流血の宿命を秘める名剣“グリーン・デスティニー”をめぐり、
愛と剣の間で苦悩する達人たちの姿を描く。
武侠小説を映画したアクション大作。
グリーン・デスティニー
臥虎藏龍
CROUCHING TIGER, HIDDEN DRAGON
2000
アメリカ/香港/中国/台湾
120分
カラー
<<解説>>
20年代に書かれた武侠小説の名作「臥虎藏龍」を台湾の監督アン・リーが映画化。主演は香港ノアールのスターからハリウッドに進出したチョウ・ユンファ。現代劇での恰幅いいイメージから一新し、精悍な姿で登場する。助演は、香港アクションでキャリアを積んだミシェール・ヨー。ジャッキー・チェン映画からボンドガールを経て本作に至ったことを思えば、目覚しい出世だ。物語の中心的人物をはつらつと演じたのは『初恋のきた道』でデビューした新人若手女優チェン・ツィイー。なんと彼女は本作でまだ二作目。
伝説の名剣“グリーンデ・スティニー”を中心にめぐる物語は、宿命を持つ達人たちの苦悩を描いた複雑な愛蔵劇である。師弟の関係から一線を超えられない剣の達人ムーバイとその弟子シューリン。結婚を誓い合った盗賊の頭ローとの愛を貫くか、それとも剣の道を選ぶかで迷う貴族の娘イィン。剣の腕は超人的だが、愛情に関しては人並みに不器用な達人たち。単になる切った張ったのチャンバラ映画ではなく、シリアス・ドラマの得意なアン・リーが達人たちの人間性に迫った脚本も見どころ。胸に熱い情熱を秘めた達人たちの心の機微を見事に捉えた内容となっている。
最大の呼び物は、本場の武侠映画を再現したような華麗なチャンバラ・アクション。『マトリックス』で武術指導をしたユエン・ウーピンと特殊効果を手がけたMVFXがアクション・シーンを担当。樹上や水面を舞いながら戦うという武侠映画お約束の幻想的なシーンがある一方、スピードと迫力で圧すシーンも見どころ。家出したイェンが飯店で大勢の男たちを相手に大立ち回りする場面と、続くイェンとシューリンの一騎打ちの場面は圧巻で、特に後者は映画史に屈指の壮絶なアクション・シーンとなるはず。次々と武器を替えながら、目にもとまらぬ速さで展開する怒涛のチャンバラに口があんぐり。結局、これらのアクションシーンが最も強く印象に残り、つまりは、アクション監督のウーピンが一人で作りあげたといっても過言ではない作品となった。
このような武侠映画がアメリカ資本で製作されたことは驚きだが、それは、『マトリックス』がヒットし、ワイヤー・アクションを観客に見せる土壌が整った今だからこそかもしれない。昨今、行き詰まってしまった印象のあるアクション映画だが、本作を観るにつけては、またまだ進化の余地はあるようで、よりスケール・アップした作品への期待も高まる。さすがに本作の域まで達するのは困難と見えて、フォロアーはまだ少ないが、本作がチャン・イーモウを開眼させ、『HERO』、『LOVERS』が世に送り出されることとなった。
ちなみに、冒頭と終盤は画面がとても暗いので、部屋を消灯しての鑑賞がおすすめ。
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