ノルマンディー上陸作戦を超える規模で行われたマーケット・ガーデン作戦
の顛末をオールスターキャストで描く戦争アクション。

遠すぎた橋

A BRIDGE TOO FAR

1977  アメリカ/イギリス

175分  カラー



<<解説>>

『史上最大の作戦』の原作者であるコーネリアス・ライアンの「遙かなる橋」の映画化。ノルマンディー上陸の三か月後に行われ、前の作戦を上回る規模で行われたものの完遂に至らなかったドイツ侵攻作戦“マーケット・ガーデン”を描く。リチャード・アッッテンボローの監督三作目。出演は、ダーク・ボガード、ショーン・コネリー、ライアン・オニール、ジーン・ハックマン、エドワード・フォックス、マイケル・ケイン、アンソニー・ホプキンス、ジェームズ・カーンなど、そうそうたるスター。戦闘機や戦車は実機を使用し、撮影も当時戦場であった現地で行われるなどリアリティに拘ったため、製作には当時の映画史上最高の巨費が投じられた。
マーケット・ガーデンは、ドイツ本土へ進撃するための障害となっていたオランダの複数の橋を一斉に確保することが目的の作戦で、複数の空挺部隊が複数の場所で、同時的に素早く行動することが求められる。そのため、物語の序盤は、いくつもの部隊の間で場面がころころと変わっていく。個々の部隊の活動をなぞることに始終するばかりでドラマ性に欠けるため、戦史に詳しい人でない限り、前半は何が起こっているの把握するだけで精一杯になるだろう。それは単に監督の力量不足なのかもしれないが、現場の混乱ぶりが臨場感豊かに伝わってくる。
戦争巨編ということで期待される戦闘シーンは、ドイツ軍に対して始終不調で負けが込んでいるため、ことごとく間が悪い印象を受ける。しかし、空挺部隊のパラシュート大量投下の場面は壮観である。国道を戦車の列が走ったり、民家や教会を占拠して作戦本部や野戦病院にしたりと、普通の戦争映画ではあまり見られない場面が見もの。戦闘に対する移動の場面の割合が多く、進軍の過程はさながらロードムビーを観いてるようである。
作戦がぐだぐだになってくる後半から、面白さは徐々に増してくる。煙幕と神だけを頼りに、ドイツの戦車が待ち受けている対岸へ小さなボートで川を渡ろうとするアメリカ軍のやけくそ。その一方、イギリス軍に町を占拠された地元民は、瓦礫と死体にあふれる町の惨状を見かねて、軍を差し置いてドイツ軍に停戦を申し入れる。戦意をとっくに失った頃、撤退命令が下され、物語は冒頭の勢いに反して静かに幕を閉じる。なんと非生産的な行為であったことかと、観る者を唖然とさせる。
大局的な勝利を確信していた奢りと、手柄を急ぐ焦りが招いた失敗。本作は華々しい武勇を誇る好戦的な作品でも、戦争の欺瞞を戒める反戦的な作品でもない。惨憺たる失敗に向き合った稀有な戦争映画として、観る価値のある作品である。米英がこの失敗に対してどういう思いを持っているのかは分からないが、史上もっとも高くついた失敗を、史上最高の制作費を投じて映画したことに、何かの意義深さが感じられる。釣り合いをとるため、本作と同じ原作者の『史上最大の作戦』と、モントゴメリー元帥のライバル、パットン将軍の『パットン大戦車軍団』も合わせて観るのも一興か。



<<ストーリー>>

連合軍によるノルマンディー上陸作戦成功後の1944年9月。アメリカのパットン将軍の成功に対抗意識を燃やすイギリスのモントゴメリー元帥は、ドイツへの進撃のため、オランダのアルンヘムの橋を空と陸から確保する大胆な作戦を立案。その名もマーケット(空)・ガーデン(陸)作戦。ベルギー国境からアルンヘムまでの100キロの間にある五つの橋を二日間で占拠し、一気に攻め込む計画である。
とにかくスピードが命であるその作戦に、空挺師団の一つを指揮することになったポーランドのソサボフスキー少佐は、不安を覚えた。実際、イギリス軍の偵察によりアルンヘムの近くに第2SS装甲軍団の存在を確認していたが、総司令官を務めるイギリスのブラウニング中将は報告を無視し、マーケット・ガーデンは強行されてしまう。
イギリスのアーカート少将率いる第1空挺部隊が、アルンヘムから12キロ離れた地点に降りた。同師団のフロスト中佐と連絡が取れない、車両が届かない等のアクシデントが、出鼻をくじいた。ガーデン作戦の部隊が到着するまで、時間を稼ぐことが、彼らの使命であったが、予想以上に、ドイツ軍の反撃は厳しかった。
一方、ガーデン作戦のイギリス第30軍団、バンドルール中佐率いる近衛機甲師団は、序盤は順調に侵攻し、スタウト大佐の空挺部隊と合流。ところが、ソン橋がドイツ軍に爆破されたため、進路を絶たれた。その頃、ソサボフスキー少佐の第2次輸送隊は濃霧のため、未だにイギリスから出発できていなかった……。