収監を目前に控えたヤクザの組長の夢を叶えるため、
子分たちが企んだジェームズ・ブラウン誘拐計画の
意外な顛末を描く人情コメディ。
ゲロッパ!
GET UP!
2003
日本
112分
カラー
<<解説>>
井筒和幸が『のど自慢』とそのスピンオフ『ビッグ・ショー! ハワイに唄えば』の後に撮った作品。主演を西田敏行として、R&Bのスター、ジェームズ・ブラウンに憧れるヤクザの親分を中心にした人情コメディである。生き別れた娘に常盤貴子。その他、岸部一徳、山本太郎、益岡徹、ナイナイの岡村隆史など、テレビでお馴染みの俳優・タレントがそろった。
収監を目前に控えたヤクザの組長の夢を叶えるため、子分たちはジェームズ・ブラウンの誘拐を企てる。一方、親分には生き別れた娘との再会のチャンスが訪れていた――人情喜劇に任侠映画、そっくりショーに政府の陰謀。闇鍋のように様々な要素をぶちこんだ奇想天外さと、疾走感と躍動感のあるストーリー展開に挑んだところに意欲が感じられる。群像劇的なスタイルや、勘違いやすれ違いでつなげていく筋運びの妙は三谷幸喜を思わせるが、都会的な三谷に比べると猥雑な脚本は関西風。人間のおかしみに的を絞ったユーモアと、そんな人々がほろりとさせるドラマを見せるあたりに、「口の悪い人間讃歌」という井筒のテイストが出ている。ドラマがストーリーに引きずられているきらいがあったり、西田の体調不良でクライマックスがいまひとつ弾けていないなどの難はあるものの、あたたかく爽快なコメディに仕上がっている。
ちなみに、親を励ますためにスターをホテルから誘拐しようとする設定の作品に、クリス・コロンバスの『ハートブレイクホテル』(こちらはプレスリー)があるが、おそらくは偶然の一致だろう。
<<ストーリー>>
そっくりショーのプロモータの上原かおりは、幼い頃に母に死なれて以来、天涯孤独だったが、今は娘の歩と二人でそこそこ幸せに暮していた。だだ、男運が悪く、歩の父親も妻子持ちだったため、未だ独身だった。
名古屋でのショーのため、美空ひばりや森信一のそっくりさんと新幹線で移動中のこと、かおりは車中でガラの悪い中年男とすれ違った。ジェームズ・ブラウの“セックス・マシーン”に合わせて踊り狂うその男、羽原大介は“羽原エンタープライズ”を束ねる大阪のヤクザの親分だった。
二日後に収監を控える羽原には二つの心残りがあった。一つは、大好きなR&Bの王様JBことジェームズ・ブラウンの名古屋公演を観に行くこと。もう一つは、二十六年前に生き別れた娘に一目会うことである。刑務所に入れば、五年は娑婆に出ることはできないだろう。
羽原は太郎たち三人の組員に組を解散することを宣言した。タカギの生活などしたことがない太郎たちは、羽原の決意が固いことを知ると、羽原の兄弟分である叔父貴の金山正男に泣きついた。金山は羽原の想いを汲み取り、JBと会うことが出来れば考えが変わるので、と冗談半分に言った。
その言葉を間に受けた太郎たちは、JBが何者かも分からず、本人を誘拐することを決意。JBに詳しい美容師によれば、本人は名古屋市内のあるホテルに滞在しているという。
名古屋に向かった太郎たちは、パーマ用の“オカマ”を運び込もうとしていた配達員を脅かし、彼らに代わってホテルに潜入した。そして、ちょうど出くわした黒人男が、金山から借りた写真と同じ顔と髪型だったため、その男を捕まえトラックに押し込んだ。
太郎たちが押し入ったホテルには、明日に公演を控えたかおりがそっくりさんたちと一緒に泊まっていた。彼女はショーの目玉の一つであるJBのそっくりさんのウィリーが、予定の時間になってもまだホテルに現われないことにやきもきしていた。そう、太郎たちが誘拐したのはJBではなくウィリーだったのだ。
金山から大目玉を喰らった太郎たちは、ウィリーをホテルに返しに行くが、その途中、二人組みのスーツの男から職務質問を受けた。「もう手に入れたんだろう」と太郎に詰め寄る男たちは、「内閣執務室」の名詞を持っていた。訳が分からない太郎たちは、トラックを降りてスーツの男ともめていたが、その隙に配達員とウィリーにトラックで逃げられてしまった。
その頃、羽原は情報屋の裏の顔を持つオカマの寿司屋の大将から、長年探し続けていた娘の住所が、住基ネットから判明したことを知らされていた。翌日、羽原は心を躍らせながら、東京の“芸術の森”に暮らす娘に会いに向かった。娘の名前は“かおり”だった。
一方、金山はJBの名古屋公演の関係者に電話をかけ、直接、交渉に出るが、相手にしてもらえなかった。その時、昨晩の出来事を思い出していた太郎は、スーツの男たちが躍起になって探しているウィリーが金になるかもしれないと考えた。早速、金山と一緒にそっくりショーの開かれる“ラグーン蒲郡”に向かった。
ショーの控え室に乗り込んだ太郎たちは、そこにいたかおりに、ウィリーを貸すよう迫った。そのやり取りをそばで見ていてウィリーは殺されると思い、ショーを放り出して逃げ出してしまった。太郎は、かおりが好みのタイプだったため、皆を代表して、ウィリーを探し回る彼女の後をつけまわすことに。
一方、金山の前には、ウィリーを探しに来たスーツの男たちが現われた。スーツの男たちの必死な様子を見た金山は、取引に必要な金額は「一本」だとカマをかけた。
ちょうどその頃、かおりの家を突き止めた羽原は、意を決して訪ねるが、そこにはかおりはおらず、留守番をしていた歩と、歩の世話を頼まれていた近所の佐藤さんしかいなかった。歩は、突然、現われたヤクザの親分に動じる様子もなく、名古屋のかおりに電話をかけて事情を説明するが……。