70年代のアニメ「新造人間キャシャーン」の実写映画化。
万能細胞の研究から偶然生み出された“新造人間”たちの争いを描く。

CASSHERN

2004  日本

141分  カラー



<<解説>>

70年代に放送されていた竜の子プロのアニメ「新造人間キャシャーン」を実写映画化した作品。人気歌手・宇多田ヒカルの当時の夫・紀里谷和明が監督するということで大変な話題となり、結果、スマッシュヒットした。ミュージックビデオのディレクターとして活躍していた紀里谷の第一回監督作品であり、その映像感覚が活かされた異色のSFドラマとなっている。
物語は、脚本も担当した紀里谷が原作を独自の解釈でアレンジしたもので、戦争で荒廃した世界を舞台に人造人間たちの争いが悲劇的に描かれていく。当時、社会的に注目を集めていた万能細胞をモチーフとしたと思われる“新造細胞”なる概念が登場。原作ではサイボーグであった主人公とロボットであった悪役が、共に“新造細胞”の研究から偶然に生み出された“人間ならざるもの”であるという設定になっている。新造人間が死体から生み出されている点や、新造人間が人間に反旗を翻すのが愛に飢える故であることなど、「フランケンシュタインの怪物」の物語との共通点が見出せる。
公開当時、映画としての完成度についての悪評がバッシングに近い形で喧伝された。確かに、映画としての及第点に達しているとは言いがたい作品である。アクションパートはともかくとし、ドラマパートを描くノウハウを監督をもっていなかったのか、ミュージックビデオの手法で割られたようなカットはズタズタで前後がつながっておらず、誰が何処で台詞をしゃべってるのか判然としないのは致命的。内容を追うのにとにかく骨が折れる。普通の神経の持ち主ならば、早々に真剣に観賞することを放棄してしまうだろう。
お世辞にも出来が良いとは言えないからといって、決して悪い映画というわけではない。監督が描きたいイメージやメッセージことが多すぎたからこういう結果になってしまったというのは言い訳だとしても、少なくとも何かを伝えようとする監督の情熱だけはひしひしと伝わってくるのである。原作にややマイナーな作品を選んだのも、幼少時代の監督が影響を受けたこの原作に、そうとうの思い入れがあったからに違いない。愛を求めながら傷つけあい、結果すべてを奪われるという絶望的な世界をアイロニーとすることで、描き出される愛に理想の世界。監督は出来る限りの詩的な台詞と映像を尽くし、観客に伝えようとする。メッセージもそれを伝える手段も拙いながら、それらは近年のどんな映画よりも誠実に感じられはしないだろうか。
もう一つ本作が評価されても良いところは、意外にも俳優のポテンシャルが引き出されているところだろうか。作品全体の暗いトーンに較べて、登場人物のテンションが高いのが特徴で、俳優も大仰でケレン味溢れる舞台的な演技を披露している。このような芝居は観客の方に照れのようなものが生じまいがちだが、日本と似た近未来的な異世界を舞台が丁寧に作られていることこともあって、違和感なく安心して楽しむことが出来る。悪役の人造人間になりきった唐沢寿明のぶっとんだ演技はだけでも観て損はないだろう。唯一抑えた渋めの演技の寺尾聰は物語の引き締め役。ミッチーもなかなかの健闘である。



<<ストーリー>>

50年続いた世界戦争は、ヨーロッパ連合を破り大亜細亜連邦共和国が勝利を収めたが、民族優位主義を掲げる政府による差別や弾圧が進み、それに対抗するテロが各地で勃発。特にユーラシア第七管区の戦闘は苛烈を極めていた。
戦争が残したものは、環境汚染や科学兵器の使用による生物への深刻な脅威で、再生医療の発展が世界の急務だった。医学博士の東は、重病の妻ミドリを助けるために、研究に没頭し、ついに“新造細胞”の理論を発見した。それは、人体のあらゆる部位に変化できる万能の細胞であった。東は新造細胞理論を学会で発表するが、国家がタブーとする“オリジナル・ヒューマン”なる存在に抵触するその理論は、公的に認められる期待は出来なかった。
理論の完成まであと一歩のところで研究を阻まれた東に、ニッコーハイラル社の内藤薫という男が接触してきた。内藤は軍部が新造細胞に興味を持っていることを教えた。軍部に協力すれば、陸軍本部で本格的な研究に取り組むことが出来ると言うのである。
その頃、東の息子・鉄也が、親友の科学者・上月の娘のルナと婚約した。だが、家族を省みずに研究に打ち込んできた東に反発する鉄也は、医療の道へ進むことを拒み、戦地へ赴いていったのだった。
それから一年後、鉄也は第七管区の前線で、テロリストの母子を射殺。一方、東は、研究所の水槽に人体パーツの培養しながら、新造細胞の研究をすすめていたが、未だ完成にはほど遠かった。ミドリの病状は悪化し、今や目がほとんど見えない状態だったが、東は、研究に呼び出した上月に、ミドリの命が尽きるまでに新造細胞の完成を間に合わせることを約束した。その時、東のもとに訃報が届いた。鉄也が爆発に巻きこまれて、戦死したのだ。その報せはミドリのもとにも届いていた。
鉄也の葬儀は軍部が執り行うことになり、遺体が陸軍本部に運ばれてきた。その時、東の研究所に天空から稲妻状の物体が落下し、人体パーツの浮かぶ培養液の水槽の中に突付き刺さった。すると、活性化した人体パーツが合体し、次々と人間の形をした“新造人間”が誕生した。その異常な光景を目の当たりにて、恐怖にとらわれた内藤は、軍部に緊急事態を発令した。新造人間たちは駆けつけた兵士によって、次々と“処分”されていった。
兵士の襲撃から脱出した新造人間の一人アクボーンは、鉄也の葬儀に出席するために陸軍本部に来ていたルナに見つかった。だが、ルナは言葉の喋れないアクボーンを兵士たちから庇った。
別の新造人間のブライ、バラシン、サグレーたちは、陸軍本部に車でやって来たミドリと遭遇。陸軍本部での出来事を知らないミドリは、兵士たちに撃ち殺されていく新造人間たちの遺体にすがりつき、その死を悼んだ。ブライたちは、ショックで倒れてしまったミドリを助け起こした。そして、兵士たちとは違い自分たちを人間として扱ってくれたミドリを連れ、姿を消した。
一方、東は、棺から鉄也の遺体を担ぎ出すと、上月の制止を無視して、培養液の中に漬けた。すると、鉄也は、新造人間が命を宿したとの同じように、息を吹き返したのだった。
上月の邸に預けられることになった鉄也の体は、なぜか筋肉が異常に発達していた。上月は、筋肉が皮膚を破らないよう、彼が独自に開発していたボディスーツを鉄也に着せることにした。
ブライたち新造人間たちは、雪山に放置された戦争時代の城を住処とすることにした。誕生したばかりの新造人間を殺し、生命の価値を蔑ろにした人間たちに激しく憤るブライは、逆にこちらから人間たちを皆殺しにすることを決意。ここに、新造人間の王国を築くことを高らかに宣言した。ブライたちは、軍事技術に従事する科学者たちを連行して来て、ロボット兵士を開発に従事された。そして、量産されたロボット兵士たちを人間世界に送り込み、次々と町を破壊していった。
ブライが目を付けた科学者には上月博士の名前もあった。上月邸は博士を捕えに来たサグレーとアクボーンの襲撃に遭うが、その時、ボディスーツを纏った鉄也が立ち上がった。サグレーを倒した鉄也は、上月の死を見届けると、ルナに連れられ邸を出た。だが、今や町はロボット兵士たちに蹂躙されていて、上月とルナも追い詰められてしまった。鉄也はルナを抱き上げると、強靭な筋力を発揮して、猛然とロボット兵士に反撃を開始した。迫り来るロボット兵士を次々と破壊していった鉄也は、ロボット兵士を指揮していたブライと対峙した。
その頃、陸軍本部では上条将軍をはじめ軍幹部たちが、いつまで経っても研究成果を出さない東と内藤を叱責していた。だが、将軍の息子の上条中佐は、軍幹部の老人たちの関心事が自分自身の延命にあり、新造人間のロボット兵士という目の前の脅威ではないことに憤っていた。会議の席上で軍幹部を殺害した上条中佐は、連邦の指揮を握ることを宣言した。
ブライに破れビルに叩き付けられた鉄也は、ルナと身を寄せ合うように郊外に向けて歩き続け、汚染された森へやってきた。ルナは衰弱して倒れてしまうが、防毒マスクを着けた老医師に助けられ、テロリストが潜伏する町に案内された。
コゴエ病に罹っていたルナに応急処置を施したマスクの老人は医師は、かつて、この町は“キャシャーン”という守り神のおかげで平和だった、と鉄也に語った。だが、いつしか皆、疑うことに支配され、自己防衛の名目で侵略を始めてしまったのだという。
その時、クーデターを起こした上条中佐の軍隊が町に攻め込んできた。自分も軍隊の仲間であっことを思い出した鉄也は、老医師にそのことを告白すると、町を攻撃から守ることを決意した。
町には、サグレーの仇を討つため鉄也を探しに着ていたバラシンとアクボーンもやってきていた。鉄也は自ら“キャシャーン”を名乗り、町の門の前でバラシンと一騎打ちに。だが、鉄也がバラシンと死闘を繰り広げているうちに門が閉ざされ、ルナとアクボーンが町の人々と共に軍隊に連行されてしまった……。





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