過去や未来に意識の行き来が可能な男が、大戦中から現代までの半生を辿るSFドラマ。
カート・ヴォネガットの半自伝小説の映画化。
スローターハウス5
SLAUGHTERHOUSE-FIVE
1972
アメリカ
104分
カラー
<<解説>>
カート・ヴォネガット・ジュニアが半生を投影させたSF小説「屠殺場5号」(現在はの書名は映画と同じく「スローターハウス5」になっている)を、『明日に向って撃て!』以降、『スティング』以前のジョージ・ロイ・ヒルが映画化。誤解がありそうなので、断っておくと、シリーズの五作目ではない。
主人公の男は医師である。仕事に恵まれ、子供も成長し、申し分のない人生の黄昏どきを迎えようとしている。中の上の成功を収めたという他はいたって平凡な男だが、彼には、過去の自分に意識を旅させることができるという不思議な力があった。ただ、何時、どの時代に意識を移せるかは、意志の自由にならなかった。連想により意識が飛躍するらしいが、詳しいことは分からず、ある過去から別の過去、そして、未来にまで、翻弄されるように人生を旅していく。
戦中、戦後、現在、そして、未来。人生の様々な場面を切り取ったエピソードの断片を、コラージュしたような映画である。それぞれの時代は、いちおう時系列に沿ってはいるため、物語として追っていくことは出来、下記の粗筋では物語を整理してみたが、実際はもっとエピソードは細断され、場面は縦横に行き来している。
他の惑星の生物の影響らしいという、SF的な説明がなされているが、原作者がSF作家であったからであって、実はどうでもいい。20世紀の文学の世界では、「意識の流れ」という手法が流行したが、それを一歩進め、「連想による意識の流れ」という手法を実験したのが、原作の意図だったと思われる。実際、我々が記憶をたどるときは、本作のように連想によって行うことが多い。一見、乱雑な本作も、頭で捉えようとすると難しいが、心で意外とすんなり受けいられるのではないだろうか。
連想による場面転換という実験は、時間の芸術である映画との相性も良い。無数の(無数と錯覚するほど様々な)エピソードの連続は、人生の走馬灯を見ているようである。過去を哀愁をもって描き出すことに長けた、ヒル監督の作家性との相乗効果も高い。主人公の人生は、悲運と悪運の連続であったが、どんなに幸せでも不幸でも、また長くても短くても、人に平等に与えられた一度きりの人生が愛おしくなる作品である。
<<ストーリー>>
第二次大戦では捕虜となり、戦後は医師として成功をおさめたビリー・ピルグリムは、自分の意志とは関係なく、人生の過去の様々な局面に意識が移動していくというという不思議な力を持っていた。彼は体験をタイプに向き合い、書きつらねていた。
今、ビリーの意識は第二次大戦のベルギー戦線にあった。兵隊のビリーは、ウォーリーとラザロという二人の仲間と一緒にドイツ軍の捕虜となった。移送中の列車の中で、怪我がもとでウォーリーが死んだ。ラザロは、ウォーリーが死んだのはビリーのせいだと考えた。ビリーは、ラザロから自分を庇ってくれたダービーという兵士と友人になった。
ビリーの意識は戦後に飛んだ。医師として開業したビリーはバレンシアという女性と結婚した。やがて、社会的にも名士として認められるまでになっていた。そんなある日のことだった。トラルファマドアという惑星の四次元生物が彼に接触してきたのは。いずれ、彼はその惑星に行くことになるという。
捕虜のビリーたちはドレスデンへ移送されることになった。当時、軍部はドレスデンは比較的安全だと考えていて、あの未曽有の大空襲を被ることになるとは知る由もないのだった。ビリーは捕虜のリーダーに選ばれた。リーダーと言えば、戦後、ビリーは医師クラブの会長に選ばれた。
遠方で会議が開かれることになり、ビリーは幹事として旅行を取り仕切っていた。だが、ビリーたちの乗った飛行は離陸直後に墜落してしまう……。
<<スタッフ>>