宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘を描くシリーズ完結編。

宮本武蔵
巌流島の決斗

1965  日本

121分  カラー



<<解説>>

吉川英治の小説を原作に、監督・内田吐夢、主演・中村錦之助により映画化された「宮本武蔵」五部作の『一乗寺の決斗』に続く完結編。武蔵の弟子として有名な伊織との出会いから、巌流佐々木小次郎との船島(巌流島)での決闘までを描く。本編のキーパーソンである長岡佐渡役として、宮本武蔵を当り役として長らく演じてきた片岡千恵蔵が登場している。
宮本武蔵の物語に触れたことのない人にもよく知られている、巌流島での決闘を中心に描かれる本編。いよいよクライマックスである。しかし、前作までの荒々しいチャンバラや多人数を相手の決闘の迫力に比べると、なんとなく静かな印象の作品になっている。実際、ラストの決闘まで武蔵が戦う場面はほとんどなく、決闘を除けば、刀を抜くのは、野武士を追い払うための一度きりである。ただ、立ち回る場面がないからといって、地味だというのではない。ラストの決闘へ向けて、武蔵と小次郎の目に見えない心理戦が繰り広げられていく。まさに、嵐の前の静けさというようである。
武蔵と小次郎の対決の物語と平行し、これまでに張られて複線の解決として、又八のその後やお通の出自の秘密などが描かれていく。あらゆるエピソードが大団円に向っていくのだが、決闘のエピソードの他は、思いのほか人情味溢れるものに仕上がっている。特に武蔵と伊織の交流には微笑ましいものがあり、兵法家の修行の物語というよりは、股旅物といった雰囲気に近いものになっている。
これまで、四編にわたって武蔵の成長を描いてきた。本編では、一乗寺の下がり松で子供を殺めたことに苦しみながら、精神的にも鍛えられ、文武両道の大人物に成りつつある武蔵の姿を描いてく。とは言うものの、武蔵はすでに超人の域に達してしまっていて、その成長も前作ほど面白いものではない。本編に限っては、武蔵よりもライバルの小次郎の方が人間的に魅力的に描かれているようだ。精神的な未熟さゆえに、プレッシャーと焦りから、試合前にして敗北の二文字に取り付かれていく小次郎。天才の武蔵と秀才の小次郎の対比が本編のもっとも面白いところだ。



<<ストーリー>>

一乗寺での吉岡一門との死闘の後、宮本武蔵は比叡山に匿われていたが、僧に追い立てられ、再び修行の旅に出た。武蔵は、沢庵の案内で瀬田の唐橋にやってきたお通と、雄滝雌滝で再会を果たすも、自らを律するように、彼女を厳しく突き放すのだった。
お通と別れた武蔵はある村で小童・伊織と出会った。一人でいた伊織に身の上を尋ねると、彼の父親は先頃亡くなったばかり。姉がいたらしいが生き別れて身寄りがなかった。これからひとりで生きていかなければならない小童の姿に心を打たれた武蔵は、伊織としばらく村に留まる決意をした。武蔵は村人にからかわれながらも、伊織と一緒に荒地を懸命に耕した。
伊織の父は侍の出で、伊織自信も将来は侍になることを夢見ていた。武蔵と耕した田が二俵の米を実らせた秋の頃、伊織は、武蔵が米を納めたら村を発つつもりでいることを知った。伊織は武蔵について旅に出ようと思い、寺の和尚に預けていた父の形見の巾着を返してもらったのだった。
武蔵の出発の前夜、村に野武士が現れ、米倉を襲った。伊織から報せを受けた武蔵は、米倉に駆けつけ、卑怯な野武士をひとりで片付けたのだった。ちょうど寺に宿を借りていた細川家の家老・長岡佐渡は、野武士を倒した若者が、あの宮本武蔵だと知り、一目会いたいと思った。だが、翌朝、佐渡が伊織の家を訪ねると、村人への礼の手紙が残されているだけで、家はもぬけの空だった。
武蔵は伊織を連れて江戸にやってきた。町で研ぎ師を見つけ、刀を預けようとした武蔵は、店の主・厨子野耕介から「斬れるようにしたら良いのか?」などと妙なことを尋ねられた。よく話を聞けば、「研ぎべきは刀ではなく魂である」という侍の心構えの確認であった。主にその教えを与えたのは、武蔵もよく知る本阿弥光悦であった。厨子野に刀を預けることになった武蔵は、店の奥に三尺の大竿を発見した。まさしくそれは、佐々木小次郎の愛刀の物干竿に相違なかった。
耕介の店に物干竿を受け取りに向った小次郎は、そこに武蔵の刀があることに気付いた。小次郎は自ら編み出した兵法・巌流の道場を近くに開いていた。その門下には、武蔵への敵討ちに燃える本位田又八の母・お杉もいた。小次郎から武蔵が近くにいると聞いたお杉は、男衆たちと一緒に耕介の店に現れる武蔵を待ち伏せた。武蔵は刀を取りに現れたが、後をつけられている気付かれ、まんまとまかれてしまうのだった。
佐渡は家老・岩間角兵衛から、小次郎を細川家の剣の指南役へ推挙したいとの相談をを受けた。佐渡は小次郎という人間を直接見極めたい考えた。だが、佐渡に推挙を蹴られ、自分の評判に傷がつくことを恐れた小次郎は、直接、細川忠利の前で剣の腕前を披露。確かな腕を見込まれた小次郎は、指南役として細川家にかかえられることとなった。
一方、武蔵と伊織は曝露の宿に留まっていた。武蔵を快く思っていなかった馬丁の熊五郎と仲間たちも、箸で蝿を捕らえるという荒業を見せ付けられると、彼の子分になった。ある日、熊五郎たちは、武蔵を尋ねる高札を立てていたお杉ら巌流の門下の者たちと一悶着を起こし、そのことがもとで、お杉に武蔵の宿が知られてしまった。お杉たちが宿に押しかけてきて大騒ぎになるが、その騒ぎの最中、宿の前にひとつの籠がつけられた。将軍家より武蔵を迎える籠だった……。