南からやってきた父との思い出に思いをはせる娘。
スペイン内戦後を背景にしたドラマ。

エル・スール

( エル・スール 南 )

EL SUR

1982  スペイン/フランス

95分  カラー



<<解説>>

寡作の監督ビクトル・エリセの『ミツバチのささやき』に続く長編二作目。スペイン内戦後の北部バスク地方舞台に、大好きだった父親が秘めていた故郷の女性への想いについての娘の回想を、絵画的映像美で描くドラマ。
題名はスペイン語で「南」を意味していて(ビデオ版では『エル・スール ―南―』のようにサブタイトルとなっていた)、主人公の父親の出身地を指している。スペイン内戦中、政治的立場の違う祖父と対立した父が、北へ向かわざるを得なくなったことが劇中で語られる。娘にとって、プロのダウザーとして人々から尊敬される父は誇りであり、また、無口で超然としたところは、不思議な存在でもあった。しかし、父が故郷に残してきた女性のことを知るうちに、彼も一人の悩める男であることに気付いてく。胸に何か秘めながらも、直接は語らず、態度で伝えようとする父親と、それを受けようとする娘の濃厚な心の交流。娘は父の果たせなかった想いを引き継ぎ、南へと旅立っていく。
スペイン内戦という背景や、少女の成長というテーマが前作と共通しているが、父親の過去を少女の成長のきっかけとするアプローチは、ファンタジーだった前作よりホームドラマ的になっている。また、父と娘の関係を描いたところは、家族の再生を予感させるところで終わった前作を継いでいるように思われる。別の家族の物語ではあるが、時系列的に見ても、前作のその後の物語といった見かたもできるのではないだろうか。故郷である「南」や、残してきた女性に象徴的な意味がありそうだが、社会的背景が分からなくても、単純にドラマとして楽しめる作品に仕上がっている。



<<ストーリー>>

エストレリレャは、振り子を使って何でも当ててしまう父アグスティンが大好きだった。だが、父も今はもういない。エストレリレャが15歳になった1957年、アグスティンは振り子を残して、姿を消したのだ。
エストレリレャが八歳だった頃、一家は北の町に暮らしていた。アグスティンの出身地は南の土地であり、彼は時折、故郷に思いを馳せていた。そんなある日、エストレリレャはアグスティンの心に、ある一人の女性がいることを知った。それは、“南”の女優イレーネだった……。