ニューオリンズの刑務所を脱獄した三人の男の奇妙な旅を、
ジャームッシュ独特のけだるい空気の中に描くドラマ。

ダウン・バイ・ロー

DOWN BY LAW

1986  アメリカ/西ドイツ

107分  モノクロ



<<解説>>

今やインディ映画の巨匠ジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」に続く長編三作目。ひょんなことから、いわれのない罪で投獄されることになった三人の男たちの刑務所生活と脱獄劇を描く。主人公たちの他に登場人物はあまり登場せず、ほぼ三人芝居で物語が進行していく。
三つのパートに分かれていて、一つ目は街のシーン。主人公たちが逮捕されることになったいきさつが語られる。余分な装飾を排したファッションや美術がクールで、モノクロの映像に良く映える。どこを切り取ってもアートである。
二つ目は監獄のパート。カメラは監房から一切出ない。監房暮らしを淡々とスケッチしていくのだけど、エピソードにひとつひとつにたいして意味がない。意味のなさが、なんだか可笑しい。これがジャームッシュ節。
終盤は脱走のパート。前作までのジャームッシュを知る者にとっては、事件らしい事件が起こることだけで驚きである。ここからラストの直前まで、画面には三人しか登場しない。三人のさまよう背景は、ひたすら川と森なのだが、冷たく無機的な印象を受け、この世のものとは思えない異様な空間を作り出している。
前作のようなワンシーン・ワンカットといった縛りはなく、その分、映画として見やすくなっている。しかし、あの独特のけだるさはまったく失われていない。むしろ、暗転による間の取り方も磨きがかかっているようである。三人の主人公の一人に、ロベルト・ベニーニを迎えたことには賛否がありそうで、実際彼の演ずるコメディに頼っているところがあるが、クールな他の二人の引き立て役としての役目も立派に果たしている。



<<ストーリー>>

ルイジアナ州ニューオリンズ。売春の客引きジャックは、頭では将来のプランを練りつつみ、いつもクールにキメている男。ある日、貸しのある男が部屋に訪ねてきて、この間の詫びとして、十九歳のフランス系の白人女を譲る、などと言ってきた。半信半疑で、相手が指定したベルチェイス・ホテルに向かったジャックだが、部屋で待っていたのは、まだ、幼い少女。次の瞬間、警察に踏み込まれ、ジャックは逮捕された。
他人への甘えを許さないというポリシーのせいで、局を転々としてきたラジオDJのザック。将来のことを考えようとしない彼は、とうとう、恋人に愛想を尽かされてしまった。落ち込んでいたジャックの前に、イタリア人旅行者が現れた。手帳を見ながら奇妙な英語を操るその男を追い払ったザックに、今度は知り合いのチンピラ、プレストンが声をかけてきた。千ドルやるから、高級車を走って一時間ほどの場所に運んで欲しいというのだ。前金、750ドルで手を打ったザックは、さっそく、ジャガーに乗って出発。ところが、すぐに警察に止められ、逮捕された。
ザックは罠にはめられ、無実の罪でOPP刑務所に送られた。ザックの監房に、彼と同じように罠にはめられ、無実の罪で捕まったジャックがやってきた。だが、ザックは、同室になった男と口をきこうとしなかった。それから三日後、たまりかねたジャックは、ザックに話し掛け、彼がDJだということを知った。ザックはジャックにせがまれて、DJトークを披露するのだった。
打ち解けたザックとジャックが、けんかしながらも、なんとかやっていたある日、監房に三人目の男が入ってきた。それは、逮捕された夜にザックが出会ったイタリア人旅行者だった。ロベルトと名乗るその、自称平和主義の男は、なんと、殺人を犯してここに来たのだという。カードのイカサマが見つかり、追われたロベルトは、ビリヤードの球で反撃したところ、当たり所が悪くて相手が死んでしまったのだ。
ザックとジャックは、このこっけいなイタリア人と、まあなんとか監房生活をしのんでいった。そんなある日のこと、ロベルトがザックとジャックに、庭で脱獄経路を発見した、などと囁いた。当然、ザックとジャックは、まさか、と反論。が、三人は運動時間に、庭のマンホールから下水道を通り抜け、すんなりと脱獄に成功してしまい……。