「同級生のダサい男の子は自分の相手にふさわしくない」と思っている
ブルジョア思考の高い女の子がはじめて恋をする青春学園コメディ。
クルーレス
CLUELESS
1995
アメリカ
97分
カラー
<<解説>>
ジェイン・オースティン作「エマ」を、イマドキの女子高生を主人公に翻案して映像化した作品。アイドルのアリシア・シルヴァーストーンの初主演作である。監督と脚本は「ベイビー・トーク」シリーズのエイミー・ヘッカリング。題名の「Clueless」とは、無知やセンスの無さを表す形容詞であり、転じて劇中で多用される「ダサい」の意である。
主人公はビバリーヒルズの高級住宅地住まいのブルジョアの女の子。自分がいちばんかわいくて人気者だと確信していて、ダサい男の子は眼中になく、いつか、自分にふさわしいイケてる男の子にバージンを捧げようと決意している。趣味は手練手管でクラスメイトや教師の恋愛を操ること。そんな自信過剰で傲慢不遜な彼女が、はじめて見つけた恋とその行方はいかに?
今で言うところのスクール・カーストを背景としたコメディである。学園の頂点に君臨する主人公の傍若無人で悪魔的な振る舞いに翻弄される人々を笑い、しかし、その中にもちょっぴり真実が含まれているとうブラックコメディの様相を呈するのが物語の前半。主人公の言動は不愉快に思われるかもしれないが、根が純真なので憎めないし、そもそも、後半に控えている爽快な展開への前振りなのである。自分が恋をしていることに気付いた瞬間、彼女が目にする世界は一変し、本当に魅力的な女の子に変身する契機となる。自分からの意思で変わろうと一生懸命なのだけど、はたしてブルジョア思考が抜けきれていないところが、また憎めないところで。
主演のキュートな魅力、おしゃれなファッション、当時の先端のカルチャーが目を引くが、そのうわべのきらびやかさを、オースティンの恋愛哲学と名作所以の安定したストーリーがどっしりと受け止めているので、人を選びそうな作品なのに、男女問わず、案外誰でも安心して楽しく観ることができる。オースティン文学の普遍性によるところではあるが、現代的なアレンジもまったく無理がなく、こんなにもチャーミングなラブコメに生まれ変わったことは奇跡的。
<<ストーリー>>
弁護士の父とビバリーヒルズに二人で暮らすシェールは、自称「ごく普通の女子高生」。しかし、彼女は自分が学校で一番センスが良く人気者で、同級生の男の子はダサくて自分には相応しくないと考えていた。そんな自身過剰気味のシェールを、義理の兄のジョシュは心配そうに見守っていた。シェールの父とジョシュの母はかつて結婚していて、シェールとジョシュは連れ子同士の兄妹だったが、もう二人は離婚しているので、ジョシュは“元”義兄の他人というのが正確である。
近頃、学校の成績が落ちてきているのを悩んでいたシェールは、先生たちの機嫌が悪いせいだと考え、親友のディオンヌと組んで、共に恋人のいないホール先生とガイスト先生をくっつける作戦を敢行した。作戦は大成功し、シェールのピンチも救われた。気を良くしたシェールは、ちょっとダサくて男に失敗してばかりの転校生、タイと友達になり、彼女に新しい彼氏を与えるプロジェクトに着手した。シェールは、自分の人気と実力を駆使して、そこそこイケてるエルトンという男の子をタイに紹介した。だが、エルトンが好きなのはシェールだということを、彼女は知らなかった。
ところで、シェール自身はというと、彼氏が現れる気配はなし。彼女は自分にふさわしい男が登場するまで、バージンを大切に守ることを決意していた。そんなとき、クリスチャンという男の子がクラスに転入してきて、シェールは彼に一目ぼれしてしまった。シェールはさりげなくモーションをかけることで、計画通りにクリスチャンから誘わせることに成功。彼にならバージンを捧げられる、と期待を膨らませるが、その頃、自分とタイの立場が逆転しつつあることをシェールはまだ気付いていなかった……。