<<ストーリー>>

柴又の“とらや”に機嫌よく帰ってきた寅次郎は、皆に何か報告がある様子。温泉津(ゆのつ)の旅館で番頭として働いていた時に出会った女性・絹代の話を切り出したかと思うと、「今夜、大事な発表がある」と告げて、二階で休んでしまった。さくらたちは、寅次郎が結婚を決めたのではないか、と期待を膨らませたのだった。
夜になり、寅次郎は博や竜造に急かされ、絹代のことについて説明をした。釜場で働く絹代というその女性は子連れ。だが、彼女の夫は蒸発し、帰る見込みもないようだ。寅次郎は彼女と所帯を持とうと考えたが、まず家族に相談しようと思い、旅館に休みを貰って柴又に帰ってきたという。期待通りの話に喜ぶさくらたち。ところが、よくよく話を聞いてみれば、寅次郎は絹代と手を握りあったこともなければ、二人きりになったこともないのだった。例のごとくの片思いだったことを知って呆れ返った一堂。だが、結局、さくらが代表して絹代に会うだけ会ってみるこになった。
大阪に用事のある社長にも付き添ってもらい、寅次郎とさくらは温泉津へ向かった。絹代のいる釜場までやってきた寅次郎は、子供の相手をしながら立ち働く女性を指し、「あの人だよ」とさくらに告げた。ところが、寅次郎に気付きか駆け寄ってきた絹代は、開口一番、「主人がおととい帰ってきた」と笑顔で告げた。複雑な思いで喜ぶ絹代の姿を見ていた寅次郎だったが、絹代が幸せになって良かった、と考え、翌朝早く、さくらに置手紙を残して温泉津を去ったのだった。
商売のため津和野を旅していた寅次郎が食堂で昼食をとっていた時、女性が店を訪ねてきた。女性の「図書館の鈴木ですが」という声に聞き覚えがあり、寅次郎はふと顔を挙げた。そこには、二年前に福井で出会い、“とらや”に結婚の相談に来たこともあった歌子の顔があった。寅次郎の姿を見て、驚いたのは歌子も同じだった。実は、歌子は夫を病気で亡くしていて、夫の実家である津和野の図書館で働いていたのだった。歌子の身の上話を聞き、彼女の重ねてきた苦労を知った寅次郎。彼は歌子を心配し、「しばらく津和野にいてもいい」と言うが、かえって歌子に気を使わせてしまった。結局、寅次郎は、「今、幸せかい?」という問いに頷く歌子を確認すると、そのままバス亭で彼女と別れてしまったのだった。
数日後、“とらや”に戻ってきた寅次郎だったが、「自分は心の冷たい男だ」としきりに呟いていた。というのも、彼が勝手に不幸だと決め付けた歌子のことを、あのまま津和野に置いてきたことを後悔してのことだった。竜造やつねたちが、歌子のことを思って身もだえする寅次郎のことを「恋やつれ」だと冗談交じりに話したが、その話を聞いていた寅次郎本人は馬鹿にされたと思って憤慨。津和野に骨をうずめる覚悟で“とらや”を飛び出した寅次郎だったが、入れ替わりに歌子から“とらや”電話がかかってきた。なんと、歌子は柴又駅まで来ているのだという。寅次郎はさくらに電話のことを知らされて取って返し、家族総出で歌子を歓迎した。
歌子が“とらや”を訪ねてきたのは、東京での就職口を探すだめだった。東京で暮らすことに反対する姑にと喧嘩し、津和野を飛び出してきたのだという。寅次郎の顔を見て安心した歌子は、彼の冗談を聞いて久しぶりに明るい笑顔を見せた。就寝前、歌子はさらくにだけ、喧嘩別れした父・高見のことを打ち明けた。夫が亡くなった時、高見は歌子に東京に戻るよう葉書で告げ、葬式にも出てこなかったのだという。そんな父が薄情な人間に思えてならない歌子は、家にも寄らずに“とらや”に来たのだった。
歌子は“とらや”の二階にしばらく居候することになった。さくらは高見の家を訪ね、歌子を預かっていることを報せた。高名な小説家である高見は口下手で不器用そうな男だった。実際と高見と会い、悪い印象を受けなかったさくらは、歌子との確執を不思議に思うのだった。さくらから話を聞いた博は、二人が会えば問題が解決するだろうと考えた……。



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