真冬のダムを人質をとって占拠したテロリストたちに、
たった一人で戦いを挑む運転員の死闘を描いたサスペンス・アクション。
ホワイトアウト
WHITEOUT
2000
日本
129分
カラー
<<解説>>
真冬の雪に閉ざされた日本最大のダムを舞台に、職員を人質って立て籠もったテロリスト・グループに対し、一人のダムの運転員が果敢に挑んでいくという本格サスペンスもの。ベストセラーとなった真保裕一原作の小説を、織田裕二の主演で映画化。共演には、ヒロイン役の松嶋菜々子、テロリストのリーダー役の佐藤浩市。監督はテレビ・ドラマ畑の若松節朗で、これが初監督作となった。
銃、スモービル、ヘリコプターを使った派手でシリアスなアクションシーンの見せ場が豊富に用意されているのが、日本映画としては画期的で、『クリフハンガー』や『ダイハード』を彷彿とさせるものになっている。また、孤立奮闘する主人公の表情だけでなく、それぞれに思いを抱えるテロリストの面々や、救出の希望を持ち続ける人質とその逆に主人公を憎むヒロイン、前代未聞の事件に指揮系統が麻痺する警察組織などを多角的に見せ、二転三転するストーリーを途中ダれることなく一気に描き切っている。
犯罪組織とはいえ、テロリストがあれほどの銃を日本に持ち込み、撃ちまくっていることにリアリティが感じられなかったり、佐藤浩市扮するビザールな犯人像が狙いすぎて面映ゆかったりと、ハリウッドの真似事をしようとして失敗しているという批判も多い作品だが、アクション面で同じ土俵に上がろうとしたことで、かえって日本とハリウッドのエモーショナル面の違いが浮き彫りになっているのが興味深い。
それはまず、主人公がテロリストへ挑む動機が、犯人への怒りや正義感からではなく、死んだ友人に恥じたくないという矜持や、ダムを守るのが仕事だからというサラリーマン的義務感ということにはじまる。そして、いざテロリストと戦ってみると、相手を殺めたことに動揺する我らが主人公。そんな主人公に標準的な日本の観客が期待するのは、一人でも多くの悪人を懲らしめことではなく、なるべく人を傷つけないで人質を救出することではないだろうか。
時には超人的なタフさも見せるが、あくまで標準的日本人である主人公は、一人でテロリストを一網打尽にするにはあまりに非力である。もし、織田裕二がマクレーン刑事ばりに軽いノリで悪人をやっつけるような映画だったとしたら、それこそ興ざめであり、より多くの顰蹙を買っていたであろう。内容がハリウッド風エンターテインメントであっても、日本を舞台にし、日本人が主人公である限りは、日本人に向けたアレンジが必須であるという当たり前のことを、本作は改めて明らかにしてみせているようである。
<<ストーリー>>
日本一の貯水量を誇り、近隣地域の発電を担う新潟県奥遠和ダム。ある冬の雪の日、ダムの運転員の富樫は、同僚で親友の吉岡と一緒に、ダムの近くのスキー場に居た遭難者の救助に向かった。吹雪いてきたため、自分のコンパスを富樫に渡すと、先に一人で救援を呼びに行かせた。だが、富樫は吹雪に巻かれて視界が真っ白になるホワイトアウト現象に見舞われて立ち往生してしまい、救援を呼ぶのが遅れた結果、遭難者を庇った吉岡が死んだ。富樫の手に残されたコンパスは、結婚を間近に控えた吉岡の婚約者の千晶から送られたものだった。
吉岡の死の悲しみ暮れていた千晶は、事故からしばらくしてから奥遠和を訪ねる決心をした。千晶を駅で迎えた吉岡の上司・岩崎は、富樫から渡したいものがあることを伝えた。季節はまだ冬の盛りで、雪深い奥遠和はスキー場も閉鎖していた。職員以外はダムに近づくことはではなかったが、職員がスキーロッジへ登ってくる人影を見つけた。また、ダムの入り口となるトンネルでは、取材のアポの心当たりのないテレビ局の車両がやってきていた。
トンネル内で乗り入れが禁止されている一般車を発見した岩崎は、警告すべく車に近づいた。呼びかけに応え、運転席のパワーウインドウが下がった次の瞬間、銃声が木霊し、岩崎が吹っ飛ばされた。一方、スキーロッジに様子を見に行った富樫と同僚の村瀬も、そこにいた男たちから突然の銃撃を受けた。車中に身を隠していた千晶は、撮影クルーに化けていたテロリストたちに連行され、発電所の制御室に職員と一緒に人質に取られた。車椅子の男・宇津木の指示で、部下の笠原が発電所のコンピュータが操作し、無線による遠方制御が遮断された。こうして、宇津木は周辺の九つのダムを掌握したのだった。
新潟県長見署。署長の奥田は、“おかしな”無線が入ったとの報告を受けた。無線の声は奥遠和のダムを占拠したことを宣告し、その証拠に発電を止めて、地域一帯に停電を発生させた。その頃、村瀬を撃ち殺されて、ロッジ内に逃げ込んでいた富樫は、ガスボンベを使って、追ってきた宇津木の部下・皆川を爆死させた。人質の職員たちは、監視カメラに富樫の姿を見つけ、事態の好転への希望を抱いた。だが、千晶は、吉岡を見殺しにした富樫を信用せず、彼はこのまま逃げるはずだ考えていた。富樫はトンネルの中で岩崎の遺体を見つけた。そのトンネルは途中から爆破によって塞がっていた。これにより、唯一通行可能だった車道が塞がれることになり、陸路で救助を求めることは不可能となった。また、携帯電話も圏外だった。
発電が再開され、長見署の電気が回復した。次の無線連絡で犯人は、24時間以内に50億を用意するよう要求し、その要求がのまれなかった場合は、人質を殺してダムを爆破すると告げた。長見署に県警がやってきて、対策本部が設置された。奥遠和へ向かう手だてが検討されたが、この吹雪では自衛隊のヘリも出動できな状態だった。奥遠和はまさに陸の孤島ならぬ、雪に守られた要塞と化していた。だが、果たして犯人はどのようにして奥遠和から脱出するつもりなのだろうか? 奥田の代わりに指揮を執りはじめた県警は、犯人の要求が単なる脅しだと捉えていた。だが、奥田は事態を深刻に捉えていた。ダムの水がいっせいに放流されたとしたら、下流の町はひとたまりもないことを彼を分かっていた。奥田の予感は的中し、奥遠和ダムの放流が確認された。
鍵を破壊してダム内に入った富樫は、警戒にあたっていた宇津木の部下・金子を発見すると、携帯電話のアラームで注意をひき、油断したところに飛びかかった。富樫ともみ合ったまま階段を滑り落ちた金子は頭を打って死亡した。放流が止まった。それがスキーロッジで反撃してきた運転員の仕業であることに鋭く気付いた宇津木は、大量の発煙筒でいぶり出しにすることを指示した。富樫は下階へ追いやられたものの、発電機室にあった緊急用のボンベとマスクで急場をしのいだ。
宇津木の部下の戸塚、貴嶋、山崎の三人が富樫の排除に降りてきた。富樫は金子から手に入れた銃を慣れない手つきで乱射。山崎を討ちとった富樫は、内線電話で制御室にいるテロリストに呼びかけ、「このダムは絶対にお前らの好きにはさせない」と挑発。山崎が殺されたことを知った宇津木は、報復として運転長の浜中を射殺した。形勢の絶対的な悪さを思い知らされた富樫は、さらに出口が雪が深くて塞がれていることを知り、絶望した。今まさに彼は袋の鼠だった。
捜査の指揮権が県警から東京の政府対策本部へ移り、奥田はますます蚊帳の外へ追いやられた。その時、ダムの発電が再び止まった。それが何を意味するのか誰にも分からなかったが、奥田だけは、誰かがダムの中で戦っていることに気付いた。発電を止めたのは富樫だった。発電に利用した水は、放水管を通って3キロ下流に排水される仕組みになっていた。富樫は発電を止めることで水をひかせ、放水管を通って外に出ようと考えていてた。そのことにいち早く気が付いた笠原は、放水で富樫を押し流すため。電力の回復へと急いだ。富樫は防寒着を粘着テープで密閉し、ボンベとマスクを装備することで放水の再開に備えていた。それは一か八かの賭けだった……。