江戸末期の短期間に活躍して姿を消した浮世絵師・写楽の謎に大胆な解釈で挑む歴史ミステリー。

写楽
Sharaku

( 写楽 )

1995  日本

138分  カラー



<<解説>>

日本喜劇映画の傑作『幕末太陽傳』の姉妹作的作品として製作される予定であった『寛政太陽傳』は、63年、監督の川島雄三の急死により実現されることはなかった。『寛政太陽傳』の主人公は謎の天才絵師・写楽であり、フランキー堺が演じることになっていたという。それから32年後、川島監督とフランキー堺の悲願が叶い、形を変えてではあるが、写楽を題材とした企画が実現されることになった。フランキー堺は出演に加えて企画総指揮と脚本を兼ね、自ら写楽を研究しつくした彼の渾身の作品となった。
監督は『少年時代』をヒットさせた篠田正浩。いかにも時代劇、といったようなセットでの撮影ではなく、これまでの時代劇では見たことのないような艶やかな色彩で江戸の町並みを描き出した映像が美しい。画面の端々に有名な浮世絵の構図を再現するという芸の細かさから、着物や小物や江戸言葉までディテール豊かに再現された猥雑な江戸風俗を眺めているだけでも楽しい。適材適所に置かれた個性的な豪華キャストの芝居も見どころで、真田広之(写楽)と片岡鶴太郎(十遍舎一九)の好対照が特に光っている。また、エキストラをCG合成して群集を作り出すなど、積極的に最新技術を取り入れたことも話題となった。篠田監督の最新技術への傾倒はこの頃から始まっていたようだ。
物語には、町人文化を奨励していた田沼意次から、それに歯止めをかけようとする松平定信への政権の交替といった背景があり、この世の春を謳歌していた町人が価値観の転換を強いられた時代というのは、まさに当時の日本の姿と重なっていた。虚飾を棄てて真実を求めようとする方向へ時代が遷り変わうとしていた時、対象を掛け値無しに描いてしまう絵師として、時代の象徴のように登場するのが写楽なのである。物語は虚実入り混じっているが、写楽の謎に関する部分以外は、おおかた史実に基づいていると言っても良いいようだ。北斎や一九や馬琴といった後に町人文化を牽引する著名人が若かりし姿で登場するところに、青春グラフィティの一面を見せる。チャンバラはおろか刀の一本も登場しない時代劇だが、その代わりに知的興奮を大いにそそる好内容となった。
本作はカンヌ映画祭への出品用バージョンも作られ、そちらは上演時間が120分にカットされている。



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