コンピューター制御の豪華客船がカリブ海をクルーズ中、突如制御不能に。
船に乗り合わせたSWAT隊員と、事件を起こしたコンピュータ・プログラマーとの
攻防を描くノンストップ・アクション。
スピード2
SPEED 2
CRUISE CONTROL
1997
アメリカ
121分
カラー
<<解説>>
ヤン・デ・ボンが『スピード』、『ツイスター』に続いて撮った三作目。『スピード』の続編で、舞台は路線バスから豪華客船にスケールアップ。危機また危機の連続で見せる、ジェットコースター的アクション作。主演は前作から引き続きの出演となるサンドラ・ブロック。その恋人のSWAT隊員で、実質の主人公を演じるのが、ジェイソン・パトリック。犯人のコンピュータ・プログラマーにウィレム・デフォー。
本作には、前作で路線バスでの爆弾事件に巻き込まれたアニーが登場するのだが、彼女と事件をきっかけに出会ったSWAT隊員のジャックは、演じたキアヌ・リーブスが降板したため、登場しない。アニーとジャックは別れことになっている。前作のラストで予言された「吊り橋効果で結ばれたカップルは分かれる」という説が図らずも成就されたかっこうになった。夢はないが、現実的な設定ではある。アニーの新しい恋人として、別のSWAT隊員アレックスが登場。彼がジャックの役割を担わさせることになるのである。さて、アニーはアレックスと豪華カリブ海クルーズに出かけるのだが、持前の運の悪さによって、またしても大事件に巻き込まれることに。船の自動操縦システムを設計したコンピューター・プログラマーが、自分を裏切った会社を逆恨みし、船を制御不能にしてしまうのである。
本作で描かれる事件と前作の事件との間に繋がりはまったくない。登場人物のつながりはアニーだけであるが、事件解決のために活躍するのは、前作とは縁のゆかりもない、新参の主人公アレックスなのである。しかし、前作の主人公の目的が「バスをいかに止めないか」であったのに対し、本作は「船をいかに止めるか」であるというところに類似性があり、これによって、辛うじて続編と言う体裁を保っている。とは言え、前作のファンにしてみれば釈然としないだろう。特に、前作がキアヌ・リーヴスの出世作という事実と切り離せないだけに、彼が出演しない本作にどれほどの価値があるだろうか、と。しかし、それを一番よく理解していたのは、他ならない製作者側である。主役の降板をごまかさず、身もふたもない設定にしたことからも、前作とは異なる作品にしようという、割り切った態度が見えてくる。
前作は、自由に動き回れる犯人に対して、主人公がバスという密室で身動きが取れないという圧倒的に不利な状況の中、限られた手駒を使っていかにして犯人を追いつめるか、という頭脳戦の緊迫感が見どころであった。一方、本作は、バスから船に舞台が変わることで物理的に空間が広がっただけでなく、主人公が選べる行動にも自由度が広がったが、犯人と対等の関係になった。また、あれだけ仲間がいるのに、ただ一人の警官である主人公がほぼ孤立奮闘しているため、両者の戦いは割と単純な追いかけっこになっている。謂わば、チェスから鬼ごっこへと、ゲーム自体を変えてしまったのだ。
犯人は銃や振り回すような犯罪のプロではなく、一介のコンピューター・プログラマーであり、その特技を活かして、船の設備を手足のように自由に操作できる、というアイデアは面白い。とにかく体を使って事態を打開しようとする主人公と、主人公に計画を邪魔される度にプログラミングによって計画の軌道修正するという犯人が好対照になっている。しかし、犯人を演じたウィレム・デフォーの芝居も顔面もアクが強すぎて、あれだけ大活躍した主人公のことがあまり記憶に残らないというのが、なんとも残念である。
総じて、前作と本作との関係は、『ダイ・ハード』とその続編『ダイ・ハード2』の関係を思い起こさせるものがある。『ダイ・ハード2』はビルから空港に舞台を広げた代わりに、前作のような緊張感を維持することを潔く切り捨て、大味なパニック映画風アクションに装いをあらためた。本作も、前述のとおり、チェスから鬼ごっこ変わったことで、サスペンスを捨てる道をとった。カリブ海クルーズというシチュエーションに合わせ、始終、浮かれた調子であり、シリアスだった前作から雰囲気は一変。危機的な状況の中でも、スピルバーグ的な遊び心で和ませる演出を多くとっている。最大の見どころであり、ディザスター映画ばりのスペクタクルは、映像の迫力だけでなく、巻き込まれる人々のリアクションをよくとらえていて、非常に面白いシーンなっている。ただ、『ダイ・ハード2』が魅力的な主人公の存在があってこその作品であったの対し、本作はそれが不在であるだけでになく、あまつさえ、「スピード」の名を冠することで、前作の続編という期待を煽ってしまっていることが最大の瑕疵であることは認めざる得ない。そこを許し、別の作品として割り切ってしまえば、十分楽しめる作品である。
<<ストーリー>>
路線バスで起きた爆弾テロ事件をきっかけに、SWATの隊員のジャックと恋人同士になったアニーだったが、「危険な状況で結ばれたカップルは長続きしない」というジンクス通り、結局、数ヶ月で別れてしまった。彼女の新しい恋人は、海岸パトロール警官のアレックス。よく気の利く優しい男性で、就いている仕事も凶悪犯罪とは無縁で、身の危険も伴わないものらしいので、アニーも安心していた。
だが、二人が出会ってちょうど七ヶ月目という日、アニーは、町中で逃走犯と激しいカーチェイスを繰り広げているアレックスを目撃してしまった。実は、海岸パトロールの仕事をしているというのは嘘で、アレックスの本当は仕事はSWATの隊員だったのだ。記念日であるまさに今日、正直に打ち明けるつもりだった、と弁明しながら、アレックスはアニーに旅行のチケットを差し出した。カリブ海のクルーズ旅行である。アレックスの嘘に腹を立てていたアニーだったが、これは二人が分かり合うためのチャンスと考え、誘いに応じることにした。
休暇をとったアレックスがアニーと一緒に乗り込んだのは、プールにスパ、そして、カジノをも備えた豪華客船。船内のあらゆる設備はコンピューターで制御されていて、自動操縦による安全な公開が約束されていた。船は様々な乗客を乗せてカリブ海へと出航した。アレックスはこの旅行中にアニーにプロポーズしようと考え、常に指輪を忍ばせていたが、当のアニーがゴージャスな旅にすっかりハイになっていて、なかなかそういう雰囲気にならなかった。
そんな中、アレックスは、アニーが親しくなったガイガーという名の一人旅の乗客に、警官の勘から不審感を抱いていた。というのも、彼は自分の荷物であるゴルフ・クラブが部屋に運ばれるのが遅れたことに苛立っていたが、その一方で、テレビのゴルフ中継には見向きもしなかったのだ。実は、ガイガーが船に運び込んだのは、ゴルフ・クラブやゴルフ・ボールにカモフラージュした発煙弾だった。彼は客室に数台のコンピューターも持ち込んでいて、それを特殊な変換機を介して船のシステムに接続した。次に彼は、船内の色々に部屋に忍び込んで発煙弾を仕掛けたり、ブリッジに盗聴器を仕掛けたりした。夜になり、船はマニュアル運転からコンピューターによる自動操縦に切り替えられた。この瞬間、船のシステムはガイガーの手中に落ちた。
翌日、航海士が、船の進路が微妙にずれていることに気付いた。船長はマニュアル運転に戻すように命じるが、切り替わらなかった。これがシステムへのハッキングのせいだとは、誰も思わなかった。船長が一人で舷を歩いていたところ、目の前にガイガーが現れ、自分は船のシステムを設計したコンピュータプログラマーであることを明かした。次の瞬間、船長はガイガーに襲われ、舷から海中に転落したの。ガイガーは職場でコンピュータの電磁波を浴び続けたことで病気になった。だが、会社は彼の開発したシステムを外部に売った上、病気を理由に彼をクビにしたのだった。ガイガーはそのことで、会社を恨んでいて、今回の凶行におよんだのだった。
その夜、船内ではダンス・パーティが開かれていた。アレックスとアニーもドレスアップして参加し、踊るうちに二人は良い雰囲気に。アレックスがこれをチャンスとばかりにプロポーズの言葉を口にしようとした。が、その時、爆発音と衝撃が船を襲い、同時にエンジンの出力が急速に低くなっていった。突然の事態に騒然とするブリッジ。そこに電話がかかってきた。一等航海士のジュリアーノが出ると、相手はガイガーだった。これが脅しではないことを分からせるため、ガイガーはリモコンで発煙弾を発火させ、火災警報を発動させた。「船長がいない今、指揮はお前が握っているのだ」とジュリアーノに言い聞かせると「警報を鳴らして、客を船から降ろせ」と迫った。船内で火災が発生していると思いこんだジュリアーノは、命ぜられるまま警報のスイッチを押した。
アレックスは船員に促されて避難することになったが、硫黄の匂いのする煙が出ていることに気付き、火災の発生を疑った。救命ボートに乗ることを拒否したアレックスは、警察である身分を明かして、ジュリアーノを質した。すると、彼が「あの男が次に何をするか分からない」と漏らしたため、これが何者かによる陰謀であることを知ったのだった。一方、その頃、ガイガーは、この混乱に乗じて、金庫室に悠々入り、アメリカ宝石商協会が持ち込んでいた宝石コレクションを根こそぎ奪っていた。目的を果たしたガイガーは、船を始末するため、遠隔操作でエンジンを再始動した……。