天才的な腕を持つ大泥棒“ハドソン・ホーク”が、
ダ・ビンチの遺した秘宝の争奪に巻き込まれる様を描くコメディ。
ハドソン・ホーク
Hudson Hawk
1991
アメリカ
100分
カラー
<<解説>>
ブルース・ウィリスが歌手として、ロバート・クラフトと共に作った同名曲をモチーフにしたコメディ。ウィリスというオッサン俳優に、ダニー・アイエロというオッサンをカブせた華のない脱力コンビが主人公。二人のニューヨークとローマをまたにかけた活躍を描いていく。ところが、本作は只のコメディでも、只の怪盗映画でもない。レコードの一曲の演奏時間きっかりに仕事を片付ける怪盗というオシャレっぽい設定、レオナルド・ダ・ビンチ、錬金術、バチカン市国といったキーワードをぶち込んだ奇想天外なストーリー、『ダイ・ハード』以上にありえないコミック・タッチの演出。それらが示す通り、一言で言ってしまえば、“おバカ映画”なのである。
おバカ映画と言えば、奇っ怪な登場人物たちの競演がお楽しみで、仕込みナイフのイギリス人執事、世界制覇を企むハイテンションな夫婦、お菓子の名前を暗号名に持つCIA工作員たちなど、誰一人としてマトモな人間が登場しないという徹底ぶり。この手の作品に付き物である“事件の鍵を握る謎のヒロイン”ですら、天然ボケをかましてくれる始末である。また、中盤の見せ場として、ストレッチャーに乗ったウィリスが救急車とハイウェイでカーチェイスを繰り広げるといったキートン映画を思わせるようなシーンや、ジェームズ・コバーンが「電撃フリント」を彷彿とさせるカラテでウィリスと対決するシーン(アクションはスタンドだろうが)など、往年のおバカ映画ファンへのサービスもあったりする。
観客をニヤつかせっぱなしの仕掛けに溢れた楽しい作品だが、公開当時は大不評で、今もって失敗作の烙印を押されている不幸な作品である。というのも、本作は、『ダイ・ハード』で人気者になった直後のウィリス主演で、同作のプロデューサーのシルバーが製作にあたっているのである。となれば、期待されるのは、前作のようなアクション作。つまり、文句をブツクサ言いながらススだらけの格好で屋根裏を這いまわる泥棒の活躍であった。ところが、ハドソン・ホークは、マクレーン刑事とは正反対で、鼻歌を歌いながら何の困難も無く鮮やかに仕事をこなす飄々としたキャラクターとして描かれてしまった。結果、期待を裏切られた観客の総スカンを喰らってしまったのである。
振り返れば60〜80年代にも、「ピンク・パンサー」や「ポリスアカデミー」といったがおバカの殿堂的映画は常にあったが、本作が世に出るには数年早すぎたようだ。なぜなら、90年当時はハード・アクションとサイコ・サスペンスが席巻していて、おバカ映画というジャンルも市場も確立していなかった。そのため、本作のような能天気さは理解されることはなく、ただ、“観客そっちのけに突っ走った下らない映画”という印象を与えてしまったのである。もっとも、今となれば、“観客そっちのけ”の部分に関しても、それはそれで、おバカ映画の醍醐味なのだが。
ストーリーはこちら