亡き親友の娘の婿探しに奔走する中年三人組と
自分の再婚よりも娘の幸せを願う未亡人の姿を描くドラマ。
秋日和
1960
日本
128分
カラー
<<解説>>
小津のカラー四作目。娘の結婚という小津の定番の題材を扱っている。『晩春』では、男やもめが一人娘を嫁に出すという物語たったのに対して、親を未亡人に置き換えた女性版とでもいうような内容である。結婚という一区切りで親離れと子離れを描いているのは、共通しているが、『晩春』と比べてみると、男親と女親の違いが顕著に現れているようである。両作品の間でやや時代が離れているというのもあるが、時には姉妹のようでもあり、時には友達のようでもある母と子のかろやかな関係は、非常に現代的である。
最先端の女性の姿として、彼女たちの社会進出も大きく取り上げられている。司葉子演じる娘は、商事会社に勤めるオフィス・ガール。モダンな髪型や颯爽としたファッションも象徴的である。原節子演じる母親も、服飾学校の手伝いとして、講師の職を持ち、立派に自立。そんな中、新しい感覚を持つ現代女性の代表として登場するのが、岡田茉莉子演じる司の友達。ざっくばらんなものの言い方や行動力で、物語の後半で男たちをさしおいての大活躍である。
女性の登場人物が輝いてるの対し、男衆はというとやや頼りなく、情けない感じである。佐分利信、中村伸郎、北竜二が演じるオヤジ三人組は、亡き親友の娘の恋愛と結婚の行方に、本人以上にやきもきするといった女々しさ。「結婚と恋愛は別」と自由恋愛を宣言する司とのジェネレーション・ギャップにまごつく始末である。このオヤジ三人組のやり取りがユーモラスでしばしば笑いを誘い、後期の小津作品の中でも特にコメディの印象が強いものにしている。そんなオヤジたちの姿には、情けない男性の自省も感じさせながらも、女性に圧されがちの男性を応援するような、愛情も感じさせる。
<<ストーリー>>
三輪の七回忌に、学生時代からの親友である間宮、田口、平山の中年男三人と、三輪の妻の秋子とその娘のアヤ子が集まった。秋子とアヤ子は三輪が亡なってから、母ひとり娘ひとりで暮らしていた。アヤ子は今年で二十四。適齢期である。アヤ子が美しく成長しているのを見た田口たちは、彼女に嫁へ行くことを強く勧めた。こんなことを話したのは、田口にあてがあったからだ。東大出で大林組に勤める二十九の青年である。田口はその男を紹介すると約束するが、当のアヤ子は静かに笑っているだけだった。
秋子とアヤ子が帰った後、田口たちは、秋子のことについて話し合った。田口たちが大学にいた頃、秋子は薬屋で働いていた。田口たちは、美しい秋子を目当てに、よく入りもしない薬を買いに行ったもの。だが、結局、田口たちは秋子を三輪に奪われてしまった形になったのだった。「きれいな女房を持つと、男も早死にするものだねぇ」と笑いあう三人。それにしても、秋子はもう四十をとうに越えたというのに美しい。それに、最近は以前とはまた別の色気が出てきたようだ。三人の中で一人気のない振りをしている間宮も、それを感じていたことを認めるのだった。
例の東大出の青年は、田口の妻ののぶ子の友達の弟だった。帰宅した田口は、青年のことをのぶ子に話すと、彼は既に結婚することが決まっていた。他に良い男はいないものかと思案するが、思い当たるところはなし。折りしも、自分の娘の洋子が夫と喧嘩をして実家に帰ってきていたが、アヤ子に妙な思い入れのある田口にはの頭の中は、アヤ子を変な男にやりたくないという思いが占めていた。のぶ子から、秋子とアヤ子のどちらが良いかと尋ねられ、「アヤ子」と答える田口。だが、のぶ子は、本当は田口がまだ秋子のことが良いと考えているこを見透かしていた。
間宮の会社に、この間の礼をしに秋子が訪ねてきた。間宮は秋子と食事を一緒にとりながら、田口の件が駄目になったことを聞かされた。田口は昔から、そういういいかげんな性格なのだ。実はあの時、間宮にも紹介のあてがないわけでもなかったが、田口が言い出した手前、黙っていたことがあった。間宮の会社にいる後藤という青年のことである。バスケット部でキャプテンをして、確か入社五年目程。早稲田出だった。帰宅した間宮は、妻の文子から、秋子のことを訪ねられ、妻の手前、「きれいだったが、アヤちゃんの方が良い」と答えた。だが、文子もまた、夫がまだ秋子のほうが良いと思っていることは分かっていた。
帰宅した秋子は、アヤ子に田口からの紹介の件は駄目になったが、代わりに間宮が紹介してくれることを伝えた。後で間宮の方から後藤の履歴書を送ってくれる手はずになっていた。だが、アヤ子は、断って欲しいと秋子に言った。履歴書まで送ってもらってまで、断ることになることになるのは、心苦しいからだというのだが、秋子はアヤ子に好きな人でもいるかと勘ぐった。秋子に追及されたアヤ子は、好きな人はいない、ときっぱりと言った。そして、「もう少しこのままがいい。だから仲良くしましょうよ」と秋子に握手を求めながらも、「でも本当に好きな人が出来たら別。春は長いほうが良いもの」などと言った。
服飾学校で講師の手伝いをしている秋子は、校長の桑田夫妻から突然、見合い写真を見せられた。アヤ子の相手としてどうかということだったが、秋子はアヤ子に結婚する気がないことを告げて、丁重に断った。一方、アヤ子は、間宮が欲しがっていた三輪の遺品のパイプを届けるため、会社を訪ねていた。間宮のオフィスには、ちょうど、ハンサムな青年が書類を届けに来たところで、間宮はアヤ子を青年に「そのお嬢さんだよ。君がことわられたのは」と紹介。この青年が例の後藤だった。アヤ子は変な紹介をされたことで、ちょっとむくれるのだった。その夜、秋子とアヤ子は買い物ついでに一緒に外食をした。秋子は、「あなたがお嫁にいっちゃうと、こんなこともそう出来なくるわね」と感慨深げ。今夜は秋子がやたらと結婚の話を出すことをうるさくちょっと感じていたアヤ子は、「いかないわ。このままでいいもの」と言い張るのだった。
アヤ子は商事会社に勤めていた。入社以来の付き合いである同僚の重子が晴れて結婚することになり、同期の百合子たちとハイキングで送別会を開いた。その時、アヤ子は同僚の杉山から後藤のことについて尋ねられた。実は杉山と後藤は大学の同級生だった。杉山はアヤ子に、自分から改めて紹介するから、後藤のことを考え直すように頼んだ。数日後、アヤ子は百合子とこっそりオフィスを抜け出し、ハネムーンに向う重子が電車で通りかかるのを見た。手を振ってくれる約束だったが、重子はこちらに気付く素振りもなかった。がっかりした百合子は、「結婚なんてつまらない。私たちの友情が、結婚までのつなぎだったとしたなら、さみしいじゃない」と言った……。