ひょんなことから日本画の大御所と知り合った寅次郎。
彼は大御所と一緒に訪ねた関西の料亭で訳ありの芸者と出会う。
シリーズ第17作。

男はつらいよ
寅次郎夕焼け小焼け

1976  日本

109分  カラー



<<解説>>

映画『JAWS』をパロった夢から始まる第17作は、第15作『寅次郎相合傘』と並ぶ傑作と言われている作品である。副題はもちろん、三木露風の「赤とんぼ」の歌詞よりとられている。
まず、目を引くのは、ゲストである宇野重吉扮する画壇の大御所・青観と寅次郎の交流である。ここ数作では、マドンナとは別に寅次郎と絡ませ、コメディリリーフとなる登場人物を据えてきたが、青観はそれとは少し違うようだ。青観は、物語をひっぱていく重要な人物として登場し、第2作『続 男はつらいよ』の散歩先生や、第8作『寅次郎恋歌』の博の父親に迫る存在感を持っている。青観の正体が発覚するくだりなどは、喜劇のお手本のようではあるが、その後しばらく、物語は青観に焦点がしぼられ、いつのまにか寅次郎は狂言回し的な役どころに回る。この一見なんてことのない展開も、実は後半の重要な伏線となっている。また、続く、青観と岡田嘉子扮する初恋相手の会話は名場面であるとともに、ごく自然に「後悔」という本作のテーマを提示しているところも見事だ。
観客が青観の物語に集中している間に、マドンナである太地喜和子扮するぼたんをフェイドインさせていくのも新趣向だ。これまでのマドンナは、観客にもそれとわかる形で劇的に登場させたものだが、本作は観客の知らないところで寅次郎と仲良くなっている。寅次郎がマドンナに惚れないという目新しい展開も、それも一つの見どころなのだが、いつものように寅次郎とマドンナの恋をメインに見せるのではなく、いつになく大局的な物語の流れを大事にしているように感じられる。また、ここまで起こる出来事は、ほとんど強引な偶然に頼られているが、そんなことを感じさせないほど、その流れが実に何気ないところも本作の脚本の魅力と言えよう。そして、気がつけば、いつのまにか主人公は青観からぼたんに移っているのである。
後半では、画伯と芸者、金持ちと貧乏人というコントラストを巧みに用いて、「後悔」とうテーマを描き出していく。通常ならば、寅次郎の巻き起こす騒動という形で物語は進んでいくのだが、本作では、寅次郎は青観とぼたんの間を行き来する存在で、騒動を起こすというより、騒動に巻き込まれているといったほうが近い。だが、ここまで影の薄かった寅次郎もクライマックスに向けて、しだいにその本領を発揮し、しだいにその本領を発揮し、珍しくやくざ者としてかっこいい一面を見せてくれる。
寅次郎がいつにもまして怒りまくっていたり、シリーズには珍しい悪人の登場など、悲壮感さえ漂う終盤の怒涛の展開には、手に汗握らされる。そして、最悪の状況からの奇跡的な結末は、爽やかな感動を与えてくれる。寂しげなラストの多いシリーズの中で、この心温まるラストは一際、印象に残る名場面だ。「男はつらいよ」というステータスを無視したてとしても、単純に人情喜劇として優れた完成度の作品となった。



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