核エネルギーから産み出された超人ニュークリア・マンがスーパーマンに襲い掛かる。
スーパーマン最大のピンチを描くシリーズ4作目。
スーパーマン4
最強の敵
SUPERMAN IV
THE QUEST FOR PEACE
1987
イギリス/アメリカ
90分
カラー
<<解説>>
クリストファー・リーブ主演の「スーパーマン」シリーズの第四弾にして最終作。前作では不在だった、ジーン・ハックマン演じる宿敵“悪の天才”レックス・ルーサーが再登場。今回の強敵は、スーパーマンの細胞と太陽の核エネルギーから生まれたニュークリア・マン。地球上で、宇宙空間で、そして、月面での死闘が描かれる。
リーブのコスチューム姿も見納めとなる本作は、主演である彼自ら原案を取り入りれ、核兵器廃絶のメッセージを盛り込んだストーリーとなっている――冷戦構造を前提とした核兵器開発競争は、激化の一途をたどっていた。地球の一市民として、この世界情勢を憂いでいたスーパーマンは、国連総会の場に自ら赴き、核兵器の廃絶を訴える――今度のスーパーマンは活躍の動機は、助けを求める声に応えたわけでも、強敵が目の前に立ちふさがったわけでもない。社会的な問題に関心をよせ、自らの意見を持ち、それを公式の場で積極的に訴えるのである。“もの言う”スーパーヒーローというのが新鮮である。
さて、核兵器廃絶のためにスーパーマンがとった具体的な行動とは、世界中の核兵器を集めて、まとめて太陽に投げ込むということ。核兵器の開発を推し進める政治家を懲らしめるのではなく、元から絶ってしまうというのが、心優しきスーパーマンらしい問題解決方である。ところが、これがレックス・ルーサーに、最強の超人を作り出すヒントを与えてしまった。核エネルギーで活動するニュークリア・マンとは、スーパーマンに挑戦してくる個人なのではない。あくまで核兵器開発競争の象徴。日本でいうところのゴジラのような存在なのである。
ニュークリア・マンは象徴であるがためにパーソナリティは希薄であり、ひたすら、粗野で愚かな者として描かれる。他方、スーパーマンの謙虚で紳士的な面が際立つことになった。表の顔であるクラーク・ケントのダメ男振りもこれまで以上に描かれていて、同僚のロイス、新聞社の新社長レイシーとの奇妙な三角(あるいは四角?)関係という、ロマンチック・コメディも演じてみせる。
スーパーマン=クラークが二人の女性との恋愛に悩む一方、ニュークリア・マンの闘いも厳しいものとなっていく。相手は自分のクローンであるが、そこに核の力が加わっている。まともに戦ったのでは絶対的に不利という状況。そこで彼は、腕力だけにたのむ闘いではなく、敵の弱点を積極的についた、知恵を使った闘いを繰り広げる。核の脅威に核で対抗することにより、世界に核兵器が広がってしまったという事実。スーパーマンは同じ轍を踏まかった。彼は力に対して力ではなく、知恵で挑むことで、身をもって手本を人類に示そうとするのである。
画期的なスーパーヒーロー像を提示したたいへんユニークな作品であるが、ここで示された政治的なスーパーヒーローというその方向性は、皆がスーパーマンに期待していたものと正反対であった。さらに、粗暴ななだけでキャラクターとしてまったく魅力なのい敵、敵が強すぎて盛り上がらないバトル・シーン、致命的なまでに雑なSFXなどが相まって、多くの観客の不興を買うという結果になってしまった。
ちなみに、本作から十九年後の2006年公開された『スパーマン・リターンズ』は、リブート作であると共に、リーブ版の続編であったが、それは第二作の後日談という形の続編であり、評判がいまちまな三作目と本作はなかったことにされている。
<<ストーリー>>
宇宙遙かクリプトン星からやってきた超人スーパーマンは、冴えない新聞記者のクラークに身をやつし、地球での日々を送っていた。彼がクラークとして働く新聞社、デイリー・プラネットが買収され、ワーフィールドという実業家が新しいオーナーになった。事実上の乗っ取りであった。
クラークは、社長令嬢、つまり、ワーフィールドの娘レイシーに好かれてしまった。ドジで頼りないところが、かえって、やり手の彼女を惹きつけたのだ。だが、クラークの意中は同僚として長い付き合いのあるロイスだった。クラークは未だに気持ち告げられていなかったが、ある日、思い切って、ロイスの目の前でスーパーマンに変身して見せ、一緒に空中散歩に繰り出した。だが、ロイスにとっては、あまりに夢心地だったため、それを現実とは思われなかった。
そんな奇妙な三角関係にクラークが巻き込まれている折、世界は核軍備競争に邁進していた。心を痛めたスーパーマンは、国連総会に飛び入りで参加し、演説を行った。その演説の中で彼は、今や自分は訪問者ではなく地球を故郷と思っている、と告げた上で、世界から醜い戦争をなくすためにすべての核兵器を取り除く、と宣言した。その宣言は直ぐに実行に移された。スーパーマンは、核実験で発射されたミサイルを宇宙空間で次々とキャッチし、まとめて太陽に放り込んだのだった。
数年前にスーパーマンの活躍で逮捕されていたた悪の天才レックス・ルーサーが刑務所から脱走した。彼は、甥のレニーと一緒に、打倒スーパーマンのために科学実験を繰り返し、それはついに完成に至った。レックスは、核を廃絶してしまったスーパーマンのために、金儲けができなくなってしまった核戦略シンクタンクや核弾頭商人を集めると、スーパーマン抹殺計画を披露した。もちろん、自分の計画に乗るには、多額の手数料を収めることが条件である。レックスは、スーパーマンの髪の毛を手に入れ、密かに彼の細胞を培養していた。それに太陽の核エネルギーを加えることで、スーパーマンを超える超人が誕生するというのである。
アメリカ空軍に潜り込んだレックスは、核ミサイル発射実験を指揮。レックスによって発射されたミサイルは、レックスの目論み通り、スーパーマンによって太陽に放り込まれた。太陽の中で化学反応を起こしたスーパーマンの細胞は超人ニュークリア・マンとなり、地球に舞い戻った。レックスの目の前に現れたニュークリア・マンは、生みの親であるレックスに対し、自分が支配者だと威勢をふるった。だが、レックスは動じなかった。太陽からエネルギーを受けて活動しているニュークリア・マンが、日陰に入ると動けなくなることを知っていたからだ。それがニュークリア・マンの唯一の弱点だった。
こうして、最強の味方を得たレックスは、宿敵スーパーマンを呼び出し、ニュークリア・マンに「殺せ」と命じた……。