地球連邦軍の少年兵たちはジオン軍と攻防を繰り返しながら地球上を旅する。
宿敵シャアの目的、そして、“人の革新”と言われるニュータイプとは何か?
劇場版アニメ三部作の続編。
機動戦士ガンダムU
哀 戦士 編
MOBILE SUIT GUNDAM
1981
日本
134分
カラー
<<解説>>
『機動戦士ガンダム』の続編で三部作の第二部にあたる作品。前作はテレビ版の第十三話までの再編集であったが、挿話である第十四、十五話は割愛され、本作は第十六話から第三十一話までの再編集である。そのうち、第十八、二十二、二十三、二十五話は一部またはほとんどが省略され、また、第二十一話は第二十四話の後に移動し、第三十一話は後半が省かれている。
前作の後半で描かれた地球連邦軍の戦艦ホワイトベースの地球上での活動の続きで、地球での作戦を追えて宇宙に飛び立つところまでが描かれる。事件としては、ジオンの特殊鉱物資源基地での“オデッサ作戦”、補給基地ベルファストでの戦闘、南米の地球連邦軍本部ジャブローの攻防の三つである。前半は、作中でも人気の高いジオンの老練のゲリラ兵ランパ・ラルとの対決、後半はスパイ少女の悲劇で連邦のパイロットであるカイの成長を描き、そして、作品の山場のひとつであるジャブローの戦闘シーンをクライマックスに据えていて、構成上のおさまりが良い。
前作でほのめかされていた“ニュータイプ”について詳細が明かされたり、ホワイトベースの乗組員セイラと、主人公アムロの宿敵で敵方の兵士シャアと関係、そしてシャアのが明らかにされるなど物語に動きがある。次第に物語の全体像と方向性が少しずつ示され、完結編への感心を高めていく。特にニュータイプについては、作品全体のテーマを提示したと言っても良い。宇宙生活に適応者であるニュータイプは認識力が拡大されており、これにより人とよりわかり合えるのだという。翻って、それは人は本来分かりあえないものであるということを示唆している。実際、“分かりあえなさ”を超えて他者とどのように折り合いをつけていくのかが、個人ひいては社会の大きな課題である。戦争を背景にしたニュータイプというファンタジーを通じて、人と人との“分かりあえなさ”を描こうとしているのが本作なのだろう。SF版『大いなる幻影』とも言えるかもしれない。
敵味方双方に多くの非業の死者が出るのも特徴で、成り行きから兵士として戦争に参加させられた少年たちに厳し現実をつきつけていく。主人公たちに“ニュータイプ”の兆しが見えるが、まだ能力を発揮する描写が少なくSF要素が前面に出ていないため、一本の戦争ドラマとして味わうこともできる。三部作の中でも比較的完成度の作品なのではないだろうか。
<<ストーリー>>
ジオンのマ・クベ大佐の守る特殊鉱物資源の基地を一斉攻撃する“オデッサ作戦”のため、連邦軍はヨーロッパに集結しつつあった。レビル将軍はホワイトベースを後方からの攪乱に利用すめためカスピ海沿いに黒海へ向かわせた。ホワイトベースの実戦報告を分析した結果、彼らがニュータイプ部隊である可能性があった。シャアにもニュータイプとの噂のあるが、だとするればガンダムを訓練なしに使いこなしたアムロもそうではないかと、レビルは考えていた。一方、連邦軍の侵攻の動きを知ったマ・クベは、ランバ・ラルにホワイトベースの位置を教えた。キシリア・ザビ麾下のマ・クベは、ドズル・ザビ直営のラル部隊を利用するつもりだった。砂漠を航行中のホワイトベースは、ラルの陸戦艇“ギャロップ”の機影を発見。セイラは、敵がサイド7で出会った兄と思わしきジオン兵のことを知っているかもしれないと考え、勝手にガンダムで出撃、その結果、軍の規定により三日間の独房入りを命じられた。砂漠の戦闘で、ホワイトベースはラルの部下コズン・グラハム中尉を捕虜にした。セイラはコズンに食事を渡す時にシャアのことを聞き出した。地球からの流れ者だというシャアは、ガルマを守れなかったことを問われて失脚したが、キシリアに引き抜かれたのこと。また、シャアにはザビ家への恨みが噂されているという。セイラはシャアが兄キャスバルであることを確信した。
ホワイトベースは攪乱作戦として、あえて戦略的な要衝でない鉱山を攻撃した。マ・クベはランバ・ラルに応援に向かわせ、自らは支援も出さずに傍観。アムロは鉱山攻撃にはガンダムは不要と判断し、命令を無視して陸戦モビルスーツ“ガンタンク”で出撃するが、その慢心が仇となり、ラルのグフに戦力差を見せつけられることに。成すすべなく退却しアムロは、ブライトが、アムロをガンダムから下すことに同意するようミライを説得する現場に出くわしてしまった。ブライトは信じていなかったが、もしアムロがニュータイプであった場合、増長して乗組員を危険にさらすことを懸念していたからである。ショックを受けたアムロはガンダムに乗ってホワイトベースを脱走した。
砂の中にガンダムを隠しあてもなく砂漠を行くアムロは、中立地帯の町ソドンのレストランに立ち寄り、そこでランバ・ラルの部隊と邂逅。ラルは、食事を奢ろうという内縁の妻ハモンの申し出をはっきりと断ったアムロを気に入った。そこへアムロを探しに来て歩哨に捕えられたフラウが店内に連れてこられた。ラルはフラウの制服からアムロが連邦軍兵士であることを知るが、この状況で自分を撃とうと銃に手をかけたアムロの度胸に免じ、フラウと一緒に解放した。アムロはフラウと別れて一人で行くが、フラウの放免がホワイトベースの場所を突き止めるためだということに気付いた。アムロはガンダムでホワイトベースのもとに急ぎ、ラルのグフと一騎打ちに。接近戦での激しい斬り合いでガンダムとグフ双方の装甲が破れ、その隙間からアムロとラルは互いに相手を垣間見た。ラルは年端もゆかない少年もパイロットとなるという時代の変化に愕然とした。爆発するグフから脱出したラルは、作戦を立て直すためにひとまず退却した。
ホワイトベースに戻ったアムロは、ブライトへの抗議も虚しく脱走の軍規違反で独房に入れられた。アムロは、モビルスーツの性能のおかげで勝てたのだというランバ・ラルの指摘が気になっていた。彼は自分が必要だと分からせるためにも、ラルに勝ちたいと強く思った。一方、ラルはマ・クベからホワイトベースを無傷で奪取せよという難題を突き付けられていた。グフを失い本部からの補給も当てにできない今、ラルはゲリラ屋本来のやり方でことにあたる決意。部下たちと共に小型戦車“キュイ”で発進し、ホワイトベースに乗り移るが、艦内にいるのが少年ばかりであることに戸惑った。仲間たちがラルの部隊を迎え撃っている最中、独房を出されたアムロもガンダムで出撃。その頃、混乱する艦内でラルと鉢合わせたセイラは、本名のアルテイシアで呼びかけられ、はっと息を飲んだ。ランバ・ラルの父ジンバ・ラルは、セイラの父ジオン・ダイクンと共に革命を戦った戦士であり、セイラの育ての親でもあったのだ。アルテイシアが敵方と知り、戦意を失したラルは、ブリッジに逃げ込むとギャロップで待つハモンに作戦の失敗を告げた。そして、ガンダムで待ち構えていたアムロの目の前で自爆したのだ。
連邦軍によるオデッサ作戦が開始された。この作戦が成功して鉱物資源の供給を断つことが出来れば、宇宙でのジオンとの長期戦を回避することができる。補給のためホワイトベースを訪れたマチルダから、ガンダムの操縦経験のあるアムロとセイラにニュータイプの適正があることが伝えられた。そもそも、ニュータイプは、ジオンの創始者ジオン・ダイクンが宇宙世紀に適応した“人の革新”として提唱したものであり、認識力が拡大されることで人と人がより分かり合えるようになることが期待されていた。それを戦闘能力の向上のための実験に利用されることに、セイラは嫌悪を抱いた。その頃、ホワイトベースはレーダーで敵機を捉えていたが、メインエンジンの出力が上がらず離陸できずにいた。急いで技術者に確認に行かせるが、その時、なぜかミライは、間に合わないだろうと感じた。迫り来るのは、三体のジオンのモビルスーツ“ドム”。アムロのガンダムは三体のドムによる連続攻撃をかわすが、その戦闘の只中にミデアが飛び込んできた。搭乗していたのは、ホワイトベースを守るため、自ら囮になろうとしたマチルダだった。ドムにミデアを撃墜されたアムロは怒りを爆発させ、三体のドムを次々と撃破した。
連邦軍の圧倒的な物量の前にジオン軍は後退を余儀なくされたが、そんな中、ホワイトベースに後方から迫る小さな部隊があった。ハモンがランバ・ラルに忠誠を誓うゲリラ兵たちを率いてやってきたのだ。ホワイトベースを破壊するという使命を全することで、ハモンはラルの好意に応えようとしていた……。