旅先で押し付けられた赤ん坊を連れ、柴又に帰ってきた寅次郎。
熱を出した赤ん坊を診てくれた病院の看護婦に一目ぼれ。
シリーズ第14作。
男はつらいよ
寅次郎子守唄
1974
日本
104分
カラー
<<解説>>
神様に扮した寅次郎が、子宝に恵まれないさくら・博夫婦に赤ん坊を授けるという昔話風の夢から始まるシリーズ14作。前半のコメディ・パートでは、寅次郎が柴又に赤ん坊を連れて帰ってくるというインパクトを狙う。この作品あたりから、マドンナとの対決の他に「寅次郎対○○」といった、彼のキャラクターを逆手にとったアイデア勝負のシチュエーションが多くなってくるようだ。それはつまり、寅次郎というキャラクターが「男はつらいよ」シリーズと共に定着・安定したということだろう。
出だしのインパクトで言えば、冒頭の博も怪我もシリーズでは珍しい大事件で、一時は博の独立問題以来の混乱になる。その怪我をきっかけにし、寅次郎が自分の葬式という不吉な話で盛り上がれるのも「男はつらいよ」の面目躍如といったところだ(このような寅次郎の独り語りは、ファンの間で“寅のアリア”と呼ばれいる)。ちなみに、この後、夕食が終わらないうちに寅次郎は“とらや”を出て行ってしまうが、柴又での滞在時間としてはおそらくこれまでで最短だろう。
続いて、場所を移した唐津のシーンだが、くんち祭りの様子が印象的だ。「男はつらいよ」がドラマとして寅次郎やその家族の遷り変わりを捉えていくだけでなく、日本の時代の遷り変わりを後に伝えるかのように、祭りなどの地方の風俗を意識的にフィルムにおさめるようになったのもこの頃からのようだ。
初期の多くの作品のテーマは寅次郎自身の問題に偏っていて、特殊な第7作『奮闘篇』を除けば、社会問題が描かれることはあまりなかった。シリーズ中、社会問題を前面に押し出した作品はほとんどないが、本作のようにサイド・ストーリー的に扱う作品は、これ以降、よく作られるようになる。“捨て子”や“自殺”や“蒸発”などといった重く暗い社会問題を、堅苦しくなく描くことが出来るは、「男はつらいよ」がシリーズを重ねることで得たひとつの強みなのかもしれない。ちなみに、前半の捨て子騒動のくだりでは、これまでドラマを陰で支える役どころだったおばちゃんにスポットが当てられている。
前半がコメディ、後半がロマンスという構成は、いつくかの例外を除き、最初期から定着している(今でも、同じ脚本家による「釣りバカ」シリーズでも同じ構成が続いているのは驚き)のだが、前半と後半でテーマの統一はあったとしても、エピソードとして分断されているのが常だった。ところが、本作では、早い段階から登場したマドンナがコメディ・パートに参加し、そのまま後半のロマンス・パートに途切れることなく移っていくのが新鮮だ。
マドンナが明るくよく笑うひょうきん者というのは、これまでのマドンナにはなかった性質だ。これまでとは逆に、失意の寅次郎がマドンナの冗談に癒されていくというところが面白い。寅次郎の恋敵が登場する後半は、第10作『寅次郎夢枕』を彷彿とさせ、劇的な展開となっていく。また、ラストの“とらや”の面々との別れのシーンにも注目したい。寅次郎が家族の目を盗んで出て行くいくというお決まりのパターンとは異なる、意外なシーンを観ることができる。
本作からおいちゃん役が交代。松村達雄に代わり三代目となるのは、下條正巳。性格もガラリと変わり、真面目で温厚なおいちゃんを最終作まで演じことになる。また、おいちゃんが比較的穏やかになったため、寅次郎のケンカ相手がタコ社長に完全に移行するこになった。
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