息子を通り魔に殺された男が被害者と遺族の苦しみを
長い歳月をかけて世間に訴え続ける姿を描く社会派ドラマ。
衝動殺人
息子よ
1979
日本
131分
カラー
<<解説>>
殺人事件の遺族の補償問題を題材にした木下恵介渾身の社会派ドラマ。佐藤秀郎のノンフィクション「衝動殺人」を原作とし、物語は実話をもとにしている。主演は若山富三郎と、これが引退作となった高峰秀子。
通り魔殺人という理不尽な事件で息子を失った男が仇討ちを誓うが、未成年であった犯人の罰は軽いものだった。当時は遺族に対して補償を行うような法律や制度はなく、心神喪失や未成年などの理由で、通常の罪に得ないケースの場合、遺族は泣き寝入りをするしかないのだった。そんな法律に疑問を持った男は、同じ境遇の遺族たちに呼びかけて、遺族への補償の必要性を訴える運動はじめる。彼の不屈の執念は、やがて国をも動かしていく。
劇中でも語られる爆弾テロ事件(三菱重工爆破事件)をかっかけに、犯罪被害者給付金支給法が制定されたのは、本作公開の翌年。非常にタイムリーな作品であり、犯罪被害への補償や救済という、現在進行形の問題をはじめて世に広く知らしめたのではないだろうか。刑法において法で守られるのは加害者のほうであって、被害者のほうではないという不公平は今も変わらない。では、厳罰化して不公平を減せばいいではないかというと、そう簡単なものではない。言わずもがなだが、刑法は被害者の無念晴らすためにあるのではないのだから。本作は、加害者をいかに罰するかという法的な力ではなく、事件に埋もれがちな被害者に光を当てるという社会的な力で、彼らを守ろうという立場に立っている。
深刻な社会派の内容ではあるが、けっして単調で退屈なものではなく、演出の歯切れがよく、娯楽性にも富んでいる。フラッシュバックを多用して見せる映像は迫力があるだけでなく、十年にわたる運動の過酷さとそれを支える執念に説得力を与えている。また、若山富三郎も自ら体を張っていて、駅の階段からの転落シーンは衝撃的。
<<ストーリー>>
昭和四十一年。工場経営者の川瀬には、二十代の息子・武志がいた。武志は工場を熱心に手伝ってくれるよくできた息子で、婚約者もいた。川瀬は、武志が仕事を引き継いでくれるこを期待していた。ところが、ある夜、武志は通りすがりの男に突然、刺し殺されてしまった。
数日後に犯人が逮捕されるが、身勝手な動機を口にするばかりで、反省する様子はなかった。数ヶ月後に判決が下るが、犯人が未成年という理由で罰は軽かった。そればかりか、遺族である川瀬への保証もほとんどなかった。
意気消沈した川瀬は生きる気力を無くしてしまった。だが、新聞記者からの紹介で、自分と同じように娘を殺された中沢と出会ったことで、川瀬の生活が一変した。中沢が殺人事件の被害者の存在を世間に訴える運動をしていることを知った川瀬は、自分もその運動に参加するようになった……。