『羊たちの沈黙』から十年。
猟奇殺人鬼ハンニバル・レクター博士がついに動き出す。
クラリスとレクターの再会を描く待望の続編。

ハンニバル

HANNIBAL

2001  イギリス/アメリカ

131分  カラー



<<解説>>

全世界を震撼させたと共に映画史上最大の怪人ハンニバル・レクター博士を生み出した『羊たちの沈黙』の続編で、「ハンニバル」三部作の第三部にあたる作品。サイコものの代名詞でもある超有名作の十年ぶりの続編ということもあり、2001年最大の話題作となった。メガホンを取ることになったリドリー・スコットも、さぞ荷が重かったであろうが、完成作品は前作のファンの期待に阿ることなく、完全なリドリー・スコット映画といった印象。また、公開直後、映画を観た人が興奮して語ったのは、ラストの衝撃料理のことばかり。肝心の内容がなかなか伝播しなかったことは、ある意味、リドリー・スコットの勝利と言えよう。
レクター博士を演じるのは、前作に引き続きアンソニー・ホプキンス。クラリス役は交代することになったが、ジュリアン・ムーアは前作のイメージを壊していない。『ハンニバル』という題名が示している通り、今回はレクターを中心に物語が展開する。クラリスが再び動き出したレクターを探すというものだが、レクターの人物像やクラリスとの関係について説明がないので、前作の予習が多少が必要と思われる。
主人公であるレクターとクラリスの他に、本作では物語の鍵を握る人物が主に二人登場する。一人は、過去にレクターに顔面を食われ、それからレクターを憎み続けている大富豪バージャー。レクターと“喰うか喰われるか、はたまた、喰わせるか”という、ド変態SMバトルを繰り広げる。演じるゲイリー・オールドマは特殊メイクのため原型を留めていないが、なかなの儲け役だ。もう一人の主要人物は、物語の前半の舞台であるフィレンツェの刑事パッツィ。レクターがいかなる人物かも知らずに、懸賞金を目当てに彼を追うという不幸な役どころ。後半の舞台であるアメリカ・バージニア州との橋渡し的な役割も担っている。
前半のフィレンツェ編では、猟奇的なイメージに彩られているものの、期待される猟奇的な展開はなかなかやってこない。目的の分からないレクターの不気味さだけで、引っ張っていく。映画も中盤に差し掛かり、観客の期待もパンパンに膨れ上がった頃に、レクターの衝撃発言から物語は一気に展開。舞台はイタリアからアメリカへ移り、レクターと宿敵バージャーとの壮絶な戦いが描かれる。
ジョナサン・デミが前作で見せた気高さが鳴りを潜めた結果、バージャーとの変態バトルや衝撃料理などといった派手な演出が際立っているが、テーマとしては前作よりもロマンス色が強くなっているようだ。“喰う”という行為でしか愛を示せない倒錯者レクターが、唯一人心を交わしたことのあるクラリスへ向けるあの手この手のアプローチ。もし異常者でも殺人鬼でなかったならば、レクターは愛に不器用な一人の男なのである。観客をあっと言わせた最後の晩餐は、彼にとっての最上級の愛情表現ということになるが、テレビ放映ではその場面がカットされる場合があるので注意。三部作の第一部『レッド・ドラゴン』へ続く。



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