<<ストーリー>>
満男の端午の節句。博は“とらや”の裏庭に奮発して買った大きなこいのぼりを上げていた。一方、店の中には犬が一匹。帝釈天の境内で拾われた野良犬だが、すでに“トラ”と名付けられていたため、成行きで“とらや”で面倒をみることになってしまったのだ――こんなときに寅次郎が帰ってきたら――そんな“とらや”の面々の心配をよそに、ふらりと寅次郎が店先に現れた。皆の顔を見るなり寅次郎は、「土産がある」と言って、オモチャのこいのぼりを満男に差し出した。博は慌てて庭のこいのぼりを下ろしに向かったが、間に合わなかった。寅次郎が大きなこいのぼりを見つけ、いつも通りの喧嘩になるのだった。
夜になり、怒りをおさめた寅次郎が二階から茶の間に降りてきた。だが、いざ夕食というところで、裏の工場から戻ってきた博の「トラ! こんなところへ糞をして」という声。もちろん犬のほうの“トラ”のこと。その言葉を聞き咎めた寅次郎は、さくらたちから事情を聞き、犬に自分の名前をつけられたこと知った。近所で自分が馬鹿されていることについて激怒した寅次郎だったが、「だった尊敬される人間になれ」と竜造に言われると、“とらや”を飛び出したのだった。
四国の大洲。寅次郎は同じ宿に泊まっていた一人旅の若い女性と出会った。疲れた顔をして宿に帰ってきた彼女を見て、なにか訳があると勘ぐる寅次郎。晩飯に名物の鮎をおごった寅次郎は、礼を言いに部屋にやってきた女性客と話す機会を得た。調子に乗った寅次郎は女将に頼み、翌朝、発った女性客に佃煮の土産を持たせた。だが、昨夜の鮎や佃煮が思いのほか高くつき、寅次郎の財布には五百円札一枚と小銭が少々のみ。寅次郎が残り少ない金を勘定してると、なけなしの五百円札が風に舞って行ってしまった。五百円札はちょうど、通りかかった老人の手に。寅次郎は札を拾ってくれた礼として、老人にラムネを奢った。すると、寅次郎の親切にいたく感じ入った老人が、さらにお返しをしたいと言い出した。寅次郎は老人に連れられ、彼の家に向かうことになった。
老人の家は大きな屋敷だった。老人を恭しく迎えた執事の吉田は、事情を何も知らない寅次郎に老人のことを説明。老人は、大洲藩を治めていた五万石の当主の十六代目、藤堂宗清。つまり、江戸時代であれば殿様という身分の人物だった。吉田は、世間知らずの殿様の気まぐれに手を焼いていて、寅次郎にもすぐ帰るよう頼んだ。だが、殿様はそれを許さず、寅次郎は昼食どころから晩飯までご馳走になり、結局、屋敷に泊まっていくことになった。殿様は、寅次郎を東京出身だと知ると、ある頼みごとをした。それは、勘当してしまった次男の嫁“マリコ”を捜してほしい、というものだった。殿様は、次男が亡くなった今になり、まだ会ったことのない嫁に会いたくなったのだ。寅次郎は「三日で見つかる」と冗談交じりに返事をした。
それから十日後。“とらや”に寅次郎を訪ねて殿様がやってきた。殿様はまだ寅次郎が旅から帰ってこないと知ると、引き返そうとしたが、ちょっどその時、寅次郎が帰って来た。殿様は大洲での寅次郎の言葉を信じ、“マリコ”の件について催促にやってきたのだ。「もう三日経った」と殿様に迫られ、引き下がれなくなった寅次郎は、すぐに“マリコ”を捜し出すことを約束。殿様の息子と嫁に対する気持ちにも同情した寅次郎は、翌日から源公を引き連れ、柴又から順に一件ずつ“マリコ”という若い女性がいないか訪ね歩いた。だが、東京中の家を調べるなど、どうあっても無理であり、寅次郎はすぐに根を上げてしまうのだった。
“マリコ”を見つけることが出来ず、殿様に会わせる顔をなくした寅次郎は、さくらたちに断わって、逃げることを決意した。さくらたちに別れを言い、“とらや”の敷居を出た寅次郎。だが、駅の方からやってきた女性を見て足を止めた。それは大洲の宿で出会った女性だった……。
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