野心と興味本位で、自らを被験者にした臨死実験に行った医学生たち。
実験は成功するが、幻影に襲われるという副作用が現れはじめる。

フラットライナーズ

FLATLINERS

1990  アメリカ

115分  カラー



<<解説>>

臨死体験を題材にしたサスペンス・スリラー。出演は、キーファー・サザーランド、ジュリア・ロバーツ、ケヴィン・ベーコン、ウィリアム・ボールドウィン、オリヴァー・プラットという、今にしてみれば超豪華な顔ぶれ。監督はジョエル・シュマッカー。主人公の5人の医学生の描き方は、出世作『セント・エルモス・ファイアー』の青春群像劇を彷彿とさせる。
死後の世界に興味を持った5人の医学生が、自らを一時的に脳死状態にすることで、臨死を体験する実験に挑むという、アブない話である。実験の成功に興奮した学生たちが、歯止めが利かなくなって実験の危険度をエスカレートさせていく展開は、シリアスな医療ドラマとして見ても、かなり恐ろしい。しかし、中盤からは、超自然現象が巻き起こるスリラーへと変化。このまま怪談じみた話で終わるかと思いきや、人生の清算や贖罪をテーマとしてた感動的なドラマへと二段階右折する。
アメリカ映画であるから生死観はキリスト教のイメージに寄っているが、業という概念はどの宗教・思想でも共通するものであろう。医学生たちの見る幻影は、胸に手を当ててみれば、誰にでも心当たりがあるのではないだろうか。要は、悔いの残らない人生の在り方を、死の方向から示した寓話であり、たいへん身につまされる作品となっている。



<<ストーリー>>

生と死の狭間から戻った人々によって、様々な臨死体験が語られていた。だが、死の向こうに何が存在するのかを解き明かすことは、哲学も宗教も未だなしえていなかった。野心家の医学生ネルソンは、自ら一時的に死ぬこで死後の世界の存在を確認する“臨死実験”を計画。ネルソンは、友人のジョー、ステックル、レイチェルを実験に誘うが、最も頼りにしているラブレシオには断れてしまった。ラブレシオは無神論者だった。
その夜、ネルソンたちは、補修工事中で誰も近づかない学内の教会に集合し、医療機器と器具の準備を始めた。実験の手順はこうである――冷凍毛布で被験者の体温を下げ30度になったところで電気ショックで心肺を停止。脳波が平坦、つまり脳死状態になってから30秒経過したところで、体温を33.8度まで上げる。そして、1分経過後に再び電気ショックで蘇生させる――だが、いざ実験開始となると、ジョーとステックルは、発覚した場合の処分を恐れて二の足を踏んでしまうのだった。そこへ、実験に参加しないと思われていたラブレシオが駆けつけた。ラブレシオとレイチェルによって実験は続行され、ネルソンを電気ショックで脳死状態になった。
1分後、ネルソンはラブレシオの懸命な処置によって蘇生した。実験は成功し、ネルソンは死後の世界を見たというが、それを言葉で詳しく説明することはなかった。レイチェルは次の実験の被験者になることを希望したが、同じく被験者に立候補してきたジョーと張り合いになり、結局、1分30秒の死に耐えること宣言したジョーに譲ることになった。
ジョーを被験者とした2回目の実験では、蘇生に手間取りネルソンたちを焦らせるが、ジョーは無事に帰還。ジョーも死後の世界を見てきたというが、ネルソンと同様、それを言葉で説明することはなかった。ラブレシオは、ネルソンもジョーも見たいものを見ただけだと断定。そして、危険な実験をこれ以上続けることに反対した。それでも、レイチェルが3回目の被験者になることを強く希望してきた。ラブレシオはレイチェルを止めるために、あえて被験者に立候補。死の時間を競り合った結果、2分20秒を宣言したラブレシオが被験者の権利を得たのだった。
3回目の実験はハロウィンの夜だった。教会に向かっていたネルソンの目の前に、当時いじめていた少年ビリーが、あの頃のままの姿で現れた。ビリーはネルソンに襲い掛かってきた。傷だらけの顔をして教会に現れたネルソンはあきからに様子がおかしかった。彼はラブレシオの実験中、独断で彼の死の時間を2分30秒に延ばした。そのためか、ラブレシオは電気ショックに反応を見せず、一同は焦った。その最中、ジョーは脳波のモニターに女性が映し出されているのを見て取り乱した。それは、ジョーが婚約者に秘密で他の女性との行為を隠し撮りしたビデオだった。
3分50秒後、ラブレシオはようやく帰還した。今回の実験はこれまでになく危険だったが、ネルソンは次の被験者は4分、いや、5分は死んでしかるべきだと考えていた。そのため、次の被験者であるレイチェルが希望した4分25秒にはネルソンは不満だったが、ネルソン以外の皆がレイチェルを支持。気分を害したネルソンは、自分の意向に背くラブレシオたちの反乱行為を激しく指弾したのだった。
レイチェルは、自分が実験を熱望していたのは、近い身内を亡くしているためだと、ラブレシオだけに打ち明けた。ラブレシオも実験で死後の世界を見たことを告白した。その世界の向こうに、自分を包んでくれるあたたかい何を感じていたラブレシオは、だからこそ、レイチェルには実験をやってほしくないと考えていた。
ラブレシオは4回目の実験に向かう電車の中で、子供の頃にいじめていた少女ウイニーと遭遇。あの頃と同じ子供の姿のままのウイニーは、ラブレシオのことを激しく罵倒した。ラブレシオが教会に着くともう実験は始まっていた。ラブレシオはすぐに実験を中止してレイチェルを蘇生させるよう叫んだ。電源のヒューズが飛び、電気ショックが使えなくなるトラブルに見舞われるが、ラブレシオの人工呼吸によって、5分後にレイチェルは息を吹き返したのだった。
ラブレシオは電車で幻影のことを皆に告白した。その告白に後押しされるように、ジョーは、隠し撮りした女性の生霊が現れていることを打ち明けた。そして、ネルソンも、昔いじめていた子供が時々現れては、自分を激しく殴ることを。それは妄想なんかではなかった。現に暴力をふるわれているのだ。しかし、医者であり科学者であるネルソンは、常識を超えた副作用を告げるわけにはいかなかった。その頃、レイチェルは鏡の中に自殺した父親の姿を目撃していた……。