旅先の四国で殿様の末裔と知り合った寅次郎。
亡き息子の嫁を捜して欲しいという頼みを二つ返事で引き受ける。
シリーズ第19作。

男はつらいよ
寅次郎と殿様

1977  日本

99分  カラー



<<解説>>

ゲストの嵐寛に因み、鞍馬天狗の夢から始まる第19作は、副題の通り、寅次郎と殿様の交流をメインに据えた作品。舞台は愛媛県大洲。マドンナに真野響子、ゲストに嵐寛壽郎と三木のり平を迎える。
まず、本編が始まってからのはじめの場面は、帰宅してきた寅次郎が些細なことをきっかけに“とらや”の面々と喧嘩するというお約束である。ここでは、第11作『寅次郎忘れな草』のピアノ騒動が、こいのぼり騒動という形で再現されている。いつものらば、すぐに寅次郎が“とらや”を飛び出してしまうはずだが、今回はもうひとつの騒動が用意されている。それは、“とらや”で“トラ”と名付けられた犬を飼っているということ。さすがに寅次郎でなくても怒るだろうという出来事だ。“こいのぼり”と“犬”のダブルパンチを喰らって“とらや”を飛び出していく姿は、珍しく同情を誘う。
さて、物語の舞台は地方に移され、ここで寅次郎はマドンナや殿様と出会う。旅館でのマドンナとの出会いでは、寅次郎が下心を隠しつつ、積極的に女性な取り入ろうとするのが意外。ここでは、すぐにマドンナと別れてしまうが、後に意外な因縁で再会することに……。次に出会うのは、嵐寛扮する殿様――現代の世の殿様? いや、もちろん、登場する殿様はほんとうの殿様ではない。藩主の末裔であり、今もって地元の人々に“殿様”と呼ばれ、親しまれている人物なのである。例のごとく、寅次郎が思わぬ偶然から出会った変人“殿様”と出会い、意気投合してしまうというところから騒動が始まるのである。
嵐寛は、往年の時代劇をセルフ・パロディしたような芝居を見せる。場違いな雅(みやび)な物腰が愉快だ。続いて登場する三木のり平と渥美清との共演も注目したい。まさに喜劇の頂上決戦といった丁々発止の掛け合いを見せる。嵐寛と三木という強力ゲストの存在感は貫禄もので、二人の登場によって、作品の雰囲気がガラリと変わってしまうのには驚かされる。その結果、“現代に現れた殿様”というモチーフが前面に出され、「男はつらいよ」の中でも特にファンタジー色の強い作品となった。
前半の大洲の場面で顔見世したマドンナは、後半になって再び登場。嵐寛と三木の存在感が強過ぎて、いまいち影の薄くなってしまったマドンナだが、常に彼女の知らないところで物事が進行しているというところから、世渡りの不器用さが窺える。周囲の人々に引きずられてがちな身の上は、はたして幸か不幸か。そんなマドンナの憂いのある表情が印象的。寅次郎の恋の結末は言わずもがなだが、その迎え方はある意味、これまでになく残酷なものといえる。



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