飛行機工場への放火という無実の罪を着せられた男が、
軍需産業の破壊を企むテロリストと対決する。
逃走迷路
SABOTEUR
1942
アメリカ
108分
モノクロ
<<解説>>
ヒッチコックの戦中の作品。軍需産業が盛んだった当時の社会を背景に、軍需施設を標的としたテロリストを激しく非難するといった戦時色の強い作品となっている。
飛行機工場での火災で放火と殺人の濡れ衣を着せられた主人公バリー。彼は火災の直前に出会ったフライという名の謎の男を追ううち、私欲のために軍需産業を破壊しようとするテロリスト組織の存在を知る――いわれのない理由で追われるはめになった男を描く、ヒッチお得意の巻き込まれ型サスペンスで、『北北西に進路を取れ』の原型とも思われる作品だが、語り口、カメラワーク、カット、すべてがもたついているのは否めない。同時期の『断崖』や『疑惑の影』などと比べると明らかである。度々主人公への全面的な協力者が現れ、緊張感がそがれるのも彼らしくない。本来ならユーモアを息抜きとして用意するのがヒッチ流なのだが、全体的にシリアス過ぎているようだ。
しかしながら、『北北西〜』のラシュモア山のシーンに発展するクライマックスの自由の女神のシーンは語り草になるほどの名シーンである。シーンとしてはそのほど長いものではないが、背広の袖のほつれに転落の恐怖を集約したのには脱帽。形はだいぶ違うが、『レモ/第1の挑戦』や『X−MEN』のクライマックスも、本作へのオマージュと言えば言えなくもない。
<<ストーリー>>
ロサンゼルスの軍需飛行機工場の昼休み。バリー・ケインと友人のケン・メイソンは、食堂に向かう途中で男とぶつかる。そのはずみで男が落とした手紙の束には、“フランク・フライ”という宛名があった。
火災を知らせるサイレンが鳴った。バリーたちが工場に駆けつけると塗装部門から出荷していた。バリーはフライが差し出した消火器をケンに手渡した。が火に向かい消化液を放つと、なぜか火は燃え広がり、彼はバリーの目の前で焼け死んでしまった。
鎮火後後、警察から事情を聞かれたバリーは、消火器の中にガソリンが入っていたと知らされ、愕然とする。これは事故ではなく、殺人だったのだ。バリーは。消火器に仕掛けがあったことを知っていたであろうフライを探すが、どこにもその姿はなかった。
バリーはケンの母親を慰めるため、ケンの家に向かうと、そこへ警察が訪ねてきた。警察がバリーを殺人の容疑で追っていると知ったメイソン夫人は、バリーの居場所は知らないと告げた。バリーは動転したメイソン夫人に家から追い出されるだった。
バリーはトラックをヒッチハイクし、町から離れた。フライの落とした手紙を思い起こしたバリーは、差出人がディープ・スプリングビル農場であったことに気付く。スプリングビルでトラックを降りたバリーは、農場を訪ね、フライのことを訪ねた。
農場主のチャールズ・トビンは紳士的で親切な男だった。バリーはトビンの上着のポケットに入っていたフライからの電報が入っていることに気付いた。フライはソーダシティに向っているようだった。電報の盗み見に気付いたフライは態度を一変。破壊活動に関わっていることをほのめかしたトビンは、通報で駆けつけた警察にバリーを逮捕させた。
バリーを乗せた警察の車は、橋の上で立ち往生していたトラックに道をふさがれ、停まった。その瞬間、バリーは警官の隙をついて車から飛び出し、橋から川へ飛び込んだ。警察をまいたバリーは、雨に濡れながら山の中をさ迷い歩き、一軒の山小屋にたどり着いた。小屋の主フィリップ・マーティンは盲目だった。
バリーは、目の見えないマーティンには自分が逃亡者だと分からないと思っていた。だが、マーティンはバリーの手首の手錠の音に気付いていた。そして、彼の目に見えない潔白さにも。マーティンは山小屋に遊びに来た姪でモデルのパットに、バリーを友人の鍛冶屋のところへ連れて行くよう命じた。手錠の鎖を切るために。
叔父に従いバリーを車に乗せたパットだったが、市民の義務感から警察を呼ぶことにした。バリーは高速回転するエンジンのファンを利用して手錠の鎖を断ち切り、道行く車に助けを求めようとしていたパットを間一髪、取り押さえ、車に押し込んだのだっだ。
日が暮れた。車はオーバーヒートで故障し、バリーとパットは荒野の真ん中で途方にくれていた。そこへサーカスのトレーラーが通りかかった。バリーはトレーラーに飛び乗った。置き去りにされると思ったパットも、バリーを信じることにして、彼に続いてトレーラーに乗った。
バリーたちが飛び乗った荷台には、骨人間ことボーンズをはじめとしたサーカス団員が乗っていた。彼らの話では、このトレーラーはちょうどソーダシティーの方向へ向かっているところだった。トレーラーが止まった。警察の検問だった。バリーが逃亡者だと知った団員は、彼を警察に突き出すか守るかで意見が分かれたが、決を取った結果、バリーたちを守ることに。
サーカス団員たちのおかげで難を逃れたバリーとパットは、ソーダシティでトレーラーを降りた。だが、そこはゴーストタウンだった……。