東南アジアの某国から世界征服を企む悪の将軍バイソンに、
連合軍のガイル大佐が仲間の武道家たちと共に挑む。
大ヒットした日本の格闘ゲーム「ストU」をハリウッドで実写映画化。

ストリートファイター

STREET FIGHTER

1994  アメリカ/日本

102分  カラー



<<解説>>

子供を中心に大人をも巻き込んで社会現象的なブームになり、その後の格闘ゲームに多大な影響を与えた「ストリートファイターU」をハリウッドで実写映像化した作品。同時期にゲームの新作とアニメ映画が制作されるという、メディアミックス展開が行われた。続編ではないが、関連作品として、春麗を主人公とした主人公にした『ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』が09年に公開されている。
主演は、日本でも人気の高いジャン・クロード・ヴァンダム。軍人のキャラクター、ガイルに扮するのだが、芝居はいつもの通りのヴァンダムである。敵役の悪の将軍バイソンを演じるのは、ブロードウェイから「アダムスファミリー」シリーズまでの硬軟をこなすラウル・ジュリア。目を真ん丸に見開き、キャラクターもモデルであった『帝都物語』の加藤保憲を彷彿とさせる怪演を見せる。その後、急逝したため、彼の遺作となった。ジャッキー・チェンの出演オファーがあったが実現しなかった。そのことと関係してるかどうか不明だが、前年の93年に公開されたジャッキー主演の『シティーハンター』では、「ストU」のパロディシーンがある。
ストーリーはゲームでの設定を独自に解釈したオリジナルで、東南アジアの国シャダルーの独裁者バイソン将軍を、連合軍の兵士ガイル大佐、将軍への復讐に燃えるチュンリー、ひょんなことから事件に巻き込まれたリュウちケンらが力を合わせてやっつけるという勧善懲悪ものである。沢山いるキャラクターの誰もが主人公である格闘ゲームに物語をつけることは難題だが、キャラクターをチームごとにまとめて動かすことで、それぞれに見せ場を作った脚本はまずまずの出来である。しかし、主演がヴァンダムであることから、内容もヴァンダム映画そのものであることは大方の予想通りであろう。いつものヴァンダム映画との違いは、ゲームのコスプレをしているところだろうか。
つまり、ゲームの再現に関して言えば、コスプレ程度のものなのである。軍隊によるシャダルー団掃討作戦が物語の軸になっているため、銃器によるアクションが多いのはともかく、クライマックスでの肉体を使った格闘シーンでも、将軍が超伝導で空を飛んだりするが、ゲームの最大の魅力だった超人的な必殺技が繰り出されるようなことはほとんどない。この点についての再現度は、先の『シティーハンター』での一場面の方が上である。しかし、本作は何を勘違いしたのか、将軍がガイル大佐の船をゲームのジョイスティックを模したコンソールを操り撃沈した挙句に「ゲームオーバー!」と叫ぶという、ゲームの映像化でもプレイする方を映像化してしまうのである。
今でこそ、ゲームやアニメの映画化はヒット映画の定番となっている。しかし、その定石を築くには、その過渡期であった当時にこういった失敗を積み重ねて来たからなのである。そういう意味では、本作は好ましい失敗として記憶されるべきだが、より好例としては、翌年の95年に同じく格闘ゲームの走りである『モータル・コンバット』がポール・W・S・アンダーソン監督によって映画化されている。この作品は、一対一の格闘に重きを置いたアクションシーンを立て続けに見せることで、より格闘ゲームに近い作品に仕上げた。その分、物語をなおざりにしたため、成功は言い難いものだったが、その反省を生かしたアンダーソン監督は、後に同じくゲーム原作の「バイオハザード」シリーズを成功を導いている。
原作もの、特にキャラクターが前面に出ているゲームやアニメを原作した映画は、ターゲットとして原作ファンを想定している以上、キャラクターや設定が一定のレベルで再現されることが重要であることは言うまでもない。しかし、それよりも重要なのは、「バイオハザード」シリーズを観るまでもなく、単純に映画として面白いかどうかなのである。本作の何がいけなかったのかと言えば、ヒットしたゲームが原作であるとう付加価値の上にあぐらをかいて、ヴァンダム映画として観ても中途半端な出来にしてしまったことに他ならない。往年のホラー映画ばりのラストシーンで続編の意欲を見せているが、興行成績が微妙だったためか、結局、続編は作られることがなかった。




<<ストーリー>>

内戦が続く東南アジアの国シャダルー。連合軍は首都シャダルーシティーを制圧するが、人民軍“シャダルー団”の主導者バイソン将軍は、最新兵器を備えて抵抗を続けていた。バイソン将軍は囚われの科学者ダルシム博士に命じ、人間のDNAに突然変異を起こさせる実験を繰り返していた。遺伝子レベルで完璧な人間を作りだし、そうした人間で組織された軍隊を使って世界を我が物にすることが最終目的だった。
シティーの情勢を伝えるテレビレポーターのチュンリーは、連合軍を指揮官ガイル大佐にマイクを奪われた。ガイル大佐がカメラを向けてバイソン将軍を挑発すると、それに応じてバイソン将軍が電波ジャック。バイソン将軍は、捕虜にしている外国人ボランティアの命と引き換えに、200億ドルを三日の期限付きで要求してきた。電波を逆探知してバイソン将軍の基地を突き止めるのがガイル大佐の目論見だったが、そうとは知らないチュンリーに邪魔されて作戦は失敗に終わった。
バイソン将軍と通じている暗黒街の武器商人サガットが連合軍に逮捕された。ガイル大佐は、サガットにスパイを送ってバイソンの基地の探り出す作戦を計画ためるが、サガットが信用するだろうか、と部下のキャミー中尉が異論を唱えた。確かに用心深いサガットは味方すら信用しないだろう。だが、敵であればどうだろうか?
武道家でチンピラのリューとケンは、偽物の銃でサガットを騙して金をせしめるつもりでいたが、あっさり見破られて失敗。その上、サガットと一緒に逮捕され、軍の留置所に放り込まれこまれてしまった。だが、リューとケンは囚人が移送される際に喧嘩を演じ、止めに入った兵士からまんまと手錠の鍵を奪うことに成功。それを見ていたサガットにも渋々鍵を渡してやった。トラックを奪って基地を脱出する際、リューはトラックを止めようしたガイル大佐を撃ち殺したのだった。
チュンリーはトラックが基地を出てていく寸前、荷台に発信機を放り込んでいた。その夜、トラックの追跡を始めたチュンリーは、もうひとつ別の発信機が仕掛けられていることに気付いた。電波の受信元を探してたどり着いたのは、軍の基地の遺体安置所。その時、ガイル大佐の遺体がむくりと起き上った。実は、昼間の脱走騒動は芝居で、ガイル大佐はリューとケンに発信機を託していたのだった。チュンリーはガイル大佐の部下に連行されそうになるが、忍者のような身のこなしで逃走した。
チュンリーは只のレポーターではなかった。彼女の真の目的はガイル大佐への復讐だった。二十年前、まだケチな麻薬の売人だったバイソンは、小さな村を襲った。村長だったチュンリーの父は勇敢にもバイソンに立ち向かい、村を守ることと引き換えに殺されてしまったのだ。また、撮影クルーの仲間で元力士のホンダは横綱になる夢を、元プロボクサーのバルログはチャンピオンになる夢をシャダルー団に断たれたために、チュンリーの復讐に協力していたのだった。
チュンリー、ホンダ、バルログはトラックを追跡して、サガットがバイソンと武器の取引をする場所を突き止めた。バイソンの開いた余興に、手品師として潜入したチュンリーたちは、サガットの仲間として余興を見ていたリューとケンと出会った。チュンリーはバイソンに渡る武器を爆弾で吹き飛ばすつもりだった。その頃、取引の席ではバイソンがサガットの交渉が決裂していた。このままではバイソンの基地に発信機を仕掛けるという目的が果たせなくなると考えたリューとケンは、チュンリーのことをバイソンに教えるのだった。
リューとケンはバイソンに気に入られて基地へ案内されることに。一方、チュンリー、ホンダ、バルログは捕虜として囚われることになった。リューとケンがジャングル奥地の基地にたどり着いたことを知ったガイル大佐は、河からステルス船で基地に攻撃を仕掛ける作戦を計画。だが、連合軍の委員会は、バイソン将軍との取引に応じることに方針を転換してしまった。ガイル大佐は委員会から求められて、断腸の思いで部下に攻撃中止を命令するが……。