両親の離婚で孤独に中にあった少年と、
地球にひとり置き去りになった異星人との心の交流を描くSFファンタジー。

E.T.

E.T.
THE EXTRA-TERRESTRIAL

1982  アメリカ

115分  カラー



<<解説>>

少年とエイリアンの交流と友情を描いた本作は、映画史上空前の大ヒットとなり、スティーヴン・スピルバーグ監督の代表作となった。題名の“E.T.”は地球外生命(エキストラ・テレストリアル)の略であり、登場するエイリアンの愛称でもある。本作以降、友好的なエイリアンの代名詞にもなった。月を背景に自転車で空を飛ぶ場面は、映画史上の名カットであり、多くのパロディやオマージュを生み出した。スピルバーグの製作会社「アンブリン・エンターテインメント」のロゴにもなったことは、言わずもがなである。
本作はSFではあるが、スピルバーグの半自伝的作品という側面もある。両親の別居で父が不在という主人公の境遇は彼の少年時代が反映されており、エイリアンの存在も当時、彼が空想していたものだという。E.T.は父の不在を補うものであり、父との別離を宇宙に帰るE.T.との別れに仮託させた、少年の成長物語としてみることも出来る。
76年版『キングコング』の造形も手掛けたカルロ・ランバルディによるE.T.のクリーチャーは、駝鳥と猿を掛け合わせたような、どこかで見たことあるようでないユニークなデザインである。静止状態ではやや不気味であるが、愁いを帯びた瞳と愛嬌のある動きが親しみを与えてる。このクリーチャーに増さず劣らず見どころなのが、生き生きと描かれた兄妹である。スピルバーグには兄はいないが、大人びていつも弟をからかっていても実は弟思いの頼れる兄という設定は、監督の理想が反映さているように思える。主人公を演じたヘンリー・トーマスは、デビュー作にして存在感は圧倒的で、ラストシーンでの涙の美しさは大人顔負けである。
SF的には『未知との遭遇』の発展的スケールダウンである。地球を全域をまたにかけて、人類の叡智と地球外知的生命との劇的なファースト・コンタクトを描いた前作に対し、本作は少年とエイリアンとの一対一コンタクトであり、事件は郊外の町から一歩も外に出ることはない。常識的な展開として、政府機関が宇宙船やE.T.の調査にやってくるものの、町の外のことは徹底して描かれないのである。このようにドラマのスケールは大幅に縮小されているが、世界規模だった大事件を、あえて、家庭内の日常的なレベルまで引き下ろすことで、『未知との遭遇』で描こうとした人類の友人としてのエイリアンを、より明確に描くことに成功している。人類という大きな主体だと漠然とし過ぎて理解が追いつかないが、少年個人がエイリアン個人と対等でプライベートな関係を築くということでありば、具体的に理解できるのではないだろうか。
『未知との遭遇』ではコンタクトの手段として音響を用いていたが、本作では身も心も「共感」させるE.T.の超能力がそれを果たしており、そこは本作でもっとも注目すべきことである。はじめはまさに拾ってきた犬を内緒で飼うようにE.T.を扱うが、次に互いの動作や言葉を真似ること、さらに心身ともに共感させるという段階を踏むことで関係を深めていく。姿かたちが異なり、コミュニケーションも難しい者同士でも、共感力があれば、理解はできなくても通じ合うことができる。それは、E.T.のようなエイリアンでなくても、言葉や文化、思想信条や宗教が異なる人間同士、たとえ話しても分かりあえない相手でも同じことである。価値観が対立的に分散してしまった今の世にこそ、改めて観られるべき作品であると言えるかもしれない。ちなみに、地球外知的生命が人間と共感によるコンタクトを試みるが、かえって相手を傷つけて失敗した例を描いたのが『惑星ソラリス』とそのリメイクである『ソラリス』である。
本作は長らく興行成績一位の座を守っていたが、記録が破られるまでが世界より日本のほうが四年長かったことで、日本での人気の高さがうかがえる。外からやってきた異形なものが日常に入り込んで事件を巻き起こすシチュエーションが、当時、既に藤子不二雄の漫画で非常にポピュラーだったことや、愛嬌のあるE.T.と日本独特のキャラクター文化との親和性が、日本での人気に寄与していたのではないかと考えられる。



<<ストーリー>>

ハロウィンに近いある霧のたちこめる夜、地球外生命(エキストラ・テレストリアル)=E.T.を乗せた宇宙船が森の中に着陸。E.T.の一人が船外に出て周囲の植物を調査中、宇宙船を追って人間たちが近づいてきた。宇宙船は緊急避難のため、止むを得ず、E.T.を地上に残したまま飛び発った。
森から近い郊外の町に母のメアリーと兄のマイケルと妹のガーティと四人で暮らす暮らす十歳の少年エリオットは、マイケルの言いつけで、宅配ピザの受け取りのために外に出たとき、納屋に何かがいる気配に気付いた。納屋からのびていた足跡を辿っていったエリオットは、畑の中でいままで見たことのない奇妙な生き物=E.T.と遭遇。エリオットとE.T.は互いにびっくり仰天して逃げ出すのだった。
翌朝、エリオットは例の生き物が逃げて行った森に向い、チョコを餌にしておびき出そうとしたが見つからなかった。その日の夕食時、エリオットは家族に怪物のことを話すが、「想像でもしたのだろう」とからかわれた。悔しくなったエリオットは、「パパだったら」どう言っただろう、と口を滑らせ、メアリーを悲しませてしまった。父とは別居していて、メアリーとは別の女性とメキシコにいるのだ。
諦めきれないエリオットは、外のポーチに陣取り、夜通しで納屋の前で見張ることにした。エリオットが寝入りそうになったとき、E.T.が目の前に姿を現した。家族を呼ぼうとするも、驚きのあまり声にならなかった。チョコを使ってE.T.の気を引き、彼を自分の部屋に招き入れたエリオットは、その生き物を観察。長い腕に短い足。細長い首の上には横に広がった大きな頭が乗っていた。エリオットとE.T.は、互いの動作を真似することで、すぐに打ち解けた。緊張のとけたエリオットは、そのままソファで眠ってしまった。
その頃、NASAの科学者たちが宇宙船の着陸した附近を調べていた。その中の一人、たくさんの鍵を腰にぶら下げた男が、地面にチョコが落ちているのを見つけ、何者かがE.T.と接触した可能性に気付いた。
翌日、エリオットは体温計の温度を偽装することで仮病をつかい、学校を休んだ。他の家族が出かけたあと、エリオットは改めてE.T.に自己紹介し、会話を試みようとするが、まったく言葉が通じずうまくいかなかった。エリオットは、マイケルにだけはE.T.のことを話そうと決意。学校から帰宅したマイケルに秘密を守ることを約束させるが、その時、部屋に飛び込んできてガーティがE.T.と鉢合わせて大騒ぎに。結局、E.T.は兄妹三人の秘密になった。
E.T.がどこから来たかを知りたくなったエリオットは、地球儀を手振りで示しながら彼に尋ねた。すると、E.T.は窓を、しかも、上のほうを指差した。さらに、彼は不思議な見えない力でボールを空中に浮かして、太陽系を形作って見せた。エリオットは、彼が地球の外からやってきた宇宙人なのだと理解するのだった。
翌日、エリオットは風邪が治ったことにして学校に行った。一人で留守番をすることになったE.T.は、空腹に耐えかねて冷蔵庫を漁り、中にあったビールを飲んで酔っぱらってしまった。すると、学校で理科の授業中だったエリオットも、なぜか酔っぱらってしまい、解剖の実験のために眠らさせようとしていた蛙を全部逃がしてしまった。そして、E.T.がテレビで映画のキスシーンを視ると、なぜかエリオットも女の子にキスしてしまうのだった。
実は、E.T.には光る指先で触れたものと共感する力があったのだ。その力を使うことで、鉢植えの萎れていた花を復活させたり、エリオットの指の怪我を治すことも出来るのだった。
好奇心の赴くまま、テレビを見たり、おもちゃをいじったりしていたE.T.は、ふと目にした新聞のSF漫画を見て、宇宙船と通信することを思いついた。テレビのおかげで言葉を少し覚えたE.T.は「E.T.、家、電話」とエリオットに訴えながら、新聞の漫画を指し示した。エリオットはE.T.がやりたいことを理解し、彼のために通信機の材料とりそうなガラクタを集めた。
その頃、NASAの科学者たちは、町の家々で交わされる電話や会話を盗聴し、E.T.が匿われている場所を探っていた。そして、エリオットが通信機について話していることを知り、彼の家に当たりをつけたのだった……。