地球上から緑が消えた未来。
宇宙ステーションで育てられるわずかな植物を守るため、一人の植物学者が反乱を起こす。
エコロジーを題材にしたSFドラマ。

サイレント・ランニング

SILENT RUNNING

1972  アメリカ

89分  カラー



<<解説>>

『2001年宇宙の旅』の特撮スタッフ、ダグラス・トランブルが監督、特撮、原案を手掛けた宇宙SF。地球で環境破壊が進んだ結果、植物が貴重なものとなった未来を舞台に、宇宙ステーション内に作った森を守り育てることに執念を燃やす科学者の姿を描く。エコロジーというテーマが先進的であった。
宇宙ステーションという世界観に加え、物語の半分近くが、主人公の科学者と二体のロボットだけで展開する密室劇という点に、監督のかかわった『2001年』からの影響が見られる。SFXも『2001年』譲りのレトロフューチャー感に溢れて、魅力的である。しかし、物語に花を添えるロボットは操演ではなく、人が中に入った着ぐるみで表現。当時としても、リッチとは言えない手法であるが、あえて安っぽい着ぐるにしたことで、かえってラストシーンが印象深くなった。
SF映画としてはたいへんに地味な内容ではあるが、観終わった後の感覚は、良質のSF小説の読後感に近いものがある。主人公の植物学者は、自分で作った箱庭を守ることしか頭になく、ついには狂気にとらわれ、自分の目的を邪魔する仲間を次々と殺害していく。妄信的なエコロジーがファナティックな宗教性を帯びることを当時にして既に看過し、痛烈に皮肉ったことは画期的である。それにひきかえ、昨今のエコロジーを標榜する作品が、結局のところ、「自然を守ろう」といったスローガンを無批判に唱えるだけに後退していることは、誠に遺憾である。
主人公の狂気を描き切った後は、意外や、物語は次第に感傷的になり、果然、目が離せなくなってくる。すっかり仲間を片づけた主人公は、ステーションで独りきり。つまりは、この宇宙の深淵を一人漂うという、絶対的な孤独となったのである。この孤独を描けたでけでも、この作品は価値があるだろう。そして、一人になってはじめて、仲間のことを振り返り、自分のした事を後悔した主人公は、最後に驚くべき決断を実行に移す。SF映画史上、最高にせつないラストシーンは必見。



<<ストーリー>>

環境破壊により地球から緑が消えた未来。植物は、三つの宇宙ステーションの中で、わずかに栽培されているだけであった。
ステーションのひとつ“バレーフォージ”のドームで植物の世話をしている植物学者ローウェルは、ステーションで働く他の四人の乗組員の間では変人扱いだった。ローウェルは、植物がかけがえのないものであると頑なに信じていたが、やがて、植物保護のプロジェクトは切り捨てられ、ドームの破棄の命令が下された。
植物の繁茂するドームが、ひとつまたひとつと、乗組員たちの手によって爆破される中、ローウェルは自分のドームだけは守ろうと抵抗を続けた。ある日、彼は、ドームに爆弾を設置しに来た乗組員の一人を、もみ合いの末に絞め殺してしまった。取り返しのつかないことをして動転したローウェルは、我を失ったまま、残りの三人の乗組員を別のドームに閉じ込め、そのまま爆破してしまうのだった。
こうして邪魔者が消えたものの、他の船に見つかれば、ドームが破棄されるのは時間の問題だった。ローウェルは、ステーションの故障を偽って、バレーフォージを故意に遭難させた。だが、いざ一人になってみると、孤独が身にしみてくるのだった。彼の脳裏には、死んでいった乗組員たちの姿が焼きついて、消えることがなかった……。