人気低迷でノイローゼになったニュース・キャスター。
視聴率競争に躍起になる局は、半狂乱の彼を預言者として担ぎ上げる。
テレビ業界の内幕を風刺をきかせて描くドラマ。
ネットワーク
NETWORK
1976
アメリカ
121分
カラー
<<解説>>
『マーティ』、『ホスピタル』で知られる脚本家、パディ・チャイエフスキーによる渾身の風刺劇。テレビ業界を舞台に、視聴率競争に躍起になるテレビマン達の姿をグロテスクに描く。監督は社会派の名匠シドニー・ルメット。キャストは、ウィリアム・ホールデン、フェイ・ダナウェイ、ロバート・デュヴァルという豪華な顔ぶれ。ノイローゼにに陥るニュース・キャスターを演じたピーター・フィンチは、その強烈な芝居が評価されてアカデミー主演男優賞を得るももの、ノミネート中に死去し、史上初の死後受賞となったことは伝説的に語られている。
物語は、人気凋落に悩んでノイローゼになったニュース・キャスターのハワードが、生放送中に自殺を予告する場面から始まる。折しも、局は視聴率も業績も低調中。企画部主任に抜擢された若き女性プロデューサのダイアナは、半狂乱になったハワードをそのままテレビカメラの前に立たせ、預言者として担ぎ上げることを画策。こうしてハワードは一躍国民的な人気を得るが、カメラの前で繰り返される暴言により、局にとっては頭の痛い存在に。ハワードが暴走を続ける一方、番組のヒットの波に乗ったダイアナは、視聴率を得るために、なりふり構わず、違法スレスレの過激な番組を連発。ついには一線を踏み越え、物語は衝撃的な結末を向かえる。
テレビが表現内容に対して自主規制をしく一方で、テレビタレントに道化を演じさせることで、無責任な言動についての批判をかわそうとするのは、時代や国が変わっても同じようである。それは、良い意味では知恵であり、悪い意味では姑息なやり口と言えるだろう。ピーター・フィンチ演じるハワードは、そうしたテレビの中の道化を極端にエスカレートさせたキャラクターである。一方、フェイ・ダナウェイ演じるダイアナは、ハワードを仕掛けた張本人として活躍。テレビ世代の彼女は、視聴率のためなら違法なことも厭わず、しかも、悪びれもせずにやってしまうとい怪物的なキャラクターとして描かれる。ナレーションによれば、本作はハワードについての物語ということになってはいるが、ハワードという魔法の杖を無邪気に振り回すダイアナこそ、本作の実質的な主人公と言っていいかもしれない。
映画に代わり娯楽の王となったテレビは、いつしか計り知れない影響力を持つようになった。本作は、扱う人間の暴走によっては凶器になりうるテレビに警鐘を鳴らす社会風刺であり、テレビによって情報化された世界の行く末を予見したSFでもあり、テレビという幻想に翻弄される人々の混迷を冷笑するコメディでもある。最終的に文明批判まで踏み込んだ脚本は学術論文の様相で、過激で大胆なストーリーもさほど現実的とは思えない。しかし、絵空事とは思えない迫力がある。チャイエフスキーは、50年代よりテレビ・ドラマの脚本を多く手掛けているが、その業界での経験が反映されているのかもしれない。さらに、局内を縦横に動き回る臨場感あふれるカメラと、俳優たちの熱のこもった芝居合戦も後押しし、一級のエンターテインメントに達している。
<<ストーリー>>
テレビ界の帝王とうたわれたUBS局のニュース・キャスターのハワード・ビールは、全盛期にはネットワークのシェア28%を誇る人気だった。だが、1969年から徐々に人気が衰え、シェア12%にまで落ち込んたせ。ハワードは人から避けられ、深酒にハマるようになっていった。1975年9月22日、UBSはハワードを二週間後に解雇することを決定。新人記者時代を共にした親友の報道部長のマッマス・シューマッカーが本人から解雇を通達されたハワードは、ひどく落ち込み、思い詰めて様子で「自殺してやる」とつぶやいた。マックスは、それが酒の上での冗談だと思い、「視聴率がアップするぞ」となだめた。だが、ハワードは本気だった。その週の七時のニュースの冒頭、彼は視聴者に向かい、来週のこの時間にこの場で自殺することを宣言し、慌てたスタッフに放送中のカメラの前から引きずれ降ろされたのだった。
ここのところ、UBSは、大手局の勢いにおされて人気番組に恵まれず、ベスト20に入る番組はひとつも持っていなかった。企画部の若き女性プロデューサのダイアナは、来季こそヒットを飛ばすべきだと、部の幹部たちに激を飛ばしていた。黒人の左翼活動家のローレンから西海岸局に送りつけられてきたいくつかのフィルムの中に、メアリー・アンの誘拐で世間を騒がしているテロリスト“世界解放戦線”が、銀行強盗の一部始終を撮影した映像があった。その迫真のフィルムに目を付けたダイアナは、実写フィルムに裏話を交えたシリーズもの企画を話した。彼女は、冗談半分にしか聞いていない幹部たちに、こうした反体制的な番組が求められているのだと力説。ベトナム戦争、インフレ、ウォータゲイト事件等々で、アメリカ人は不機嫌になり、疲れ果て意気消沈している。今こそ、怒りの代弁者が必要なのだと。
低迷するUBSグループはCCAに買収され、新副会長の地位にはCCAから送り込まれたフランク・ハケットが就いていた。雇われ社長のネルソンは、実質的に発言権を持っていないため、会長のエドワード・ルディとハケットの間で派閥闘争のきな臭い動きが見え始めていた。株主総会でハケットは、収益率の低い報道の人員削減と、報道を部門から局の直属にすることを突如発表。寝耳に水のマックスはルディに詰め寄った。自殺予告のせいで次週の番組への出演を留保されていたハワードは、後任との交代のあいさつだけはさせてほしいとマックスに懇願。マックスから渋々了承を得て出演したニュースの冒頭、ハワードは「ニュース報道に飽きた」と発言し、再びスタッフを慌てされた。だが、マックスはハワードが本音を語るに任せ、再び世間に反響を巻き起こした。このことで、ルディの怒りを買ったマックスは、即刻クビを言い渡されたのだった。
翌朝のどの新聞の1ページ目もハワードのことを書いていた。ダイアナはその新聞を携えてハケットと会い、昨夜の放送がシェア28%に達したこと、新聞が宣伝効果になることを示し、今後もハワードを出演させ続けるべきだと訴えた。世間は欺瞞に満ちていると放送中に怒りをぶつけたハワード。彼こそダイアナが求めていた、偽善を暴く現代の預言者だった。ダイアナは、ハワードの番組を自分に任せてくれれば、ヒットさせてみせるとハケットに約束した。ハワード続投を知ったルディは、オフィスの片付けをしていたマックスと会い、彼を慰留した。ハワードの番組が失敗すると踏んだルディは、ハケットの失脚を傍観しようと決め込んでいた。だが、ハケットを追い出すには、マックスという味方がいたほうが心強いというのがルディの考えだった。
ルディの目論見は当たり、ハワードの新番組は好調とは言えなかった。出だしはそこそこ視聴率が良かったが、その後は目新しさが薄れ、徐々にダウン。ある夜、マックスのオフィスにダイアナが訪ねてきて、新企画のプランを語った。報道もショービジネスの一部であり、ニュースもショーアップが必要との持論を持つ彼女は、占い師に翌週の出来事を占わせるコーナーを作ることを提案。預言者としてのハワードを早くも見限ったダイアナは、手のひらを返すように、報道での経験の高いマックスと組もうと彼に色目を使い始めた。ハワードを“怒れる男”から元のスタイルに戻すことをダイアナに了承させると、成り行きに任せるまま、彼女と深夜のデートに繰り出したのだった。
翌日、なぜか上機嫌で局にやってきたハワードは、“怒れる男”を辞めるというハワードからの通達を無視し、昨晩、天から“お告げ”を受けたという話を生放送で語り始めた。その声は、「誰もが避けている真実を世間に知らせるがよい」などと告げたという。すなわちそれは、テレビを通じて伝道活動を行っていくという宣言だった。放送後、マックスはハワードを呼びつけ、番組を降板して、病院に行くことすすめた。だが、ハワードは真顔で、「大きな力を感じる」、「究極の真実がもう少しで掴めそう」など意味不明のことを語り、挙句にその場に倒れて気絶した。マックスはハワードを自宅に連れて帰り、居間のソファに寝かせたが、気が付くと、彼の姿は消えていた。雨のそぼ降る中、家を出て行ったのだ。
ハワードは“お告げ”発言により、一晩で爆発的な人気を得たが、翌朝になっても行方不明のままだった。ハケットとダイアナはハワードの行方を教えるようマックスに迫るが、彼にも見当がつかなかった。生放送の五分前、マックスが局に現れた。パジャマにコートを羽織り、雨の中傘も差さなかったため、ずぶ濡れという風体だった。そのままの姿で生放送に出演したハワードは、「言うまでもなく世の中は最悪の状態だ。だが、家にこもっていては世界が狭くなる」と、視聴者へまくし立てるように語りかけた。さらに、「デモも暴動もいらない。ただ皆に怒ってほしい。今こそ立ち上がり、窓を開けて大声で叫べ」と呼びかけ、「私は怒った。もう耐えられない!」と繰り返した。自宅で放送を観ていたマックスは唖然とした。ハワードの様子は明らかに異常だった。マックスの娘がマンションの窓を開けると、方々の窓から皆か同じように顔を出し、叫んでいた。「私は怒った。もう耐えられない!」と。
10月半ば、ハワードの番組はシェア42%を獲得。視聴率は四位で、報道が人気ドラマを上回るという異例の事態となった。ハワードの件の成功で勢いづいたダイアナは、来シーズンの打ち合わせのため、西海岸局に向かい、ローレンと彼女の弁護士と接見。例の実録ドラマシリーズ「毛沢東アワー」の実現に向けて、“世界解放戦線”のフィルムの供給を依頼した。表向きは、過激派である“世界解放戦線”とは同調していないローレンははじめ難色を示していたが、アジビラをまくよりテレビの方が効率的とのローレン説得を受け、自ら“世界解放戦線”のリーダーにも話を持ちかけたのだった。
ちょうどその頃、ルディが心臓発作で死に、新会長にハケットが就任した。ハワードは番組でそのことを発表し、CCAによる局の乗っ取りの動きがあることも暴露した。ハワード曰く――国民が本も新聞も読ない今、テレビこそが福音、究極の啓示、神不在の世の中の最高権力。その最高権力を握ったCCAという企業グループに、どんな真実を作られることやら。しかし、テレビは子供だましの遊園地であり、退屈しのぎのであって、真実ではない。本当時の真実を知りたければ、テレビを消せ。私が話している今すぐにでも――そう叫びんだハワードは、けいれんを起こしてぶっ倒れた。倒れたハワードをアップで映すカメラ。観客は大拍手……。