空前の不況にみまわれていた30年代のアメリカ。
無賃乗車を繰り返す浮浪者と、それを容赦なく追い払う車掌の熾烈な戦いを描く。
北国の帝王
EMPEROR OF THE NORTH POLE
1973
アメリカ
118分
カラー
<<解説>>
骨太の西部劇で知られるロバート・アルドリッチ監督が、不況下の30年代のアメリカを舞台に、やや風変わりな設定のもと、二人の男の壮絶な闘いを描いた作品。
アメリカを空前の大不況が襲った時代。当時は、仕事を求めて土地から土地へと渡り歩く失業者も少なくなかったという。彼らは“ホーボー”と呼ばれ、その開拓時代を彷彿とさせる自由かつストイックなライフスタイルは、ヒッピーとは真逆のホームレスのカルチャーとして評価されているようである。
本作は“ホーボー”を主人公として、彼らの生き様を力強く描いている。実際、“ホーボー”の普段の生活を生々しく描くという社会派ドラマの一面もあり、アメリカの社会的背景を知れば、意義深い作品なのかもしれない。しかし、彼らの定番の行動である“移動手段としての無賃乗車”にスポットを当て、男性的ロマンの溢れる西部劇テイストのアクション映画に仕上げている。
浮浪者と車掌が無賃乗車をめぐって命を懸け、繰り広げられる闘い。只乗りの主人公に正義はないが、不正を死を持って償わせようとする車掌にも正義はない。そこに善も悪もないという無意味さが、死力を尽くして肉体と頭脳をぶつけ合いう二人の男の常軌を逸した執念をより浮き彫りにする。主人公も敵役も中年であるというのも面白い。帝王の座を虎視眈々と狙う青年を歯牙にもかけず、世代交代すら許さないといった痛快な中年パワーを堪能したい作品である。
<<ストーリー>>
30年代のアメリカ・オレゴン州。空前の不況で職を失った男たちは、仕事を求めて浮浪生活を送っていた。彼らは“ホーボー”と呼ばれ、交通手段として貨物列車に無賃乗車を繰り返していた。その常習犯はいつしか英雄視されるようになった。
鉄道のほうも無賃乗車に手をこまねいている訳ではなく、19号車にいるシャックという車掌は、ホーボーたちを容赦なく列車から突き落とすことで恐れられていた。だが、シャックをものともせずに19号車で無賃乗車を繰り返すエース・ナンバー・ワンというホーボーがいた。彼は“北国の帝王”とあだ名され、ホーボーたちから尊敬されていた。
ある日、エースとシャックのどちらが勝つか、賭けが行われることになった。次の帝王の座を狙う若いホーボーのシガレットは、漁夫の利を期待して、エースと行動を共にすることにした。
エースとシガレットは、19号車に飛び乗るのに成功するが、シャックに見つかり、列車から落ちてしまった。機転を利かせたエースは、線路にオイルを塗ることで、やって来た19号車を停車させ、その隙に再び列車に乗り込むが……。