自殺を手伝ってくれる人を捜し求める男の姿を描くドラマ。

桜桃の味

TA'M E GUILASS

1997  フランス/イラン

95分  カラー



<<解説>>

児童向けの映画から監督をスタートし、『友だちのうちはどこ?』、『そして人生はつづく』、『オリーブの林をぬけて』からなる“ジグザグ道三部作”で評価を上げたイランの監督キアロスタミが、カンヌでパルムドールを受けた作品。製作、監督、脚本、編集の五役をこなした意欲作である。
自分の自殺を手伝ってくれる人を探し、車を走らせる主人公の中年男。主人公が、仕事を引き受けてくれた老人の言葉の言葉から、無意識に求めていた救いの光明を見出すまでを描く。説教臭い人生論ではなく、素朴な根源的で人間の営みを語ることで、生きることの喜びを伝えている。取り巻く社会環境の違いや、宗教観の違いのせいのせいか、「人生はこうあらねばならない」という考えに縛られがちの我々。そんな我々にとっては、忘れていた大事なことに気付かされてくれる作品になるかもしれない。
本作は大きな評価を受けたが、評価の決め手は、テーマはよりはむしろ大胆で挑戦的な手法なのかもしない。“ジグザグ道三部作”でも取り入れたドキュメンタリー・タッチが推し進められていて、ほぼ全篇、車の運転席の主人公と助手席の相手役の会話のみで物語が進行する。この非常に特徴的な手法は、「こんな映画見たことが観たことがない」という驚きを観客に与えることは必死。冒頭の主人公と兵士の謎めいた問答から、ぐいぐいと作品に引き込まれることだろう。



<<ストーリー>>

土ぼこりを舞い上がらせながら、荒地をジグザグと走る車。その車に乗る中年男バディイは、ある仕事を引き受けてくれる人を求め、道端の人たちに声をかけていった。
バディイは、一人の若い兵士を捕まえ、車の助手席に乗せ、話を切り出した。大金を見返りにしたその仕事の内容とは、「明朝、穴に向かって二十杯の土をかける」ということだった。だが、兵士は警戒して仕事を引き受けてくれなかった。
バディイは、今夜、穴の中で睡眠薬を飲み、自殺しようと考えていた。自分が死んだ後、遺体を埋めてくれる人を探していたのだ。若い兵士の他、何人もに声をかけ、仕事を頼んだが、皆に断られてしまう……。