あらゆる公共機関を攻撃し、全米を混乱に陥れる大規模サイバー・テロに
伝説の“不死身の男”マクレーン刑事が挑む。

ダイハード4.0

DIE HARD 4.0

2007  アメリカ/イギリス

128分  カラー



<<解説>>

ブルース・ウィリスが世界一ついていない刑事を演じた出世作の十二年振りとなる四作目。監督は「アンダーワールド」シリーズのレン・ワイズマン。物語の舞台は、一作目はビル一棟、二作目は空港、三作目はニ。ューヨークと回を追うごとに拡大。本作では、さらに世界が広がり、アメリカ東部全域を我らが主人公マクレーン刑事が駆け巡る。今度の敵は、昨今もっとも我々の身近な犯罪となりつつあるサイバー・テロ。題名の「4.0」もソフトウェアのバージョン番号を意識したものになっている。
敵のボス曰く「旧式の鳩時計」のマクレーンに、彼とは無縁のコンピューターを駆使した犯罪を対峙させるという設定が意欲的である。しかし、敵はハッカーとは言っても、匿名の頭脳犯ではなく、街中で銃を撃ちまくるような武闘派テロ集団であるので、マクレーンの戦い方はいつもと大差はなし。また、テロの目的が結局は金で政治的な背景はいっさいなしという、シリーズの伝統が守られていて、良く言えば健康的、悪く言えば何も考える必要なし。最新VFXの駆使によって派手さが増したアクションは、自動車を弾丸代わりに飛ばしてヘリを撃ち落としたり、低空飛行する戦闘機とタイマンを張って勝ってしまったりと、破天荒があまって喜劇的。とにかく痛快な娯楽活劇に仕上がっている。
現実では地味なコンピュータ犯罪を、本作はどのように伝えたか。大方の予想通り、交通の混乱やテレビ・ジャックなど、視覚的に伝わりやい事件が採用されている。犯行グループが連絡にメールを使わず、音声通話やテレビ電話に頼っているのもご愛嬌。ハッカー物の走りである95年の『サイバーネット』と、演出的には進歩がない。しかし、そこに描かれている事態はきわめて深刻である。実はテロ一味は、工作の都合で接した人間以外のアメリカ国民に対して、何一つ具体的な攻撃を加えていない。国民は勝手にパニックに陥り、自滅していくのである。特にホワイトハウス爆破の下りは、映像をドキュメントだと信じやすい人間への辛辣な批判。現実のITの進歩が早すぎるためか、映像化が難しいためか、このような危機を描いたフィクションは意外と少なく、貴重である。
アクションとストーリーを見たとところで持ち上がってくるのは、はたしてこれは「ダイ・ハード」なのかという問い。十二年のブランクにしては、ちゃんと「ダイ・ハード」しているのでご安心を。物語の三分の一を過ぎたあたりで、マクレーンが早くも血まみれで、片足を引きずっているのは期待通り。年齢を重ね、俳優としての深みが出てきたブルース・ウィリス演じるマクレーンは、悲惨さと哀愁がいっそう増したようだ。そんな彼をして、アンチ・ヒーロー論をぶち上げさせるところに、製作者の「ダイ・ハード」愛が感じられる。全編にわたって行動に共にする相棒は、マスメディアの陰謀を信じている典型的なネット・オタクで、その上、病弱という若者。この取り合わせは、単なるミスマッチを狙っただけでなく、頑固親父と何を考えているか分からない息子という擬似親子関係を作り、シリーズのサイド・ストーリーであるマクレーンの家庭問題に切り込んでいく。
2013年の五作目『ダイ・ハード ラスト・デイ』に続く。



<<ストーリー>>

ワシントンD.C.のFBIサイバー保安課で、コンピュータシステムが何者かに不正アクセスされる事件が発生。FBI副局長のボウマンは、犯人を突き止めるために、千人あまりもいるハッカーのブラックリストを洗うよう部下に指示。だが、折しも独立記念日の休暇中でFBIのスタッフ足りなかったため、警察に広域捜査として応援を頼むことに。
過去三度にわたり、テロリストと激しい戦いを繰り広げてきたニューヨーク市警のベテラン刑事ジョン・マクレーンは、現在、妻と離婚して、二人の子供たちとも別居中。その日の深夜、マクレーンは、娘のルーシーと話がしたくて、二ジャージー州ラトガーズに暮らす彼女を付け回していたが、上司のスクラビーノから無線を通じて、カムデンに住むハッカーをフーバー・ビル(FBI本部)まで連行するよう命じられた。マクレーンは、そのハッカー、マシュー・ファレルのアパートを訪ねるが、彼が同行に応じたその瞬間、何者かから激しい銃撃を受けた。
命からがら銃撃から逃げおうせたマクレーンは、そのままファレルを車でワシントンへ護送した。FBI保安課のシステム侵入の首謀者トーマス・ガブリエルは、仲間で恋人のマイから、ファレル暗殺の失敗の報告を受けた。翌朝、ワシントンに着いたマクレーンとファレルは、交差点に侵入してきた車と事故を起こした。幸い無傷で済んだマクレーンが車から出ると、信号機はすべて青になっていて、道往く車は大混乱。いたるところで交通事故が発生していた。ガブリエルが手下のハッカーに命じて、今度は交通管制センターのシステムに侵入したのだった。
サイバー保安課で対応に追われていたボウマンのもとに、公共交通機関のシステムの故障や停止の報告が次々と入ってきた。ボウマンが国家に向けた攻撃を確信ししたとき、局内に炭疽菌の警報が響き渡った。それもガブリエル一味の仕業であった。警報が作動したのは、FBIだけでなく、ワシントンのあらゆる行政機関であり、それらすべての職員は現場を離れて、屋外へ避難することを余儀なくされた。さらに、ガブリエルは、ウォール街の取引所のシステムに侵入し、金融機関を混乱に陥れた。ボウマンはトレーラーにテロ対策本部を設け、その指揮をとることに。
マクレーンはファレルを引き渡すため、ボウマンを訪ねた。テロ対策本部の壁には、最近殺された七名のハッカーの写真が貼られていた。それらは皆、ファレルのライバルたちだった。その時、テレビがジャックされ、歴代大統領の映像のつぎはぎで作成された犯行声明が放送された。それを見たファレルは、ハッカーの間でささやかれる三段階の組織的攻撃“ファイヤーセール”を思いだした。それによれば、第一段階では交通の遮断を、第二段階では金融と通信の遮断を、第三段階では水道・電気・原子力といった公共設備の遮断が行われるはずである。
ボウマンの計らいで、ファレルは取り調べが行われる国土安全保障省局まで護送されることに。FBIの無線を傍受したガブリエル一味は、ファレルの居場所と同行しているマクレーンの存在を知った。ファレルは、変動型暗号システムを開発した企業を名乗る女から、セキュリティのテストと称して音号の解読に協力したことをマクレーンを打ち明けた。ガブリエル一味は、テロとは知らずに協力したハッカーたちを抹殺していたのだ。ファレルは、車を誘導するFBIの無線の声が、セキュリティ企業を名乗ったマイの声であるこに気付いた。マクレーンはその無線を通じて、ガブリエルに宣戦布告した。
マクレーンの挑発に乗ったガブリエルは、ファレルを追跡していたヘリから護送車を銃撃された。トンネルに逃げ込んだマクレーンとファレルは、ガブリエル一味の信号操作に誘導されて両方向からトンネルに侵入してきた車の多重衝突事故に巻き込まれることに。マクレーンとファレルの死を確信したガブリエルは、“ファイヤーセール”を第三段階へすすめるべく、仲間のエマソンをメリーランド州ウッドローンの社会保障局へ向かわせた。エマソンは、社会保障局の職員を射殺しながら、コンピュータ室に侵入。メイン・サーバにアクセスし、データのダウンロードを開始した。
トンネルの事故から辛くも脱出したマクレーンとファレルだったが、国土安全保障省局に辿り着くことが出来なかった。近所の警察に助けを求めるも、署内は問い合わせに殺到する市民でごった返して、応援は不可能だった。マクレーンがボウマンに電話で状況を報告していたとき、再びテレビがジャックされた。映し出されたのはホワイトハウスの映像。次の瞬間、ホワイトハウスは木端微塵に爆破された……。