神の啓示を信じ、悪人を処刑していく兄弟の姿を描くバイオレンス・アクション。

処刑人

THE BOONDOCK SAINTS

1999  カナダ/アメリカ

108分  カラー



<<解説>>

神に代わって悪人をぶっ殺すアブナい兄弟の活躍を描くバイオレンス・アクション。監督はこれがデビュー作となるトロイ・ダフィ。自ら執筆した脚本はハリウッドで注目を集め争奪戦になったが、結局メジャーの誘いを蹴って、自主的に調達した資金で完成させたとか。過激な暴力描写のために、アメリカでは一部で上映禁止になったというが、ロック・ミュージシャンでもあるダフィにとっては、一作目からハクがついたといったところか。非メジャー作品、新人監督、ウィレム・デフォー以外はスター不在という条件ながら、カルト的な人気を誇った。2009年には、紆余曲折を経て十年ぶりの待望の続編が完成した。
この作品は、私刑を奨励しているわけではないし、勧善懲悪ものにもなっていない。しかし、暗殺でもしない限り、裁けないような悪人も確かにいる。日本のカルト映画の重鎮、石井点輝男は、理不尽な犯罪への怒りから、実在の凶悪事件の犯人が地獄の業火に焼かれるとった内容の映画を撮ったが、本作が作られた動機にも似たようなものがあったのかもしれない。過激なバイオレンスには、犯罪への怒りが感じられるような気がするのである。
主人公の兄弟のやっていことはもちろん犯罪。いくら悪人の掃除をしているとは言っても、人殺しなのであって到底許しがたいのもの。しかし、よく考えれば時代劇のヒーローも彼らとあんまり変わらないのではないだろうか。バイオレンスシーンをデジタルロックにのせて見せるところなどは、最近の常套で目新しくないものの、まさに時代劇のヒーローの見せ場のようなノリなのである。どう考えてもスカッとしないようなシチュエーションではあるが、痛快な演出のおかげで、エンターテインメントとして楽しめる作品に仕上がっている。
痛快であるゆえに、人を殺すことの恐ろしさが描いていないという危うさもある。例えば、銃で撃つシーンでは、びちょっと飛び散るねっとりした鮮血に妙な清潔感があるので、それほど嫌な気分にならないし、撃たれた人もあっさりと死んでくれる。もしも、撃たれた人が苦しみながら死ぬような生々しい撮り方をしていたら、どんな傑作に化けていただろうか。しかし、社会派っぽいことは考えず、純粋にアクション映画としてざっくりと仕上げた監督は素晴らしい仕事をした。監督はポスト・タランティーノと言われているようだが、タランティーノよりとっつきやすく適度に過激なので、ひょっとしたらブレイクするかもしれない(と言いながらもう十年もたってしまったが)。
この手のバイオレンス・アクションは男性客にしかアピールしないものだと思われているが、意外にも本作は女性の支持も得ているようだ。なんといっても、主演が二人のかわいい男のコだから。主人公のマクナマス兄弟を演じたJ・P・フラナリーとN・リーダスは、一見すると人殺しなどしそうにないイケメン。繊細そうな美形なだけに、神の言葉に従って殺人を繰り返す姿に無垢なアブナさが出ていて、なかなか魅力的なのである。
男性客からの注目は専ら、主人公を追うスメッカー捜査官に扮したウィレム・デフォーの仕事に集まっているようだ。この手のバイオレンス・アクションに欠かせない、キレてる警官をやらせたらお手の物で、本作でも独自のテイストを存分に出している。そこまでするか? と思うほどの悪乗りに近いサービスも見せていて、ドラック・クィーンに化け敵の前で痴態を演じたスメッカーに「ハメをはずしすぎた」とアドリブ的な台詞を言わせてニクい演出も。
タランティーノばりの時制の再構築に凝っているのも面白い。マクナマス兄弟が悪人を処刑する場面はの見せ方がそれである。マクナマス兄弟が処刑の標的に近づいていく次の瞬間ではすでに処刑は終了していて、死体の山。そこに、現場検証にやって来たスメッカー捜査官が登場。スメッカーが部下たちを前に独自の見解を述べた後、マクナマス兄弟が処刑を執行している場面という構成なのだ。クライマックスのマクナマス兄弟VSドューチェの場面では、事件の経過を説明しているスメッカーが感情移入するあまり、時間を超えて決闘の現場に割り込んでくる。また、このときのデフォーの陶酔しきった表情が絶品なのである。



<<ストーリー>>

サウスボストンの精肉所働くコナーとマーフィのマクマナス兄弟。聖パトリックの祭日に仲間とバーで飲んでいた二人は、突然店に入ってきたロシアン・マフィアのイワン・チェコフと喧嘩になった。チェコフの憎しみを買ったマクマナス兄弟は、自宅のアパートにいたところを襲撃された。チェコフはコナーを手錠で便器につなぎ、マーフィを殺すため、彼をアパートの外に連れ出した。コナーは渾身の力を振り絞って便器を床から引き抜き、路地裏でコナーを撃ち殺そうとしていたチェコフの頭上に落下させた。
翌日、チェコフとその手下の死体が発見され、FBIはマフィアの間の抗争の線で捜査を開始された。担当のFBI捜査官ポール・スメッカーは、大男の仕業とする部下の見立てを否定し、研ぎ澄まされた推理力で、凶器が便器であることに気付いた。そして、路地に面するアパートの漏水の発見された五階に向い、そこの住民であるマクナマス兄弟を逮捕した。
地元新聞は、マフィアを殺した兄弟を「サウスボストンの聖人」として称えた。社会のゴミである悪党チェコフを始末したことに満足していた兄弟は、その夜、留置所の中で「悪なる者を滅ぼせ」という啓示を受けた。スメッカーの計らいで正当防衛を認められて釈放された兄弟は、啓示を実行に移すことにした。
イタリアン・マフィアのヤカヴェッタ・ファミリーで運び屋をしている自称“コメディアン”のデイビッド・ロッコは、ドンから台頭しつつあるロシアン・マフィアの集会を襲撃するよう命じられた。だが、ロッコより先に、彼の親友であるマクナマス兄弟が集会に乗り込んでいた。通風孔から建物に侵入した兄弟だったが、兄弟げんかになり、争っているうちに集会の開かれている部屋の真中に落ちてしまた。運良くロープで吊り下がった二人は、九人のロシアン・マフィアの幹部を次々と射殺。そして、最後に一人残ったボスのY・ペトロウの頭を兄弟そろって同時に撃ち抜いた。その直後、マクナマス兄弟は、九人を殺しにやってきたロッコと鉢合わせることになった。
サウスボストン史上最悪の大量殺人事件。その捜査を担当することになったのはスメッカーだった。最後に殺されたマフィアの頭の弾傷の角度が不自然なことに注目し、犯人が少なくとも二人いることに気付いた。
ロシアン・マフィア九人に対し、六連発の銃しか持たされていなかったロッコは、自分が組織からカスぐらいしか思われていないことに気付いた。彼はマクナマス兄弟の処刑の仕事に賛同し、彼らの仲間に加わることにした。そんな時、ロッコがジャンキーの恋人のドナから預かっていた猫スキッピーが、突然吹き飛んだ。自分を消そうとした組織の仕業に違いなかった。
組織への不満と怒りを爆発させたロッコは、組織の溜まり場となっているデリの店に単身乗り込み、チンピラ数人と目撃者のバーテンを射殺した。さらに、ロッコはマクナマス兄弟と三人で、風俗店で組織のチンピラ三人を射殺した。
手下たちが次々と殺されていることから、ヤカヴェッタは自分の命も狙われていると危機感を抱いていた。ヤカヴェッタは史上最悪の殺し屋イル・ドューチェを使うことを決断し、二十五年の間、刑務所で厳重に収監されていた彼を仮釈放させた。かくして、血に飢えた狂犬ドューチェが野に放たれた……。