大の釣り好きサラリーマンがひょんなことから
釣りの弟子にした老人はなんと勤め先の会社の社長だった!
シリーズ第1作。

釣りバカ日誌

1988  日本

93分  カラー



<<解説>>

やまさき十三と北見けんいちの漫画を原作とし、グータラなヒラ社員とワンマン社長の魚釣りの趣味を通じた奇妙な関係を描いたコメディの記念すべき第1作。当初は、「男はつらいよ」シリーズとと同時上映の、いわゆるプロクラムピクチャーだったが、好評を得て、「男はつらいよ」終了後は、それを引き継ぐ形で、国民的シリーズになった。1988年から2009年の21年の長きにわたり、シリーズ正編が20作、番外編が2作の計22作が製作された。
キャストは、釣りバカ社員のハマちゃんこと浜崎伝助に西田敏行、スーさんこと鈴木一之助社長に三國連太郎。おちゃらけた西田とシブい三國の対照的な二人の掛け合いが笑いを誘い、それぞれハマり役となっていった。ハマちゃんの妻みち子には石田えり。7作目の『スペシャル』を最後に降板となったが、妙に色っぽいみち子さんには、根強いファンも多い。また、佐々木課長役の谷啓、前原運転手役の笹野高史、八ちゃん役のアパッチけん(中本賢)等、シリーズを完走した主要人物が、第一作にして既に出そろっており、そのため、今観ても隔世の感は思いのほか少ない。
本作では、主人公のハマちゃんこと浜崎伝助は、大手建設会社の四国支社の社員という設定。彼が本社への転任に命令により、東京にやってくるところから物語は始まる。自分の会社の社長、スーさんこと鈴木一之助との出会いを描くのだが、出会いの時点では互いの正体を知らない。観客だけが知る秘密を孕みつつも深まるヒラ社員と社長のおかしな親交がコメディの軸となっている。シリーズ的にはプロローグ的な内容だが、良い思い出を残したまますべてが元通りになる結末を見る限りでは、当初は続編を考えていなかったようである。
コメディ的には、釣り好きの不良社員が巻き起こす騒動という体裁であるが、ドラマ的には、スーさんの心情にフォーカスが当たっている。立身出世を第一とし、一代で会社を築き上げてきたが、頂点に立ってみたとき、孤独な自分に気付く。物質的な豊かさは得たものの、子供たちから顧みられず、自分を畏怖する社員ともまともな人間関係を気付けてないなかった。そんな中で彼は、ひょんなことから出会った一ヒラ社員から、趣味に打ち込み妻を愛するという、出世競争からは得られないシンプルな幸福に気付かされる。マンションの前でみち子に見送られるところを運転手に目撃されて、不倫と勘違いされる場面があるが、社長とスーさんの二重生活は、まるで不倫のように甘美な秘め事として描かれる。今の自分には決して得られない幸福の一端に触れたい思いで浜崎家に通い幸せそうな夫婦を、特に自分に優しいみち子を、ガラスケース越しに憧れるような眼差しで見るスーさんの表情が印象的である。



<<ストーリー>>

鈴木建設高松支社に勤めサラーマン浜崎伝助は、大の釣り好き。仕事ももそこそこに、愛妻のみち子と釣り三昧の暮らしをしていた。釣りもできるし人情もある町を気に入り、骨をうずめる覚悟だった浜崎は、ある日突然、課長から東京本社への転勤を命ぜられてショックを受けた。ゴミゴミした都会を嫌う浜崎だったが、みち子から、東京の海は意外と魚が豊富だし、伊豆や房総にも近いと説得させられ、東京行きを決意した。
浜崎が東京の住まいに選んだのは、北品川の水路沿いのマンション。部屋は狭いが釣宿の向いで、いつでも船釣りに出かけられるのである。本社への初出勤で遅刻した浜崎は、高松と同じくのんべんだらりの勤務態度。欠伸ばかりしていることを課長の佐々木に注意されると、酸素が足りないからい言い訳。挙句、説教をする佐々木の顔を河豚と間違えて彼の口に指を突っ込み、同僚に取り押さえられるのだった。
鈴木建設社長の鈴木一之助は、一代で育て会社を上げたという自負が強く、決して無能ではない幹部社員や秘書の言動のいちいちが気に障り、常に苛立っていた。ワンマンは嫌いだと日頃口にしながらも、実際の彼はワンマン社長になってしまっていた。昼休み。浜崎は定食屋で鈴木と相席になった。浜崎は向かいに座る老人が社長とは気付かないし、一方の鈴木もヒラの浜崎の顔など知りもしなかった。浜崎は鈴木の残した焼き魚を所望すると、「きれいに食べてやることが魚への供養」と言いながら、骨に残った身を綺麗にほぐしていった。
浜崎は、陰気な表情をした鈴木のことを、定年後の第二の人生を送って輩と勘違い。彼が人間関係で問題を抱えていることを見ぬいた浜崎は、「相手のことが嫌いだと相手もこちらを嫌いになる。でも、その逆もある」と言い、人と笑顔で接することをアドバイス。だが、鈴木には不器用な作り笑いしかできなかった。見かねた浜崎は鈴木を釣りに誘うのだった。浜崎の哲学と処世術に感銘を受けた鈴木も、素直にその誘いに乗ることに。
次の日曜日、浜崎と鈴木は東京湾の船釣りに出かけた。師匠の浜崎を差し置いて、ビギナーズラックで次々と大物を釣り上げた鈴木の表情はほぐれ、自然な笑顔が出るようになった。夕方まで釣りを楽しんだ後、浜崎家で夕食を馳走になった鈴木は、疲れ切って居間で眠ってしまった。月曜の朝、鈴木は浜崎家からこっそりと運転手の前原に電話をかけた。迎えにやってきた前原は、マンションの前で鈴木がみち子から帽子をかぶせてもらっているのを目撃。愛人だと早とちりするのだった。
浜崎が営業三課へ配属になってからというもの、彼の影響で社員の士気が弛緩し、佐々木を苛立たせた。しかし、その一方で浜崎は、並外れたコミュニケーション力を発揮し、休み時間のパチンコ中に知り合ったおばちゃんから約五億円のワンルーム建設の契約をとってきたりして、佐々木を驚かせもしたのだった。
先日の釣り時に鈴木が撮った写真が出来上がってきた。その写真を渡すため、鈴木がみち子から教えてもらった浜崎の勤め先の電話番号だが、どこかで見覚えのある番号。それは、なんと我が社の番号だった……。