心の美しい人間が容姿も美しく見えるように暗示をかけられた男。
彼が付き合い始めた美女ローズマリーは実は極度の肥満体だった。
ラブ・コメディ
愛しのローズマリー
Shallow Hal
2001
アメリカ/ドイツ
113分
カラー
<<解説>>
「人を見かけで判断してはいけない」とか「男(女)は顔じゃない」などとよく人は言うけれど、その言葉面を見ただけでは偽善的と言わざるを得ない。それは理想ではあるかもしれないが、現実の人間関係においてまず第一に尊重されるべきものは、心ではなく外見であることは自明のこと。しかし、なぜ、外見が大事かと言えば、それはやはり「内面が見えないから、見えるところを基準に判断するしかない」からではないだろうか。つまり、正確には、心と外見の“どちらも”が大事であって、どちらの方がより大事かなどという価値観の差は本質的にありえないはずなのである。
本作は、「心が姿となって見える」という寓話的な設定の物語。観る者を試すような少し意地悪な内容だが、簡単に言ってしまいがちな人物判断の理想論に、批判的に挑戦したかのようである――主人公ハルは、子供の頃のトラウマでセクシーな美女しか愛せなくなった哀れな中年男。そんな悩みを打ち明けられた心理カウンセラーは、ハルにある暗示をかける。それは、心の美しさが外見として現れるように見えるというもの。つまり、ひどいブスやデブでも、その人の心が美しければ、美人に見えるというのである。その直後、ハルは運命の女性ローズマリーで出会う。ところが、暗示をかけられているハルには美人に見えるローズマリーも、その本当の姿はハルの嫌いな超肥満体。そんなこととは夢にも思わないハルは、彼女と付き合いつづけるだった……。
監督は『メリーに首ったけ』などのセクシャル・コメディで人気のファレリ―兄弟。本作には限っては、普段のおげれつ系のギャグを後退させ、価値観の逆転を中心にしたブラックな笑いに挑んでいる。主演は、最近では『スクール・オブ・ロック』などで、味のあるオッサン俳優として人気が出てきたジャック・ブラック。序盤は共感できないキャラクターとして描かれるが、終盤辺りからは、その見てくれの悪さとシリアスな表情とのギャップによって、めっぽう泣かせてくれる。ヒロインのローズマリーを演じるのは、『恋に落ちたシェイクスピア』のグウィネス・パルトロウ。特殊メイクにより、スレンダーと巨漢の二役を演じ分けている。
この手のシチュエーション・コメディで重要なのは、「どのようなオチをつけるか」ということ。途中経過がどんなに可笑しくても、納得のいくオチがつかなければ、後味も悪い。オチの良し悪しで作品全体の評価が変わってくると言っても過言ではないだろう。その点、本作は安心して観られる作品といえる。真価を発揮するのは、コメディが終わってから。つまり、シンデレラの魔法が解けてからラストにかけての展開が本作の肝なのである。結局のところ、本作が伝えたかったのは、「人を見かけで判断してはいけない」などという陳腐なメッセージではない。確かに前半では「外見よりも心が大切」という模範的なメッセージを示しているようだが、後半になると、それをいったん棄ててしまうのである。
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