男はエンパイア・ステート・ビルの展望台で出会った女を成り行きで部屋に誘う。
が、そこへ元婚約者の父親が現れ、二人の恋の行方はややこしいことに。

月蒼くして

THE MOON IS BLUE

1953  アメリカ

99分  カラー



<<解説>>

舞台劇の映画化した、女性の貞操を巡るロマンティック・コメディ。主人公の建築家にウィリアム・ホールデン、元婚約者の父にデイヴィッド・ニーヴンという豪華キャストに加え、ヒロインは新人のマギー・マクナマラ。おしゃべりな女の子を愛嬌いっぱいに好演しているが、その後、数本の映画に出演しただけで、大きな活躍はなかったようだ。
主人公の建築家がエンパイア・ステート・ビルの展望台で、偶然に出会った女優の卵は、恋愛には真面目そうな女性。ところが、自宅で一緒に食事をとることになった彼女は、偶然やってきた元婚約者の父親をメロメロに。彼女がちょっと八方美人だったせいで、偶然が偶然を呼び、誤解が誤解を生んでいく様をテンポ良く描いていく。
冒頭とラストのエンパイア・ステート・ビルの場面の他は、主人公の部屋の中の場面がほとんど。部屋に登場人物がせわしなく入れ替わり立ち代りしながら物語が展開していくところは、舞台の演出や雰囲気をそのまま映画に持ち込んでいるようだ。そうしてかもし出された適度な緊張感が、タイトな上演時間を一気に見せていく。
混乱のワリを食うのは、いつも間が悪い主人公。一方、周囲が大変なことになっているのを知って知らすが、女優の卵はおしゃべりに夢中。二人の温度差がなかなか可笑しいが、誤解させたりハラハラさせたりするることで男をひきつけていく女の魔性を、明るく楽しくさらりと描いてみせているところが、本作の本質だったりするのかもしれない。



<<ストーリー>>

霧の立ち込める日、エンパイア・ステート・ビルの展望台で、女優の卵のパティ・オニールと建築家のドン・グリシャムが出会った。たちまち意気投合した二人は、一緒に食事に出かけることに。
街に繰り出そうとという段になり、ドンの上着のボタンがとれていることに気付いた。ボタンを縫い付けるため、いったんドンの部屋に行くことになった。パティはドンにヘンな気を起こさないことを約束させ、警戒しながらも部屋までついて行った。ちょうど雨が降ってきてしまったため、結局、食事も部屋でとることになった。
と、そこへ一人の紳士が訪ねてきた。紳士は、ドンが別れたばかりの元婚約者シンシアの父親であるデビッド・スレーターである。三人で夕食をとっている間、ドンがパティを部屋に連れ込んだことが、偶然、シンシアに知られてしまった。ドンは、怒るシンシアときっちりと話をつけるため、出かけていった。
ドンが出かけている間、パティはスレーターと楽しくおしゃべり。スレーターも、風変わりなパティをたいそう気に入った。裕福なスレーターは機嫌が良くなったついでに、パティにお小遣いとして600ドルをプレゼントするが……。