パリの下町モンパルナスを舞台に、男性の妊娠をめぐる騒動を描いたコメディ。
モン・パリ
L'ÉVÉNEMENT LE PLUS IMPORTANT DEPUIS QUE L'HOMME A MARCHÉ SUR LA LUNE
1973
フランス/イタリア
92分
カラー
<<解説>>
『シェルブールの雨傘』、『ロシュフォールの恋人たち』のジャック・ドゥミによるライトなコメディ。主人公の“妊娠する”男にマルチェロ・マストロヤンニ。その恋人にカトリーヌ・ドヌーヴ。
食べ物の影響でホルモンのバランスが崩れたために(まるで、九十年代末に話題になった「環境ホルモン」のよう)、男性なのに妊娠してしまったという話。長い原題は「人類が月面を歩いて以来、最も重要な出来事」という意味で、つまりは、男性の妊娠を指している。その驚くべき事件に対する周囲の反応と、妊娠したことで変化していく男の姿を描く。
ストーリーは単純明快。男は新聞に取り上げられることで話題になり、さらに、学会で取り上げることで世界的に時の人となる。物語は直線的にエスカレートしていくが、男性の妊娠という世界的なムーブメントは紹介されつつも、オーバーに煽り立てることはない。物語はあくまで、主人公カップルの周辺を中心に、そして、日常的な視点で展開されていく。マストロヤンニのとほけた芝居が良く、大きなお腹の口髭男がだんだんと女っぽく見えてくるののがおかしい。
フェミニズムをどこまで意識した作品かは分からないが、男性が妊娠させることことで、妊娠を女性だけにかかわるものとする意識に対して変化を促すことは確かである。妊娠のことをカップルがお互いに我が身のこととして考える姿はほほえましく、現代的な夫婦像への示唆が感じられる。同じく男性の妊娠を描いた作品にアーノルド・シュワルツェネッガー主演『ジュニア』があるが、こちらは、大男の妊娠というミスマッチに始終したSFコメディである。
<<ストーリー>>
パリの下町モンパルナスに暮らす男マルコは、最近、体の調子がおかしいことを自覚していた。最愛の恋人イレーヌとのデート中でも、すぐに気分が悪くなってしまうのだった。心配する婚約者イレーヌの強いすすめで、しぶしぶ病院に行くと、妊娠四か月だと言われた。まさかと思ったマルコだったが、病院から紹介された産婦人科の権威ショーモン博士も、妊娠と診断。ショーモン博士によると、なんらかの食物でホルモンのバランスが崩れたのだということ。
マルコの妊娠は新聞で報じられ、たちまち時の人に。はじめのうちは戸惑っていたマルコも、母性に目覚めたのか、お腹が大きくなるにつれて、だんだんとその気になってくるのだった。マルコはアパレル企業から目を付けられ、妊婦服の宣伝に狩り出された。さらに、マルコはショーモン博士と学会へ出席し、男性初の妊娠として大々的に発表された。マルコが世界的に有名になったのをきっかけに、世界各地でもマルコのような男性の妊娠の症状が現れるはじめるのだった……。