人工衛星の修理の任務のため、四十年前に叶えられなかった
宇宙飛行へ挑む四人の老パイロットの姿を描く。
スペース カウボーイ
SPACE COWBOYS
2000
アメリカ
130分
カラー
<<解説>>
クリント・イーストウッドが監督・製作・主演を兼ねた作品。宇宙飛行に挑む四人の老パイロット人の姿を描くアドベンチャーで、イーストウッドと同年代の名優トミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェームズ・ガーナーが共演。
1950年代、空軍で進められていた宇宙飛行計画は、NASAの設立により中止される。四人のテスト・パイロットたちは宇宙飛行の夢破れ、涙を飲むことに。それから四十年後、ロシアの通信衛星に搭載され旧型の装置に故障が発生し、地球に落下の危機が。装置の設計者にして修理法を知る唯一の人物は、あの中止された宇宙飛行計画はテスト・パイロットの一人。かくして、衛星を修理をすめため、かつてのチームが再招集されることに。既に老人に達しているパイロットたちは、その老体に鞭打ちながら、四十年振りの夢に再チャレンジする。
1971年の『恐怖のメロディ』での初監督以来、ほぼ毎年、監督作品を世に送り出しているイーストウッド。その制作意欲は八十歳を過ぎても衰えを知らず、精力的に活動している。近年の作風は、社会派の重厚なドラマやサスペンスが多く、2000年当時の時点でもそのような傾向の作品が中心だったが、そんな中で本作はSF風のアドベンチャーであり、やや異色の作品となっている。また、イーストウッド作品というくくりでなくても、後半のスペースシャトルと宇宙空間の描写は当時の映画としては出色の出来である。無重力状態の表現、繊細なCGの多用など、かなり手の込んだ作りになっている。
1998年には『アルマゲドン』がヒットし、その作品とシチュエーションが似ていることから、老人版「アルマゲドン」などと、揶揄されたりもしていたが、先行作品の中で雰囲気が近いものと言うと、やはり劇中の中でも触れられている『ライトスタッフ』(1983年)だろうか。リアリティを追及した訓練風景のディテールに『ライトスタッフ』へのオマージュが感じられる。しかしながら、老人を宇宙飛行士にするという安直な設定はまだしも、たった一ヶ月の訓練で宇宙飛行士になるという展開は荒唐無稽で、老人版「アルマゲドン」という評価もあながち間違いではないのかもしれない。
シチュエーションやプロットには無理や予定調和が目立つものの、キャラクターの描き方は大味であるが非常に面白い。キャスティングに合わせてキャラクター設定やコミカルなやり取りには、同窓会的な楽しさがある。頑固者のイーストウッド、色ボケのサザーランドはパブリックイメージそのままだし、ドラマを牽引するジョーンズとのライバル関係と友情も胸が熱くなる。
そんな年寄りのキャラクターと彼らの奮闘ぶりが見どころであるが、だからと言って、この作品テーマが「年寄だって頑張っているんだぞ」といったありきたりなものではない。老人の当事者が撮った本作のテーマはもっと切実で、もっと前向きである。それは「人生の最後に果たしてどんな夢を見るのか」という問いなのではないだろうか。その問いに対する答えを壮大なイメージで具現化したのが、シナトラの「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」が流れるラスト・カット。本作の着想はここからで、これを見せるために脚本のすべてが逆算されたのではないかと想像させるほどの素晴らしいカットであり、転じて、生涯映画人であり続けたいというイーストウッドの決意表明とも捉えられるカットでもある。
<<ストーリー>>
1958年。アメリカ空軍のパイロットのフランクとホーキンス(ホーク)、オペレーターのタンク、技師のジェリーの四人は、大気圏外飛行を目指す“ダイダロス計画”のメンバー。ある日、フランクとホークは、高度3400フィートという新記録を達成した。その時、ホークは月を指し、「いつかあそこに行く」と宣言した。その直後にエンジントラブルが発生し、テスト機“X2”は二台とも墜落。フランクとホークは緊急脱出で無事に地上へ帰還するが、上官のガーソン少佐から、“ダイダロス計画”は大統領命令により今日限りで終了することを告げられた。計画は、アメリカ航空宇宙局(NASA)に引き継がれることになったのだ。新たなテストパイロットして選ばれたのは、チンパンジーのメリーアン嬢だった。
現在。ロシア通信衛星“アイコン”が軌道から外れ、地球に落下しつつあることが発覚。誘導装置が故障しているため、地上からの軌道修正は不可能な状態だった。関係者に向けて会見を開いた責任氏のサラ・ホランドは、“アイコン”は重力で加速しているため、このままでは三、四十日で大気圏に突入すると説明。また、“アイコン”は古い衛星のため、燃え尽きるか海に落ちるはずだが、ロシア側要請により修理を行うことを発表した。“アイコン”がロシアにとって“唯一”の通信衛星であることがその理由だったが、実際は、ロシアに恩を売れば政治的に有利になると言う上司のガーソンからの命令だった。
NASAの調査により、“アイコン”に搭載されている誘導装置がおそろしく旧式であることが分かった。それは、アメリカ初の宇宙ステーション“スカイラブ”で使用されたものと同じ装置であり、冷戦時代にソ連に渡ったものらしい。コンピュータ時代の技術者は皆お手上げだった。サラは誘導装置の設計者を探し出そうと考えるが、その必要はなかった。ガーソンから、設計者がフランク・コービン博士であることを教えられたからだ。
フランクは、ガーソンの言葉によれば「協調性に欠けるために軍を追放され」たため、今は現役を退いて妻と二人で暮らしていた。年もとり、既に四年前から老人の仲間入りを果していた。フランクは、自宅を訪ねてきたサラとその部下のイーサンを迎え入れ、この緊急事態についての説明を聞いていたが、彼女らの上司がガーソンだと知った途端に激怒し、二人を追い払ってしまった。フランクは、自分たちの手柄をチンパンジーに渡してしまったことで、未だにガーソンを恨んでいたのだった。だが、その晩、共に苦汁を舐めた“ダイダロス計画”のチームメイトのことに思いを馳せるうちに、あるプランを思いついた。
翌日、フランクはNASAにサラを訪ね、「修理する方法がある」と話し、ガーソンのオフィスに通させた。数年振の再会だったが、フランクはあいさつを省いて驚くべきプランを提案した。それは、チーム・ダイダロス、つまり、自分を含む老人四人を宇宙に送ることであった。フランクはガーソンに「修理法には熟練が必要で伝授するには時間がない」と説明。ガーソンは呆れてフランクを追い払うが、思い直して彼を引き留めた。ただ、宇宙飛行士のテストに合格すること、一緒にロケットに乗る飛行士にも修理法を伝授すること条件とした。
そうと決まるとフランクは、かつてのチーム・ダイダロスの仲間たちを訪ね回り、計画復活への誘いをかけた。タイクは牧師になっていた。信徒も孫もいることを理由に渋るタイクだったが、神からの許しが出たと言い直し、参加を表明。ジェリーは遊園地でジェットコースターのテスターの仕事をしていた。老眼が心配だがそれ以外は問題ないと、ジェリーも快諾。ホークは小型機の曲芸飛行のパイロットをしていた。だが、彼とフランクは計画中止以来、絶交状態だった。ホークはフランクの話を「バカな考え」と一蹴。断られたかと思いきや、何も言わずに他の三人と合流した。
新しい“ダイダロス計画”が正式に発表された。通常は半年かけておこなう飛行士の準備をたった三十日でやるという大胆な計画だった。しかも、飛行士は老人四人である。NASAに協力を要請したロシアのヴォストフ将軍は、この無謀な計画を心配していた。だが、ガーソンは、フランクたちを宇宙に行かせるつもはなかく、健診で落ちると考えていた。宇宙行きは、フランクから修理法を引き出すエサにすぎなかったのだ。フランクと旧知であるベテラン飛行指揮官ジーンは計画に猛反発。フランクに劣ず頑固な老人である彼は、飛行を中心する権限は自分にあると言って、フランクを脅すのだった。
フランクたち四人は、互いに励ましたり、インチキをしたりしながら、健康診断と体力検査をクリア。だが、訓練前に体力を使い果たしてしまい、早くも弱音が聴こえはじめた。互いにライバル意識の強いフランクとホーキンスは、遠心シミュレーター装置の訓練でどちらが気絶するかのチキンレースを行い、ジーンの叱責を受けるも、その夜の酒場で、「先に気絶したのはお前だ」と言い合い、取っ組み合いの喧嘩に。また、チーム・ダイダロスに同行予定の二人の若い飛行士イーサンとロジャーと一緒に行ったスペース・シャトルのシミュレーターでも負けん気を起こし、コンピュータが故障したという設定でも、自力で不時着させることが出来ることを見せつけ、現役をアピールするのだった。
ホークは妻を亡くして独り身だった。サラは寂しげなホークと積極的に話をするようになり、次第に彼ととの仲が親密になっていった。ある朝、出勤したサラは、同僚から渡された新聞に見出しに驚く。そこには、「熟年ヒコーキ野郎」の文字が躍っていた。どこから嗅ぎつけられたのか、この最高機密の作戦がマスコミにすっぱ抜かれたのだ。サラはまんざらでもなかったが、ガーソンは騒ぎが大きくなることが面白くなかった。チーム・ダイダロスはたちまち時の人となり、テレビのトークショーにまでひっぱり出されることに。
フランクたちは、具体的なミッションの訓練にまでステージを進めていたが、まだ、イーサンには修理法を詳しく教えてなかった。もちろん、自分で修理するつもりだからである。イーサンは修理法を教えないフランクに抗議するとともに、「あんたは無知だな」と悪態をついた。その言葉で、フランクはガーソンが自分たちを切り捨ようとしてることに気付き、彼のオフィスに怒鳴り込んだ。ガーソンは、騙されたことを憤るフランクを遮ると、「君たちは失格だ。宇宙には行けない」言いながら、一枚の診断書を差し出した。それは、ホークに膵臓のガンが発見されたことを示していた。余命は八ヶ月だという。……。