最終戦争勃発を機に神を信じなかった男が自ら犠牲(サクリファイス)を捧げる。
ソ連の巨匠タルコフスキーの遺作。

サクリファイス

OFFRET

1986  スウェーデン/イギリス/フランス

142分  カラー



<<解説>>

難解と言われる作風ながら、没後も熱狂的な持つ、ソ連の映画監督アンドレイ・タルコフスキーの遺作。
仕事に家族に恵まれていた無神論者の男が、世界が終末戦争に突入したことを知ったとき、家族や友人のためにはじめて神に祈り、世界を救うために自らを犠牲にしようとするという、カトリックの宗教的思想に基づく寓話的物語。
監督が好んで用いたSF的なスケールの設定ではあるが、スケールの大きさに反して、始終主人公の個人的な出来事として描かれ、彼の家とその近所だけを舞台に静かに展開していく。極端な長回しと、俯瞰的な視点により、島の荒涼とした風景と、それに取り巻かれる人物との対比を意識した構図は、説明が省かれていることも手伝い、詩的な印象を与える。
前作、86年の『ノスタルジア』の世界の終末と人類の救済というテーマを純化し、水と火というイメージも引き継がれている。75年の『鏡』での失語の子供も、作品を貫く重要なチーフとして再び取り上げられており、奇しくも集大成的な作品となった。



<<ストーリー>>

スウェーデンのゴトランド島。緑地の一軒家に、かつて俳優で名をはせた無神論者の作家アレクサンデルが家族と共に暮らしていた。彼の“子供”は、喉を手術したため言葉を発することが出来なくなっていた。アレクサンデルは誕生日を迎えたその日、“子供”と一緒に、枯れた松の木を植えた。彼は、僧が三年間水を与え続けたら枯れ木が蘇ったという“生命の木”の伝説を“子供”に語った。
家族や友人を交えてのささやかな誕生会が開かれた。すると突然、居間のテレビが、人類の最終的な戦争が始まったことを告げた。もはや、勝者も敗者もなく、あらゆる生命が生き残る希望は残されていなかった。二階の部屋では、何も知らない“子供”がこんこんと眠りつづけていた。その一方で、家族や友人は絶望と恐怖を薬で静めようとしていた。アレクサンデルは、はじめて神に祈りを捧げた。家族や友人を救えるのなら、自分と自分の持てるものすべてを犠牲にすると……。