やむを得ぬ事情で南極の観測基地に置き去りにされた樺太犬たちが、
極地の厳しい自然と戦っていく様を描く。
南極物語
南極物語
ANTARCTICA
1983
日本
145分
カラー
<<解説>>
南極の学術研究に向かった越冬隊が、研究に貢献していたソリ犬たちを基地に置き去りにしてしまったという実話を描いた大作。高倉健、渡瀬恒彦、岡田英次、夏目雅子といったスターがキャストに名を連ねているが、実のところは、南極を生き抜こうとする樺太犬の姿を描いた動物映画である。ロケはアラスカや北極で行なわれ(一部、南極でも撮影された)、神秘的な南極の風景が再現されている。また、観測船・宗谷や砕氷船・バートンアイランドが登場するシーンでは、当時、撮影されたフィルムが使用されていている。
本作で印象的なのは、動物映画でありながら、主役である犬を突き放したような視点で語られているところである。氷の大地を駆ける犬たち。非業の死をとげていく犬たち。カメラは、彼らの気持ちを代弁することなく、だだ淡々とその姿を捉えていく。実際、南極に取り残された犬たちがどのように暮し、どのような末路を迎えたかは、現場にいなかった人間の知るところではない。映画の中で描かれる犬たちの行動も、遺された死骸などの状況から想像されたものである。しかし、あえて、主観を排し、状況だけを捉えたドキュメンタリー・タッチの映像にしたことで、たとえ、それが創作だと分かっていても、十分にリアリティが感じられ、南極の自然の厳しさや、そこで生き抜こうとする犬たちの力強さも、雄弁に伝たわることになった。作り物のエンターテインメントが溢れる今だからこそ、見応えのある作品といえるかもしれない。また、動物の可愛らしさを売り物にせず、あからさまな動物愛護の説教もないので、動物映画が苦手な人も抵抗なく観られるはずだ。
音楽を担当したのは、『炎のランナー』、『ブレードランナー』で当時、映画音楽として最も有名だったヴァンゲリス。しかし、“外タレ”を起用するという話題性だけで終わっていない。荘厳で幻想的なシンセの調べが南極の風景に見事に合致し、その音楽が作品のイメージまでも決定してしまったほど、ヴァンゲリスは素晴らしい仕事をしている。
本作は、邦画史上空前のヒットとなり、興行成績ナンバー1の座は二十年間も破られなかった。また、二十三年の時を経た2006年には、邦画リメイク・ブームに乗った形で、本作をヒントにした作品『南極物語』がハリウッド製作された。
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