<<ストーリー>>

昭和三十二年一月。海上保安庁観測船・宗谷は、暴風域を超えて南極へ向かっていた。それから数ヶ月後の南極オングル島。国際地球観測連に参加した日本がはじめて建設した昭和基地には、十一名の隊員と、メスを一頭含む十九頭の樺太犬が越冬生活を送っていた。それは、自然との戦いでもあった。
第一次越冬隊長の小沢大は、来年の本観測向けた予備観測の最後の仕上げとして、南極大陸の長期旅行を計画。ただし、雪上車のエンジン調子が悪いため、旅行には犬ゾリで向かうことになった。旅行の目的は、大陸にそびえるボツンヌーテンの踏破と調査である。調査隊には、地質調査係の潮田暁、気象観測係の越智健二郎、登山経験豊かな尾崎勇造の三名が選ばれた。また、犬ゾリ隊に選抜された十五頭は、リーダーのリキ、噛み癖のあるタロ、その弟で愛想の良いジロ、一匹狼の風連のクマなどの個性的な面々である。
潮田ら三人と十五頭の遠征隊は、数日後の十月二十七日にポツンヌーテンに到着。アンコの兄のゴロが犬ゾリ隊から逃げ出すというハプニングがあったが、無事に地質観測を終えた。基地への帰り道、遠征隊一向は、無風状態の中で霧に包まれ、視界と方向感覚を失う“ホワイトアウト”に陥っていた。遭難寸前となった時、越智は南極育ちのタロとジロに自らの命をかけてみることにし、二匹を放すことを提案。潮田の同意を得て、放されたタロとジロは、基地に戻り、救援隊を連れて戻ってきた。タロとジロのおかげで潮田らが基地に戻った時、メス犬に子犬が生まれていた。
昭和三十二年十二月末。第二次越冬隊を乗せた宗谷が、砕氷艦バートンアイランドの協力を得て、南極へ近づこうとしていた。だが、悪天候と厚い氷に行く手を阻まれ、基地に近づくことは困難だった。ブリザードが小康状態になった時、昭和基地の前に一機の小型飛行機・昭和号が着陸した。機から降り立った第二次越冬隊の野々宮英は、小沢たちに、今すぐ基地から引き上げるよう告げた。天候が悪化しないうちに、基地から離れなければ、交替のチャンスはないというのだ。野々宮から事情の説明を受けた潮田たちは、子犬だけ連れ、一年ぶりに基地を離れることに。すぐに第二次越冬隊が来ると思っていた越智は、鎖につながれた犬たちの首輪をしっかりと締め直した。
バートンアイランドは、引き続き氷を爆砕し、宗谷の進路を作ろうとしていた。だが、宗谷の船長の岩切竜雄や第二次南極観測隊長の堀込勇治は、これ以上、氷砕を続けても無駄だと判断。第二次越冬を中止し、昭和基地も放棄するという苦渋の決断を下した。艦内放送で越冬中止を知った潮田と越智は、小沢に抗議し、もう一度だけ昭和号を飛ばすよう頼んだ。潮田は犬を殺してくる覚悟だった。だが、水や燃料がケープタウンへ帰るために必要な分しか残されていないことを知ると、潮田は断腸の思いで引き下がった。潮田と越智は、日本への帰路の間、犬たちを極寒の中に置き去りにするという結末になってしまったことへの無力に押しつぶされ、やり場の無い怒りを互いにぶつるのだった。
昭和基地では、樺太犬たちがブリザードの中で人間たちが戻ってくるのを待ちつづけていた。だが、人間はいつまで経っても帰ってくる気配はなかった。まず、アンコが鎖を切り、それに、ジャックも続いた。リキは首輪抜けをし、ジロとシロも自由になった。リキたちは基地の中に入り、人間の姿を捜し歩いた。その間、鎖につながれたままのテツやモクらが寒さに耐え切れなくなり、次々と倒れていった。どこにも人間がいないことを知ったリキたちは、餌を求めて旅に出発することにした。リキたち遅れること、クマとタロが首輪抜けをし、基地を出発したリキたちの後を追った。
結局、リキ、ジャック、利尻のアンコ、シロ、風連のクマ、タロ、ジロ、デリーの八頭が自由になった。リキたちは、“クラック”と呼ばれる氷の裂け目から打ち揚げられていた魚を捕まえ、飢えをしのぐことになった。だが、その時、デリーが誤ってクラック落ち、命を落とした。時を同じくして、首輪抜けが出来ず基地に取り残されていたゴロが力尽きていた。
あれから半年あまり経った、七月の京大地球物理学研究室。越智は婚約者の北沢慶子に誘われ、祇園祭の見物に出かけた。喫茶店に入った二人は、店のマスターに南極に置き去りにされた樺太犬について尋ねられ、雑誌の記事を見せ付けられた。その記事は、大学を辞めた潮田が、謝罪のために樺太犬の提供者の家を訪ね歩いていることを伝えていた……。



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