平凡な市民の日常の中での怒りの爆発を描くオムニバス第2弾。
バカヤロー!2
「幸せになりたい。」
1989
日本
カラー
<<解説>>
平凡な市民が日常の中で苛立ちや怒りを募らせ、ついには「バカヤロー!」と叫ぶまでをコミカルに描いた森田芳光総指揮によるオニムバスの第二弾。誰にでも経験ありそうな怒りのシチュエーションが共感を呼び、そのあと怒りを爆発させる様が痛快ではあるが、「ちょっとしたことで怒る」というだけでエンターテインメントに成りえるところが、極めて日本的で面白い作品である。映画監督ではなく、TVやCM、俳優やミュージシャンとして活躍する気鋭の作家に撮らせることで、出来不出来はあるものの個性的で新鮮なエピソードが楽しめるようになっている。本作の全四話の監督もTVやCMの世界からオファーされ、いずれも初監督作である。エンディングのRCサクセションの「サン・トワ・マミー」も印象的。劇場版が四作、継いでエロティックになったビデオ版が二作作られる人気シリーズとなった。
第一話「パパの立場もわかれ」の監督はCMディレクターの本田昌広。家族に夏休みの海外旅行をプレゼントしようと四苦八苦する父親の姿を描く。小林稔侍が風邪気味という設定の父親を始終だるそうに演じる。家族からの信頼と獲得と威厳の守るため、旅行やコンサートのプレゼントという形で家族の期待に答えようとする父親。会社や家族の中で虐げられる父親という典型を捻り、バブル時代の家族のあり方を問う内容。主人公が怒りをぶちまける相手は家族なのだが、家族を崩壊させるような激しい怒り方は出来ない。穏やかに、そして静かに怒る。爆発力がないため、爽快感よりは、家族の中で立場のない父親の悲哀のようなものが感じられるエピソードとなっている。
第二話「こわいお客様がイヤだ」の監督はTVドラマディレクターの鈴木元。深夜のコンビニを舞台に、そこで働く青年の日々を夢や妄想を交えながら幻想的に描く。タイトルに少し偽りがあり、怖い客が出て来るわけではない。主人公が怪しげな客への恐れから、勝手に妄想を膨らませ、その妄想した客の行動に対して怒りをぶちまけるという内容なのである。シリーズの趣旨からやや外れる内容だが、当時既にコンビニが都市生活者の生活と心のよりどころして捉えられているところは興味深い。また、主人公を演じた堤真一や今や売れっ子の爆笑問題の若手時代の姿が観れるのは貴重かもしれない。ちなみに爆笑問題の太田は、四作目「YOU!お前のことだよ」で監督に挑戦している。
第三話「新しさについていけない」の監督は劇作家の岩松了。電化製品に疎い若いカップルが新しい物好きの隣人に電器屋に振り回される様を描く。主演はチェッカーズの藤井郁弥。岩松の盟友の柄本明や竹中直人も出演。国民が一定の豊かな生活を手に入れた先進国の経済というのは、必要の無い新製品を無理やり買わせることで成り立っているようなもの。そんな社会の中では、新しさについていけないことは悪であり、そういう人は落伍者なのだろうか? あえて声を大にして真の豊かさを世に問う挑戦的なエピソードかと思いきや、郁弥がベータがどうの、エルカセットがどうのとぼやくくだりを観ると、ちょっと意味合いが違うようである。新製品を売るだけ売って、責任をとってくれないメーカーに対する怒りといったといったところだろうか? 家電音痴よりは、家電好きにアピールしそうなエピソードである。
第四話「女だけトシとるなんて」の監督はTVドラマディレクターの成田裕介。結婚を逃したことをきっかけに再就職を目指すが、年齢という大きな壁にぶち当たった二十代後半の女性の姿を描く。主演は山田邦子。このエピソードで描かれているように、あからさまに就職で女性が年齢を理由に差別されることは、さすがに今はないと思われる。しかし、働きたい女性にとって、年齢によって難しくなってくる結婚や出産や子育てが枷となっているという現実がある。この根本的な解決が見出せない問題をテーマにしているだけあり、怒りのはけ口を見つけることが難しかったようで、物語はやや迷走気味である。最終的に、セクハラまがいの質問をする面接官へ矛先を向けることで落ち着く。溜飲は降りるには降りるが、お門違いは否めない。前向きなラストシーンが救いである。
<<パパの立場もわかれ>>
旅行代理店に勤める岡田は、風邪気味でしかも日曜日だというのに、得意先を訪ね歩ってクレーム処理にあたっていた。岡田が籍を置く企画部が、商品になりそうな旅行パックのアイデアを出せないことへのペナルティであった。妻の夏子と一人娘の亜矢子からは、日曜日にどこにも連れて行ってもらえないと不満が噴出。岡田は埋め合わせとして、夏休みにニューカレドニア七日間の旅を提案し、ちょうど残り三名であった社員優先枠のチケットの予約を入れた。ところが翌日、岡田は部長によってニューカレドニアのチケットの予約がキャンセルされたことを知った。得意先からチケットを譲って欲しいとせがまれたのだという。部長曰く「会社の立場も考えてくれ」 意気消沈して帰宅した岡田がニューカレドニアが駄目になったと打ち明けると、夏子と亜矢子は批難轟々。岡田は代わりにハワイに連れて行くと約束するが……。
<<こわいお客様がイヤだ>>
深夜のコンビニでバイトする梶木は、売れ残りのおでんを食べることくらいが楽しみという平凡で小心者の青年。深夜のコンピニに買い物にくる客は、何をしでかすか分からない怪しげな人ばかり。バイト仲間の鳥井は仕事をせずにマンガを読みつづけていたため、一人で客の相手をしなければならない梶木は気が気ではなかった。ある晩、梶木はふらりと店にやってきた美人の客・美香に一目ぼれ。美香に会うために梶木はつまらないバイトを続けた。美香が店にやってくれば、梶木の視線は彼女を追いつづけ、客が万引きしていても気が付かないくらいだった。美香に良いところを見せたかったのか、梶木は勇気を出して、店内に犬を連れ込んだ客に注意をした。自分の変化に気を大きくした梶木は、美人のレジを打つときにちょっとオマケをしてあげるが、特定の客に贔屓したことで他の客から激しく批難されることに……。
<<新しさについていけない>>
田舎から東京に引っ越してきた新婚夫婦・高橋秋男とむら子。部屋の片付けが一段落したところで、引っ越したらはじめに聴こうと決めていたユーミンのレコードをかけた。が、スピーカから出てきたのは、ガリガリという雑音。どうやら、引越しのトラックの振動でレコード針が傷んでしまったようだ。秋男とむら子は早速、新しい針を買いに行くが、今やCDの時代。レコード針は売っていなかった。部屋に掃除機をかけ、ベランダで洗濯機を回していると、隣りに住む男・寄合が騒音のことで苦情を言いにやってきた。家に上がりこんできた寄合は、洗濯機も掃除機も古い製品であることを確認して渋い顔。さらには、レコードやベータのビデオがあることにはびっくりした様子だった。秋男は思い切ってCDプレーヤーを買うことにし、翌日、秋葉原に出かけた。電器店の店員にすすめられるまま、五十万近い買い物をして手に入れたのは、ビデオ、テレビ、洗濯機、掃除機、そして、CDプレーヤ。届いた電化製品が並んだ部屋はすっかり様変わりしたのだが……。
<<女だけトシとるなんて>>
独身キャリアウーマンの瀬間理恵は、もうすぐ二十七歳。自分より年下の友人の結婚式を出て、焦りを感じた理恵は、付き合っている同僚の登に結婚を迫ってみるが、何かと理由をつけてかわされてしまった。登に見切りをつけ、その勢いで会社も辞めた理恵は、故郷にUターンして新たに職を探すことにした。両親は早速、見合い写真を見せてくるが、「あせることはないさ」と、まだ一人で働くつもりでいる理恵に一応の理解を示してくれた。街で出くわした旧友の光子は結婚して五歳になる子供がいたが、夫を交通事故で亡くして、女手ひとつで頑張っているようだった。光子から勇気をもらい、就職活動に邁進する理恵だったが、二十七歳という年齢の壁は思いのほか厚いのだった……。