台風の接近のために夜の校舎内に閉じ込められた中学生たちの狂乱を描く青春ドラマ。

台風クラブ

1985  日本

96分  カラー



<<解説>>

相米慎二監督の七作目で、製作会社が募ったシナリオ・コンクールの入賞作を映画化したもの。デビュー以来、青春ドラマを撮ってきた監督が『ションベン・ライダー』から三作振りに原点に立ち戻った。中学生たちが台風の接近をきっかけに狂気にとらわれていく、というシンプルなシチュエーションとストーリーを、駆け抜けるような筆勢と独特の距離感のリアリズムでまとめた快作。
青春もので散々描かれてきた、大人への成長過程にある少年少女の心の揺れを、天変地異に対するプリミティブな興奮と重ね合わせてみせたのは秀逸である。主人公たちがとらわれた狂気とは何だったのか。物語は心の内面に踏み込まないため、刹那的で漠然としたものに見える。しかし、台風が近づいてきたときの不安とないまぜになったワクワク感と思い起こしてみると、彼らへの共感が沸き起こっている。性と恋といった内側のこと。将来の進路といった外側のこと。内と外へ同時に台風のように迫った大人への準備に対して湧き上がる不安と期待。進みたいと気持ちと止まりたい気持ちが衝突し、動物的に動揺していくのである。
テーマ上、エロティックな暗示や場面が多いが、ポルノにならないところで踏みとどまっており、エロと対となる死につていもユーモラスなオチをつけている。また、映像的には、ふんだんに盛り込まれた長回しによる風や雨のシーンが非常に開放的で、どろんこ遊びへの欲求も満たしてくれる快楽原則がある。そのため、暗くて突き放したような内容に反して瑞々しい印象で、鑑賞後は爽快感のある作品に仕上がっている。



<<ストーリー>>

木曜日の夜。中学三年生の山田明は学校のプールに忍び込んで一人で泳いでいたところ、同じく学校に忍び込んでプールサイドで踊りまくっていた宮田泰子、毛利由利、森崎みどり、高見理恵、大町美智子の五人に見つかった。泰子たちは明をからかい、コースロープで引きずり回したあげくに溺れさせてしまった。近くをランニングしていた野球部の三上恭一と清水健の処置で明は事なきを得るが、クラスの担任教師の梅宮に大目玉を食らうことに。
金曜日の朝。恭一と理恵は幼馴染でいつものように一緒に登校。理恵は明の様子があんまり面白かったら調子に乗ってしまったと、昨晩のことを恭一に詫びた。恭一の兄は東大生で、恭一も秀才だった。その晩、理恵が恭一の家を訪ねると、彼は兄と「個と種」をテーマに哲学的な話をしていたが、理恵には何のとこかさっぱり分からなかった。
恭一が夜のランニングに誘いに健の家に向かうと、健は明と一緒にいてなにやら内緒話をしていた。実は、明は放課後の教室で泰子と由利がレズ行為におよんでいるのを見たのだという。そのうちに、女子のうちで誰が好かという話になり、明と健は共に美智子が好きだと言った。健は理科の実験中、美智子の背中に薬品を流し込み、焼けどを負わせてしまったことを思い出した。健は美智子に謝罪するが、美智子が泣きついたのは恭一だった。恭一が理恵に好かれているのは誰も知っている。なのに彼ばかりがモテることが健は不満だった。
土曜日。台風が近づいてきていて、その日は朝から強風だった。寝坊をした理恵は、恭一が迎えに来た直後に目が覚めた。慌てて団地の窓から恭一に呼びかけるが、その声は風にかき消されて彼には届かなかった。理恵は慌てて制服に着替えて出かけたものの、途中で学校に行くのをやめたのだった。
十時半。授業を始めようとした梅宮に、美智子がいきりたって説明を求めてきた。昨日の授業中、梅宮の恋人の母親と叔父が教室にやってきて梅宮に詰め寄ったという事件についての説明である。梅宮が美智子をなだめようとすると、たちまち教室のあちこちで喧嘩や小競り合いが起こり、手がつけられなくなった。梅宮はどうも今日の生徒たちの様子が変だと気付いた。そして、雨が降り始めた。
放課後、美智子はまだ梅宮に説明を迫っていた。梅宮は後で説明すると美智子に言い残すと、逃げるように体育館に向った。理恵が学校に来ておらず、どうやら家出したようだが、恭一なら何か知っていると思って彼を探した。風と雨はいよいよ強まり、校内放送では早めの下校を呼びかけていた。午後四時二十分。その時、理恵は長野から上京し原宿まで来ていた。
暗くなった教室には健と美智子のふたりきりだった。健は出し抜けに美智子をデートにさそうが、警戒した美智子は後ずさり。健は逃げる美智子を追う格好になった。梅宮は恭一に訊いても理恵の行方は分からなかったため教室に戻るが、そこにはもう誰もいなかった。生徒はもう帰ったと考えた梅宮は、用務員と一緒に戸締りして帰宅した。だが、健と美智子はまだ校内に残っていた。
建はとりつかれたように美智子を追い続けた。美智子は職員室に逃げ込むが、健に追い詰められて彼にブラウスを破かれてしまった。健が美智子の背中の傷跡を見て半狂乱に陥っていたとき、職員室に恭一が入ってきた。恭一はトイレで理恵が家出した理由を考えているうちに、校舎に閉じ込められてしまったのだ。さらに、演劇部の部室にいた泰子、由利、みどりも合流して教室に移動するが、なぜか皆家に帰ろうとしなかった……。