ベトナム後遺症に苦しんだ末、反戦運動に身を投じるようなった
帰還兵ロン・コヴィックの実話を映画化。
7月4日に生まれて
BORN ON THE FOURTH OF JULY
1989
アメリカ
145分
カラー
<<解説>>
ベトナム志願兵から反省運動家に転じた青年ロン・コヴィックを実話を基づきセンセーショナルに描いたシリアス・ドラマ。監督は、アメリカ保守派に対して挑戦的な政治色の強い問題作を連発しつづけるオリバー・ストーン。主演は人気のスター俳優のトム・クルーズ。彼の起用は、地味で暗いドラマであるため、興行を気にしたのだと思われるが、告発をネタに商売するストーン監督のこと、けっこう確信犯かもしれない。
物語は、ロン・コヴィックが愛国心を育んだ少年時代から、自ら兵士として身を投じたベトナム戦争時代、そして、重傷の後遺症で下半身不随という傷害を負って帰国後、反戦運動に目覚めて体験記を出版するまでの半生である。帰還兵がいかにして反戦運動に転じていったかを、その流転の人生と心境の変化が丁寧に描かれて、反戦映画というよりは、人間ドラマという趣が強い。
同じくベトナム戦争を批判した作品である『プラトーン』では、自身の体験に基づいただけに、良い意味でも悪い意味でも個人的な思いが強く出過ぎていたが、本作は、他人の体験を借りているせいか、ベトナムに対して距離が置かれているようである。帰国後のエピソードでは、ストーン監督の豪快な演出が相まって、主人公の憤りを我がことのように過激に描いているが、その一方、主人公が反戦ムードから取り残されるように孤独になり、次第に自棄的なっていく様が冷めた視線で描かれている。
結局、ロン・コヴィックが何に腹を立てていたかというと、大儀不明のベトナム戦争でも、それをいつまでも続けている政府でもなく、故郷に帰ってきたら価値観がすっかり変わってしまっていたということで、それ以上でもそれ以下でもないようである。彼が故郷に気持ちよく迎えられいたなら、はたして反戦運動に熱心になっただろうか? 孤独でやさぐれていた主人公が、家族や友人への怒りを矛先を政府に向け、反戦運動に生きがいを見出すようになる様には、そんな皮肉めいた問いも含まれているように思われる。
<<ストーリー>>
46年のアメリカの独立記念日に生まれたロン・コヴィック。ロングアイランドの保守的な町の保守的な家庭で育ったロン少年は、将来、戦争で祖国に為に闘うことに憧れを抱いていた。
67年。ベトナム戦争に志願兵として赴いたロンは、敵の奇襲に混乱し、誤って部下の兵士ウィルソンを撃ち殺してしまった。上官に事実をうやむやにされたロンは、戦闘中に重傷を負い、止む無く帰国した。
ロンは怪我の後遺症で下半身が麻痺し、二度と歩くことが出来ない体になってしまった。さらに、収容された軍の病院で、兵士と尊敬されないばかりか、人間としてまともな扱いを受けず、情けない思いをするのだった。
69年、ロンはようやく故郷の町に戻ることが、世間はすっかり様子が変わってしまい、反戦ムード一色となっていた。昔のガールフレンドのドナも、反戦運動に積極的に取り組んでいて、暖かく迎えてくれるはずの家族も、不具者となったロンを恥じる始末だった……。