ある女性との結婚宣言をしたものの、亭主の出現で夢破れた寅次郎。
失意の寅次郎は旅先で歌子と偶然の再会を果たす。
第9作『柴又慕情』の続編となるシリーズ第13作。
男はつらいよ
寅次郎恋やつれ
1974
日本
104分
カラー
<<解説>>
これまでのシリーズの中でも、過去のマドンナが少しだけ顔を見せる作品はあったが、本命のマドンナとして再登場するのは本作がはじめてとなる。つまり、一作完結という連作スタイルだった「男はつらいよ」の中で、はじめての正統な続編ということになる。
冒頭の夢のシーンは、ここ数作の余興的なものではなく、久しぶりに、続く本編に対して予見的な内容となっている。寅次郎が花嫁を連れて帰ると、一足遅く叔父夫婦が亡くなっていたという夢は、そのまま、寅次郎が結婚宣言をするという前半のエピソードにつながっていく。また、この前半のエピソードも、亭主が帰ってきた女性から身を引くという展開が後半の歌子のエピソードを暗示している。女性が幸せになったのを見届け、さくらと一緒に「良かった」と言う寅次郎。歌子とのバス停での別れのシーンでも、同じように他人の幸せを第一に考えるのである。
第8作『寅次郎恋歌』や第11作『寅次郎忘れな草』でも繰り返されているが、本作は、シリーズの大きなテーマのひとつである幸福論を真っ向から描いているようだ。“とらや”での団欒のシーンでも幸福観について語り合われるが、人それぞれの異なる幸福観のせめぎあいによる悲喜こもごもが展開していく。つまり、寅次郎の考える歌子の幸せと、父・高見の考える娘の幸せ、それと、歌子本人の考える自分自身の幸せ。それからが異なることから生じる葛藤や確執。常に答えを求める博でさえも、この問題については素直に「分からない」と答えるのである。
歌子が初登場した『柴又慕情』と同様、彼女自身の抱える問題について、寅次郎や諏訪夫婦が一緒になって考えていくという格好でストーリーが進行していく。しかし、前作の問題が「結婚」だったことに対し、今回は、夫の死といった不幸な状況を前提とした深刻な問題になっている。この複雑な事情のからんだ問題に、寅次郎やさくらが持ち前の人生観で挑んでいく様が一つの見どころだが、やはり、『柴又慕情』で感じられたのと同様、歌子演じる吉永小百合中心のドラマといった印象が強いようだ。また、寅次郎の歌子に対する感情も、年齢の差のせいか、純粋な恋心とは少し違い、保護者的なものも感じさせられる。
以上のような「男はつらいよ」のセオリーから外れた点のおかげで、ファンの間ではいまいち人気の薄い作品となってしまったが、人生の岐路に立たされた迷える女性のドラマとしての質は高いようだ。人生の深刻な悩みさえ越えたところに、血の繋がった肉親との絆の大切さを伝えるラストは感動的なものになっている。
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