、飲み歩いた。新世界の宿に帰ってきた寅次郎は、送ってくれたふみに、いつもの調子で札を渡した。すると、ふみは少し怒りながら、「寅さんはお客やない。友達よ」と言って、金を返したのだった。
“とらや”に寅次郎から手紙が届いた。寅次郎は大阪をたいそう気に入ったようで、まだ滞在を続けるようだ。竜造たちは、“大阪嫌い”を公言していた寅次郎が、長逗留としている理由を考えた。その答えはひとつしか考えられなかった。社長は、「浪速の恋か」と呟いた。一方、寅次郎はふみと寺参りを楽しんでいた。宝山寺では、寅次郎とふみは絵馬を書いた。寅次郎がいだずらでふみの絵馬を取り上げると、そこには「弟が幸せになりますように」と書かれていた。ふみは、自分には五、六歳の頃に生き別れた英男という弟がいることを打ち明けた。だが、弟の勤め先まで突き止めながら、相手が自分を覚えているか心配で、会いに行くことに踏みきれないでいた。寅次郎は、ふみを説得し、二人で英男に会いに行くことにした……。



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