1910年代のアメリカとメキシコの国境地帯を舞台に
軍からの武器強奪という最後の大仕事に挑むならず者たちの姿を描く西部劇。

ワイルドバンチ

( ワイルドバンチ オリジナル・ディレクターズ・カット )

THE WILD BUNCH

1969  アメリカ

145分  カラー



<<解説>>

1910年代のメキシコ革命を背景に、アメリカとメキシコの国境をまたにかけて繰り広げられるアウトローたちのドラマ。鉄道から銀の強盗に失敗した悪党パイク一味が、かつてのパイクの相棒で今は銀行に雇われているソーントンからの逃避行を描く。ウィリアム・ホールデン主演。名匠サム・ペキンパーの代表作で、鮮烈なバイオレンス描写が世界に衝撃を与えた。これはスローモーションと細かいカットによって、絶え間ない銃撃と死を執拗を描写するもので、「死のバレエ」と称されている。後のアクションシーンの多大な影響を及ぼしている。「死のバレエ」は、冒頭の鉄道管理事務所襲撃と、ラストのキシコ政府軍との決戦の場面で見ることが出来る。劇場公開版はシーンがカットされて137分。オリジナル版は、便宜上『オリジナル・ディレクターズ・カット』と呼ばれている。2016年現在、リメイクが計画されているとの情報がある。
本作は「最後の西部劇」と言われている。確かにスタイルは西部劇であるが、その内容はアメリカン・ニューシネマであり、同年の『明日に向って撃て!』に呼応する。描かれるのは、時代の流れに乗れずに、時代に屈したり、容赦なく切り捨てられる人々の姿。銀行に銀の代わりにねじ止めを掴まされたパイクが言う。「これから頭を使う時代だ。我々の時代はじきに終わる」と。さらに彼は、メキシコの村で見たオートモービルに驚く。「噂では空を飛ぶ機械もあるそうだ」と。銃と馬の時代は終わりを告げて、頭脳とクルマの時代が到来する。メキシコ革命が象徴する政治抗争の時代、第一次世界大戦という機械頼みの近代戦争の時代が幕を開けるのだ。それは、英雄不在を意味し、もう、ジョン・ウェインが演じるようなもガンマンも、ワイアット・ワープのような保安官は現れない。西部劇のスタイルをとりながら、物語はアンチ・西部劇的な展開を見せていく。
現実を直視し、自ら時代から去る決意を固めて、最後のあがきを華々しく演ずるパイク。否、それは劇的ではあってものの、華々しいものではなかった。「滅び美学」「有終の美」という言葉で飾られるが、待ち受けていたのは、無様な最期。しかも、望んでいたものでもなかった。美学があるとするならば、それは逃げ出さなかったことに限るのかもしれない。物語も終わりに近づが、従来の西部劇的活劇ならば描かれていたはずの、パイクとソーントンのライバルの対決もついになく、メキシコ軍との死闘もほとんど皆が敗者という結果。結局、何の決着がつかずに物語は幕を閉じる。ニューシネマに典型的な、不条理かつ現実的なオチであり、スカッとしないモヤモした余韻は、先行きの見えない現代に生きる観客の心にも深く染みるものがある。



<<ストーリー>>

テキサスのペコス鉄道管理事務所に現れた兵隊の一団。鉄道に雇われ警護にあたっていたソーントンは不審に感じ、仲間の賞金稼ぎたちと事務所の向かいの建物の屋上から様子を伺った。ソーントンの睨んだ通り、兵隊の正体は4500ドルの賞金首パイク率いる強盗団だった。彼らの狙いは輸送される銀。銀の詰まった袋を手に入れたパイクは屋上の銃口に気付くと、人質の鉄道員の一人をおとりとして事務所から外に放り出した。それが合図となり、ソーントン側とパイク側との間で激しい銃撃戦が始まった。鉄道員は賞金稼ぎに撃たれ、ちょうど事務所の前を行進中だった信徒の列も巻き添えになった。賞金稼ぎが見張りとして事務所に残っていたパイクの仲間のエーブを射殺したが、他の連中にはまんまと逃げられてしまった。
事務所の前の通りに残されたのは、無辜の市民たちの死体のみ。これは鉄道の責任だと町の有力者たちに責められた鉄道会社の幹部ハリガンは、ソーントンに30日以内にパイクを仕留めるよう命令した。ソーントンは仮釈放中のならず者。パイクはかつて彼の相棒だった。ハリガンはこの仕事に成功すれば無罪放免を約束していたが、今回の仲間は殺ししかしらない無能ばかり。人を道具のように扱い、殺しという汚い仕事をさせるハリガンに、ソーントンは不満をぶつけた。
銃撃で目をやられて足手まといなったバックをパイクが始末したため、残る仲間はダッチ、ライルとテクターのゴーチ兄弟、そして、メキシコ人のエンジェルだけになった。五人は国境を越えてメキシコに入り、エーブの祖父サイクス老人の牧場にやって来た。ここで分け前を配ることになったが、奪った袋に入っていたのは銀ではなくねじ止めだった。
実は、パイクにとって、これが最後の仕事のつもりだった。自分も年だから、大きく稼いだら足を洗いたいと考えていたのだ。アメリカ軍のパーシング将軍の隊が国境に集結していることを知ったパイクは、次は兵隊の給料を狙おうと考えていた。その夜、パイクは、ソーントンが逮捕された日のことを忸怩たる思いで振り返った。保安官に部屋に踏み込まれたあの時、パイクは相棒を見捨てて一人で逃げたのだった。
サイクスを加えた六人の仲間は、牧場から近い村でアグア・ベルデに向かい、ほとぼりが冷めるまで滞在するつもりで出発した。やがて、アグア・ベルデの手前にあるエンジェルの故郷の村に立ち寄った。村は、パンチョ・ビラと戦っている政府軍のマパッチ隊に踏み荒らされた後だった。さらに、エンジェルは、恋人のテレサがマパッチに連れ去られたと知り、驚き嘆いた。
エンジェルの村を後にし、パイクの一行はアグア・ベルデに到着。村は政府軍の兵士たちで賑わい、アメリカ人も自分たちのようなならず者もいなかった。一行はマパッチ将軍の宴会に参加するが、そこでエンジェルはテレサを発見。エンジェルは捕まえてテレサを詰問するが、彼女は「汚い村はまっぴら。あそこにいたら飢え死にする。ここに来て本望」と哀しく笑った。エンジェルは、テレサが将軍の膝に乗り首に腕をからめるのを見て逆上し、いきなり彼女を撃ち殺した。宴会は騒然となり、狙われたと思った将軍は激怒するが、嫉妬で狂った仲間があの女を狙ったのだとパイクが釈明し、その場をとりなしたのだった。将軍と彼を支援するドイツ陸軍のモール中佐は、パイクが兵士でもないのにアメリカ軍の銃を帯びていることを見て、彼を邸での食事に招待された。
将軍は、アメリカ軍から武器を奪う仕事をパイクに密か依頼。政府軍のフエルタ将軍がアメリカと親善を深めようとしていため、マパッチ隊がやるわけにはいかないからだ。報酬は金貨一万ドル。パイクは仕事を受けることにした。エンジェルは敵に手を貸すことになるため、仕事に加わることを渋っていたが、パイクに説得され、奪った武器のうち一箱を譲るという約束で折れた。その頃、ソーントンは、パイクがマパッチと緒にいるという情報をつかんでいた。大量の武器が必要なマパッチのため、パイクが軍の列車を襲うはずだと読んだソーントンは、ハリガンに腕利きを20人を要請した。
パイク一味が軍の列車を襲ったのは給水所だった。まず、タンクに潜んでいたエンジェルが、給水に来た鉄道員に銃を突きつけた。周囲の他の場所に潜んでいた仲間も一人ずつ列車に近づき、機関士や武器を積んだ貨車の見張りの兵士に銃を突きつけていった。こうして、客車の兵士に気付かれないまま、速やかに列車を制圧したパイクは、貨車を客車から切り離させた後、列車を発車させたのだった。客車に居たソーントンは、列車が動いていないにも関わらず、蒸気機関の音が遠ざかっているのを聴いて事態に気付くと、すぐさま馬を出して仲間と貨車を追った……。