釣りバカコンビが伊豆で出会った女性は、スーさんの隠し子?
ハマちゃんは親子対面の後押しを買って出るが……。

釣りバカ日誌3

1990  日本

96分  カラー



<<解説>>

静岡・伊豆を舞台にしたシリーズの三作目。劇中に登場する星ヶ浦や上伊豆町は架空の地名。実際のロケ地は西伊豆町。監督の栗山富夫、主演の西田敏行と三國連太郎をはじめて、スタッフとキャストは全二作から、音楽以外はほぼ変わらず。ゲストスターは五月みどりで、スーさんのマドンナ的な役柄を務める。前作とストーリーのつながりはない。
みち子さんとの間になかなか子供ができないことを悩んでいるハマちゃん。そんな折り、釣りに出かけた伊豆で偶然、スーさんと訳ありの女性と出会う。女性の母親がスーさんと恋仲だったのだ。伊豆の女性がスーさんの娘だと考えたハマちゃんが、二人の仲を取り持とうとしたことから、予想もつかない騒動が巻き起こる。
スーさんの寅さん的立ち位置は全二作と変わらないが、マドンナとの恋愛的感情はなくなり(過去の出来事として語られるにとどまる)、擬似親子の愛情で結ばれる。スーさんの年齢や社会的立場を考えれば、この方がリアリティがあり、本作以降、スーさんとゲストとの関係は親子や後見人といった関係で定着していく。
前作は、スーさんの後継者問題の悩みが物語のとっかかりになっていたが、本作ではハマちゃんの子宝問題という悩みが中心で、親子が本作を貫くテーマになっている。都合三回の「合体」(おそらくシリーズ最多)の結果、めでたく懐妊となり、出産については次回作で語られることになる。
「釣りバカ」シリーズの世界観とキャラクターは一作目にして完成されていたが、軌道に乗ったの本作からではないだろうか。全力で挑んだ一作目。続編のプレッシャー。三作目にして、前二作の硬さが抜けて、脚本も芝居もコメディとしてノってきている。ハマちゃんとスーさんの軽妙な掛け合いや掴み合いのケンカに、ようやくお馴染みの二人の姿が見れたという感じだし、お約束であるハマちゃんの処罰を巡る社長室でのドタバタも本当に笑える。



<<ストーリー>>

大手建設会社・鈴木建設の営業三課に籍を置く会社員・浜崎伝助は、大の釣り好きで大の愛妻家。ある日、伝助の同僚に子供が生まれ、オフィスは祝福ムードになるが、伝助だけは浮かない顔。というのも、伝助も子供がほしいのだが、なかなかできないのだ。伝助はそんな悩みを、釣りの弟子である社長・鈴木一之助に打ち明けた。
一之助は自分の経験から「子供も持つのも苦労の種になるのだから良し悪しだ」と伝助に教えた。だが、伝助は、「むしろそんな苦労をしてみたいし、親泣かせの子でもいいから、この手に抱いてみたい」などと思い詰めていた。子供が出来ない原因は、どうも伝助の方にあるらしい。医者の話によれば、精子の量が過剰なのだとか。だが、子供が欲しい気持ちが、無意識のうちに「こんにちは赤ちゃん」を歌わせてしまい、妻のみち子を傷つけてしまうのだった。
悩みの憂さを晴らすべく、伝助は一之助を静岡の星ヶ浦への釣りに誘った。一之助にとって星ヶ浦は、甘酸っぱい思い出のある懐かしい場所だった。休日、星ヶ浦にやってきた伝助と一之助は、沖に船で向かことになったが、船頭からもう一人同船させてほしいと頼まれた。伝助は快く受けるが、一方の一之助は同船することになった婦人・雪子を見てはっとした。その顔には、過去に知る女性の面影があったからだ。
その夜の船宿の部屋、一之助は、雪子が母の墓参りで東京から来たこと、雪子の母は戦争中に疎開でこの地に来て、小学校で音楽の先生をしていたことを聞いた。一之助は、伝助がうたた寝をしている隙に、雪子の母の名前を確認すると、実は、自分は終戦直前に兵隊にとられ、しばらくこの地に駐屯したことがあり、そのときに雪子の母と接触したことがあることを打ち明けた。雪子は目の前の人が、母からよく聞かれさていた一之助であることに気付いて驚くのだった。
翌日、一之助は雪子と一緒に、雪子の母の墓参りに行った。それは木製の粗末な墓であったが、雪子の母の遺言により海が一望できる高台に建てられてた。墓地から見渡せる景色は素晴らしいものだったが、雪子の表情は曇っていた。ここにゴルフ場の建設計画があるのだと、雪子は話した。それを聞いた一之助は「近頃の会社はフィロソフィ(哲学)の欠片もない」と憤慨するのだった。
あの時、寝たふりをして一之助と雪子の会話を耳にしていた伝助は、東京へ帰ると、一之助と雪子の母のロマンスを想像しながら、妻・みち子に報告した。一方、一之助は、専務の秋山から上伊豆町のリゾート開発計画の報告を受けている最中、ホテルやマリーナの建設予定地として映し出された岬や海の映像に唖然とした。それはまさに、先日、星ヶ浦で見た景色。町村合併により、上伊豆町の一部が星ヶ浦であることをはじめて知った一之助は狼狽し……。